【特別編】ギルドの片隅、百の乾杯
ギルドの一角にある、小さなテーブル。
今夜はなぜか、皆がそこに自然と集まっていた。
「ふぅ……今日の依頼も、なかなか骨が折れたわね」
フィーネが椅子に深く腰かけて、肩をまわす。
その隣ではルアが湯気の立つハーブティーを両手で持ち、こくんと一口。
「……でも、これで百件目なんだって。私たちが一緒にこなした依頼」
「百件……か。あっという間だった気もするし、すごく長かった気もするわ」
サティは静かに席につき、銀のカップを手に取る。
彼女の瞳に、ほんのり灯った灯火が映る。
「ねぇ、最初の頃のこと……覚えてる?」
ルアの問いに、誰かがクスッと笑った。
「サティさん、めちゃくちゃ怖かったよね。当時は無表情で淡々としてて」
「え? 今もあんまり変わってないわよ」
「ちょっと!」
笑いが広がる。
けれどその笑いの中に、言葉にしなくても伝わる温かさがあった。
一緒に過ごしてきた時間が、ひとつひとつ積み重なって、
今の「仲間」ができている。
サティは一度だけ視線を落とし、そして小さく呟いた。
「……本当に、ありがとう」
不意に口にしたその言葉に、皆が一瞬だけ驚き、そして微笑んだ。
「なによ、らしくない」
「でも……うれしい、です」
フィーネが笑って、ルアがうなずき、
サティもどこか恥ずかしそうに目をそらす。
「じゃあ、乾杯しようか。百の物語と、これからの未来に」
誰かがそう言って、カップが静かに重なる。
カチン。
夜は更けていく。
けれどその小さな音が、確かに彼女たちの歩んだ“軌跡”を刻んでいた。
このSSは、100話到達を記念して執筆した特別編です。
いつも応援してくれる読者の皆さまへ、感謝を込めて。
物語はまだまだ続きますが、ここまで歩んできた百の物語が、
あなたにとっても少しでも意味のあるものであったなら、何よりです。




