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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第1章 死神編

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《死神》とドラゴン

「ブラックドラゴン……ですか」


ギィィ……と、石の扉がきしむ音とともに開かれたボスルーム。

中に佇んでいたのは、全身を黒き鱗で覆われた巨体──魔力の塊のような《ブラックドラゴン》だった。


サティ――否、受付嬢ルリの姿を借りた《死神》は、少しだけ目を細めて笑う。


「美味しそうですね」


無論、ドラゴンが人語を理解できるわけではない。だが、侮辱されたことは察したらしい。

ゴォオオッ!!という怒りの咆哮とともに、灼熱の炎がサティめがけて吐き出される。


「危ないわね」


紙一重で後方に跳び、爆風を避ける。髪の先がわずかに焦げ、熱気が肌をなぞった。


「やっぱり……スキルなしで戦うのは厳しいわね」


低く呟くと同時に、彼女の体を覆う“ルリ”の姿が霧散する。


「スキル解除」


まばゆい光の中から現れたのは、本来の姿──サティ・フライデー。

受付嬢という仮面を脱ぎ捨て、戦場の死神が姿を現す。


「《武器創造》」


サティの掌に、淡い紫の炎が灯り、錬成されるようにして双剣が現れた。


剣身は黒曜石のように艶めき、周囲の空気を灼くような魔炎をまとっている。


「こんなこともできるのね……ふふっ」


冗談めかした声で呟くが、その表情は真剣だった。


ドラゴンはその様子を“脅威”と判断したのか、バサリと大きな翼を広げ、空中へと舞い上がる。


「逃げながら炎を吐くつもり?」


天井近くまで浮上しながら、ドラゴンは容赦なく火炎を撒き散らす。


床が溶け、岩が焼け、ダンジョン内の温度が一気に上がる。


だが、サティは一歩も退かない。


むしろ、静かに剣を構え、逆に踏み込む。


「あなたの相手もそろそろ疲れてきたから――」


ぴたり、と足を止めてドラゴンを見上げる。


「──討伐させてもらうわ」


一閃。

跳躍とともに閃いた紫炎が、ドラゴンの翼の付け根を断ち切った。


ギャァアアッ!!


悲鳴と共に、翼を失ったドラゴンはバランスを崩し、地面へと墜落する。


「よっしゃあ!」

サティは着地と同時に双剣を引き、崩れたドラゴンを見下ろした。


「これで……終わりです!」


姿を再び“ルリ”へと変え、手刀を振り下ろす。

ゴゥン……という低音と共に、ブラックドラゴンの首が斬り落とされた。


「終わり……かしら」


肩で息をしながら呟いたその時、ゴゴゴ……と、床が震えた。


「嘘でしょ。まだ……終わらないの?」


崩れたボスの奥に、もう一枚の扉が現れる。


「こんなの、聞いてないわよ……」


サティはしばし疲労のため立ち尽くしたが、やがてため息をついて、再び足を進めた。


「でも、進むしかないのよね」


* * *


その頃、外の扉前。


「ボス部屋に入ってから……結構経ってないか?」


「だな。……心配になってきたな」


ジェイルとガイは、封印の扉を前に不安そうに見つめ合っていた。


「このダンジョンのボスって、そんなに強いのか?」


「それにしても遅すぎる。……ん?」


そのとき、ギギ……と扉が開いた。


「お、終わったのか?」


2人はボスルームを覗き、言葉を失った。


――中には、すでに首を落とされたドラゴンの死骸。

さらに、奥には“二つ目の扉”が開かれていた。


「……誰かが、もう進んでる?」


「ギルドの許可なしで攻略なんてありえねぇだろ」


「でも、《死神》なら……もしかして」


ガイが顎を掻く。


「……本当に、ルリが《死神》なのか?」


* * *


その時、扉の向こうから声がした。


「あなた方は!」


ルリ――いや、ルリに変身したサティが現れる。


「俺たちを知ってるのか?」


「職員なら誰でも知ってますよ?」


「え、すみません……どなたでしたっけ?」


「……まさか、俺たちを知らない?」


違和感に満ちた会話が続く中、サティは冷静だった。


「それより、撤収しましょう。ここは危険ですから」


ジェイルとガイは顔を見合わせる。


(……本当に、彼女が“リル”なのか?)


サティが背を向けてダンジョンを去った後も、2人の疑念は拭えなかった。


「……俺は、ギルドであの子を見たことがある。でも、戦えるようには……とても」


「どういうことだ?」


「つまり、今さっきまで話してたあの少女……“見た目はリル”だったが、リル本人じゃない」


「……失敗か」


ガイが悔しげに呟くが、ジェイルは首を横に振った。


「いや、落ち込むな。姿を変えられる能力を持ってるって分かっただけでも大きな収穫だ」


「それも、そうだな」


二人はこれからの戦略を話しながら、静かにダンジョンを後にした。


――ただ一人の存在を追って。

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