05ー2カスク
従業員は知らないことだが、裏方に干渉をするという思考が、まず考えられない。
自分の価値観を押し付けてくる輩程、虫酸が走るものはないだろう。
「ちょっと話したい」
カスクが店の終わりの時間にやってきて、一人になったときを狙った様子で、話しかけてきた。
「あら、気持ち悪い方の聖騎士よね」
「……名前の方を呼べ」
「名前を覚えるのは得意でない」
「カスクだ。短いだろ」
「忘れても文句言わないでよ」
カスクはこちらを見ると歩みだし、平行に並ぶ。
「なに?」
本当に話したくて、ここへ来たよう。
「ラグナ達と会ったとき聞いた。他のことも」
「そんなことを言うためだけに来たの」
全く呆れ果てるとはこのことだ。
カスクは真剣な顔をしてまぁ聞け、と続ける。
「お前の言うことも最もだ。あいつらは知らないがおれはお前の死に様のことは納得した。確かにあれは決闘だった」
あんなに小さかったのに、覚えていたらしい。
人間にとっては、あの激闘は忘れたくとも忘れられないか。
「おれもあいつらもお前みたいに場数を踏んでねぇからな。言葉が少なからずで伝わりずらい」
「そうは聞こえなかったけど」
「お前が死んで悲しかったって言いたかったんだ、あいつらも」
「死なんて、誰にでも起こりうることよ」
「そうだな。あのときはそんな日はもっと遠くにあるもんだと思ってた」
木にはもう葉が付いていない。
もうすぐ冬が来て寒さもキツくなる。
「もう一度話せるようになって良かった」
「人間はやっぱり変ね。別人になったのに同じと認識するなんて」
「おれにとっちゃ前の人生を覚えている人間の方が希有だ」
「多分、今の私の魂が生きることを止めちゃったのね」
気がついたら、川で溺れていて死にかけていた。
つまりは、死を悟ったのだ。
死ななくとも、今後普通の人生も扱われ方もしない。
大人になったら更に酷くなり、どのみち命は儚くなっていただろう。
「私にとっては好都合よ」
「おれにも好都合だ」
「なんの?」
「人間なら討伐だの言われなくても済む」
「私を呆れさせる程嫌ってたのに、可笑しなことを言うのね」
「死んだやつを嫌う程腐ってねぇんでな」
男は曇る瞳を隠してにやりと笑った。
カスクは、言いたいことだけを言うと帰る際に送ると言われ、そんなやわではないのだが、と怪訝に思った。
しかし、撒くのも面倒だったので好きなようにさせる。
紳士のエスコートなのだが、リンテイはそんなものと無縁だったのでカスクの仕草に、なにかしらを感じることなどなかった。
「レストランで働いててなにか不都合はないか」
「ないわ。でも、人間って誰かに干渉せずにはいられないの」
「そうだな」
ぽつぽつ、とカスクは情報を少しでも得る為に続ける。
「人間に話しかけられるのは不快よ。話しかけないでって思っててもこれっぽっちも察しないのはなんなのかしら」
リンテイは、カスク達をかつての格下だが、それなりに存在で慣れているのでこうやって話している。
他の者ならば問答無用で話を聞かずスルーしていた。
しかし、カスク達は一応話を聞いてやるという気持ちと、こちらの為に働くのだという感じを敏感にも感じ取っていたので、無意識にリンテイと会話が出来る事態になっていた。
彼等にとって幸運だった。
もし、それがなければその怪力で、他所に投げ飛ばされていただろう。
「表の人達って自分が構ってやってるんだから協力するのが当然って態度なの」
愚痴になるが、リンテイにとってはいらぬお節介をされていることに、疑問を持っているに過ぎない。
そもそも、必要ないと再三言っているのに構う方が悪い。
「あんたは構われたらどうするの?」
「人によるな。顔見知り程度なら無視する」
彼女はカスクの答えに、自分の認識が間違っていないのだと納得した。