05ジョイ
しかし、ジョイはうわ言の如くリンテイリンテイと繰り返すので段々踏み潰してこの世から消してしまおうかと考慮し始める。
「ちぎゃう、リンテイなんだ。こいつは絶対リンテイだ」
「もう休め」
ジョイがラギュナと言っていた男が生暖かい目で首を振る。
「あんた達結局誰?気持ち悪いから向こうへ行って欲しいのだけど」
「なっ」
「ほらっ!な!だろ!」
ジョイが荒ぶる。
ラギュナがひきつった顔のままジョイを見て、リンテイを見つめた。
「いや、確かに、あいつはガキ大将真っ青の女王だったが……だが、なァ」
ラギュナとやらは今一納得できないといった顔をするがとっとと本題を言ってほしい。
もう待つ必要はないなとここから離れることした。
「あ、おい、待てっ」
人間風情が誰に向かって言っているのか。
舐められる、と瞬時に思った。
「あ、その、いや……おれはお前が悪魔の時代に村に居たんだが」
覚えてるよな?というニュアンスで言われてまじまじと観察していく。
「あー、そうね。確かあんたよね。そうそう。ラギュナよね」
「そこは素直に覚えてないと言ってくれれば、まだここまでショックではなかったんだが」
ラギュナ改め、ラグナと名乗る男はどよよんとした影を背負いなぜここに来たのかという説明をしてきた。
ここではなんだから、とカフェテリアに案内された。
奢りなら聞いてあげると言ったらジョイが跳ね起きて「おれが払う!」と手を挙げる。
そんなに払いたくなる要素を、どこかに感じたのか。
やっぱり変態だったか、と評価をがたんと下げた。
ジョイはジョイと名乗り、あの村の出身だと言われた。
二人とも聖騎士だと。
聖騎士が、最近の若者ブームなのは知らなんだ。
「おれのことは覚えてるよな!な?」
「覚えてたとしても覚えてない」
「ん?」
ラグナもジョイもなにを言われたのかという顔をしてお洒落なカフェテリアへ入店する。
聖騎士の格好は目立つのか女性の視線が黄色い。
「今は財布としてしっかり覚えておくから良いわ」
「何が良いのか知りたくない!」
ジョイが突っ込む。
リンテイのことをカスクから聞いて、という経緯を聞いて「カスク?」と聞き返す。
「もしかして、カスクさんの名前も覚えておかなかったのか!?」
「あの村に何人子供が居たと思ってるの」
個人名ではなく、顔だけ覚えておいただけなので名前は皆知らない。
「ほら、あんたが最初にあった聖騎士だ」
「聖騎士とかいうのは、たくさん居たからそれも分からない」
「……お前の心臓玉を持ってる」
「気持ち悪い方の聖騎士ね」
「「やめてやれ」」
彼女にとってカスクの評価がそれなのは、あまりにもあんまりだ。
カフェテリアでオーダーしたジュースが運ばれてきた。
存在は知っていたが、飲んだことはなかったので興味深く味わう。
ちゅー、と吸う。
「で、気持ち悪い方の聖騎士が私の情報をそちらに売ったのね」
いや、言い方!と二人が焦る。
「お前を探すのに、おれ達も手伝ったんだよ」
「私は望んでないのに?無駄な時間ね」
「うっ」
ジョイが精神的苦痛により膝を付きそうになる。
座っているし、人目もあるのでやらないが。
「お前の感覚では理解し難いかもしれんが、おれ達はお前が目の前で死んで今までずっと悔いてきたんだ」
その言葉を聞いた途端、リンテイは激しい嫌悪に見舞われた。
こいつらは人間だ、だから仕方ない。
「理解出来ないわ。到底ね。私の死も軽く見られたものねえ」
二人の目が開く。
「私はあの日、あんた達に悔やまれる程度の死を晒したつもりもない。誇りをもって選んだの。それを私じゃないやつがどうこう思うだなんてお笑い草」
ふふ、と珍しく声をあげて笑う女を二人は唖然とした。
そうだ、彼女は人間じゃなく悪魔だった。
価値観も全て違う。
「たった二十年しか生きてないガキが、私を理由に自分の人生生きてんじゃねえわよ」
鈍器で殴られたような衝撃が、二人を襲う。
「次会うときは、お前の為にやってきたんだ、とでも言うのかしら」
ジュースを飲み終えて、用事はなくなったのでさくっと席を立つ。
二人は呆然としているので止める人も居ない。
店先に出る。
ここはアルバイトのレストランだ。
前回の歓迎会拒否から、従業員達の視線が剣呑を帯びている。
別に、そんな些末なことはどうでもいいのだが、人間間に見られる嫌がらせというものをやられ始めた。
正直、仕事に私情を持ち込むと経営に悪影響だと思うのだが、彼らはそれらを全く考えていないと見える。
嫌がらせといっても、陰口から始まりゴミ袋が破れていたりと、給料を減らして下さいと言っているような内容だ。
もう行動推理は済んでいるので、袋を二枚用意するのも、雇用主に最近ゴミ箱が破られているので、ネズミかもしれないと告げたりして、特にこちらへは影響しない。
ネズミかもしれない、と述べたのは低い可能性もあるからだ。
レストランに雇われる際に、人間関係を構築するつもりがないことを告げているので、今更意味のない感情を向けられてもこちらは、返すものなどない。