04ー2労働
上を見ながら佇んでいるとドスドスというどこか懐かしさのある音と共に鬼神の気配を纏った男が仁王立ちしていた。
「見つけたぞ。雲隠れしやがって!」
「雲隠れじゃなくて労働に勤しんでただけよ」
「一緒だっ」
うるさいところは変わってない。
あれから成長したはずなのにどこらへんが成長したのか。
地面を踏みしてる度に息荒くその気配が強くなる。
「もう逃げんじゃねぇ」
「人間が指図ってあんた何様?」
「お前と、同じっ、人間だ……!」
びきびきこめかみを震わせる男は、頭痛がしていることだろう。
「うるさいわ。なにか用なの?」
「あるから探してた。お前に会いに来た」
「……たったそれだけ?」
「十分だろ。死んだやつが生きてんだ」
「変な習慣ね。見たのならもう帰ったらどう」
「お前な……」
カスクはぐったりした顔で睨み付けてきた。
男は女と話して過去のあれこれを思いだし、少女は悪魔だったことをしっかり思い出し、こういうやつだったなと出鼻を挫かれる思いをした。
気持ち的にはすっぱくもやもやしたもの。
悪魔的に考えれば女が男達を徹底的に痛め付けた犯人だとして、その結末は当然だと納得する。
見下している人間に好きなようにやられたらああも報復するのは決まったものだった。
「心臓玉を捨ててないのね気持ち悪い」
女のペースに飲まれながらも振り落とされまいと食らいつく。
「今更直ぐに捨てられるようなもんじゃねぇ。それよりもあのあと村がどうなったとか気にならないのか」
「ないわね。もうあそこは私の縄張りじゃないもの」
「あっさりしてるな」
「当然よ。短命の種に生まれたのに他の奴等を気にするなんて暇ないから」
リンテイはなにを言ってるんだこいつはと目を半分にする。
「お前がそう思ってんならおれからはなにも言わない」
カスクの話が区切られてお店に戻る為に元来た場所へ行く。
後ろからまた来る、と声をかけられて聖騎士とは暇な人間なのだなと月を眺めた。
いつものように、レストランで裏方をしていると新人であるが歓迎会をしたことがなかったと言い、明日しようと言われたが興味が無さすぎて一言結構よと断る。
その瞬間、いろんなものが吹き飛ぶかと思うほど空気が悪くなったが、勿論彼女は気にも止めない。
なぜなら彼女は、干渉することはあっても干渉されることが今までなかったからだ。
干渉してくるのは何故か、などという栓ないことを考えることすらしない。
一言で捨て去る女は周りの空気を感じることもなく、皆に背を向ける。
村では奴隷扱いだったので、コミュニケーションは無駄だという負の経験が悪魔的思考から抜けきらない原因でもある。
レストランから出ると知らない男が一人、出待ちのように立っていた。
そんなことも気にする必要はないと切り捨てて行こうしたがどうやら目的は自分らしく呼び止められた。
それなのに、なかなかそれ以上を語らないので無駄な時間を取られたことに酷く憤慨。
「私の時間は無限じゃないの。言うこともないのなら二度と話しかけないで」
「!……お、お前っ」
なにかに触れたのか、ふるふると体を小刻みに震わせる男。
怒って殴るか、激情して怒鳴り散らすか。
そのどれかかと思ったが、想像した行動には移さなかった。
「リンテイ~!!」
と、ただの変態だったらしく抱き付こうとしたので頬を打った。
ばちこおおおん!と乾いた空気に良くこだまし、飛びかかるようにこちらへ飛んで来た男は衝撃に耐えきれず地面へ激突した。
男が激突していくところまでを眺めていると、一分も経たないところで「ジョイ!?」という声と共にもう一人男が木の影から飛び出してジョイに駆け寄る。
こちらを睨み付けては、ジョイジョイと耳障りなことを言いながら、起こす。
「う、うう……ラギュナ」
頬がふっくら腫れているので口調が拙い。
「てめぇ!」
こっちが飛びかかられたのに、殺気を向けられる謂れはないのだが。
ゴミを見る目でいると、ジョイが続いて涙をボタボタと垂れ流し始めた。
「リンテイだァ、リンテイがいる」
「お前、打ち所が悪かったもんな」
可哀想な子供を見る目で男は、ジョイと呼んだ男を介抱する。