18された恩は忘れぬ悪魔【完】
夜の村、丑三つ時と異世界を記した書物には、なかなかハイセンスな言葉があったことを思い出していた。
少女──リンテイ。
今立っているのは時間をかけて探し出した、追い出された場所。
助けてやったというのに、恩を仇で返してきたことにより報復の手筈をじっくり計画していた。
シャロン達には勿論、なにも伝えてない。
これは悪魔のプライドというか、リンテイの生き様、又はやっぱりムカつくし許せないから、めちゃくちゃにするという個人の恨みだ。
プライドよりも、助けてあげたのに簡単に追放してくれたお礼をずっとしてあげたかった。
生き様もやはりそんなに関係ない。
色々あったにしても追放のさせ方が無法だったのだ。
正式に追い出された末路など、死しか無いはず。
それなのにホイッとされたとなれば、死刑だ。
死刑にされたリンテイが住む者たちを放っておくわけがない。
「悪魔は夜目が効くのよ」
リンテイはこの土地の出身。
なにが大切であり、命綱か知り得ている。
住人達が起きてきたところで、もう間に合わないだろう。
自身の手には、固くて簡単に折れない武器。
これを持ってすれば簡単に復讐へ移行出来るわね。
丸くて深いものがあるところへ仁王立ちして、元悪魔は得意な悪魔的弾けるような笑顔、を浮かべた。
最高の時間がリンテイを歓迎する。
三日後の新聞にはとある村の記事が載っていた。
村人の証言と不可解な事件についてだ。
自分達は不幸だと声が今にも聞こえてきそうで、見ていて愉快で堪らない。
証言の一例はこうだ。
夜中、轟音で起きた者たちは唖然とした。
篝火を持ってかけつけたものの生活に必要な井戸が壊されており、畑も作物がごっそりなくなっていた。
短時間の出来事で、夜だったことで襲ったものは影も形も、誰も目撃していない。
分かっているのは、とても計算された方法でやられたということだろう。
内容を読み込むと、にやりと隠しきれない気持ちが溢れる。
「やっぱり、これはお前の仕業なのか?」
深刻でもない声に、新聞から目を離すことなく「聖騎士は気になるの?」と逆に質問返しをしていく。
「なんとなく、やったんだろうなということを言っただけで確認じゃない。どこにも書かない。おれの胸の中にしまっておく」
「これは仮の話なんだけど、なんて.......言うわけないわよ。例えなにかを知っていたとしても。それに私じゃないからね」
ふんっ、と相手に対して鼻で笑う。
元悪魔故に、リンテイの倫理観を人間のように当てはめられても、誘導尋問に引っかかることはない。
「じゃあこれだけ聞く。すっきりしたか?」
悪魔はふふ、と口元を緩やかに上げると液体のような視線を誰にも見られることなく新聞の記事に向ける。
「この村が仮に、復興したら見学くらいしに行ってあげる」
そして、また壊す。
何度も何度も。
心が折れて、再建などする気が起きないように。
カスクは分かっていたが、と細い声量をこちらへ向けるが、気にする事なく新聞へ顔を向け続けた。
今はもう天気予報の欄と、占いの欄に気を取られて。
「カスク、あんたのラッキーカラー、緑よ。これあげる」
渡された緑の錠剤を嫌そうに受けると、男は疲れた顔を浮かべ、テーブルから離れた。
(なにを聞きにきたんだろ)
リンテイは浮かんだ疑問を一秒で消し去り、薬の改良を進める為に新聞を一つ、捲った。