17騎士にも試験
聖騎士は、文武両道と書いてあり、一定の強さが必要らしい。
そして、厳しい試験を受けているらしく狭き門もあった。
「ねぇ。聖騎士って総本山があるの?」
「ああ。試験を受けて受かると呼ばれる」
「偉そうなやつなのね」
「実際権力もあるしな」
カスクが目を細めて、なにか思い出しているのか険しい顔で答える。
嫌な思い出でもあるのかもしれない。
「やめちゃえば?」
「そういうわけにもいかねぇんだよ」
カスクが、上の命令を聞く質とは思えないが、聞いているのだから世の中分からないというものだ。
彼が頑張っているので、下僕として労ってあげようかな。
「総本山を潰したくなったら言ってね。少しくらいは手伝ってあげる」
人間にとって、たくさんの人間がいるところを更地にするのは大変だろう。
そう考えて言うと、彼は微かに笑って「そんときゃ頼むよ」と言われる。
それから、時間になって仮眠室で寝ているジョイを見に行って、叩き起こして確認すると疲れが取れている、と喜んでいた。
ラグナを確かめると、怒濤の勢いで書類仕事をしていた。
こちらに気付くと、それこそ跳び跳ねるようにこっちへ来て、是非ともまた使いたいと熱望される。
仕事の鬼と化しているラグナをかわして、リンテイは考えておく、と言って早々に部屋を出た。
やはり、便利なものに人間は食いつきやすいのだと知れる。
最後にカスクを確かめると、人魚に買ってきた大きめの水槽を眺めていた。
人魚が楽しそうに泳いでいる。
眺めているが、そこを見ていない視線だ。
ぽこぽこと音が聞こえる中、彼の近くへ寄るとこちらへ気付いていたのだろう眼がこちらを向く。
「薬の効果出た?」
「凄いなこの薬は」
「ばら蒔くつもりはないからね」
人間達にやるものなどない、と先に言っておく。
それに彼は分かっていると言って、また水槽を眺める。
リンテイも人魚が居る箇所を見て、のほほんとした空気に染まった。
いつものようにレストランと、部屋とカスク達の住むところを往復する日常を過ごしていると、新聞紙で結晶化が起こっていると載っていた。
結晶化、という単語に眉間を深くしたリンテイは、腕を組んでいた。
「ま、私に関係ないし」
関わらずと触れるのは止めて、新聞紙を畳む。
外へ出ると、カスクが出た所に居たので、進むと当然のように付いてくる。
当たり前のように付いてくるので、もう慣れた。
町中へ行くと、身なりの良い子供が食べ物を貰い、それを口に入れようとしていた。
お腹も空いたので、それをぶん取った。
「おい、なにすんだ!」
子供が取り替えそうとするが、その前に一口食べて素材をダメにする料理に、ペッとする。
「まっず。毒入りね」
ぽつりと言うと身なりの良い、確実に裕福な子供がギョッとした顔をして後ずさる。
毒入りと知らず、食べるつもりだったらしい。
なんともお花畑の脳だ。
鼻でその様子を笑っていると、カスクが急にこちらへ寄ってきて、今すぐ吐き出せと言うのでもう吐き出しわよ、と言い返す。
しかし、彼は憤怒に任せてこちらの腕を、キツく握っている。
痛くはないし、払うつもりもないので落ち着くように言い含める。
「毒は効かないわ。知ってると思ってたけど知らなかった?」
「知るか!」
怒鳴られた。
落ち着くようにもう一度言うと、カスクは手を引いて水飲み場のところへ連れていかれて、喉を洗わされる。
胃も洗うように言われて、吐くのは嫌だ。
拒否して、水を飲む場所から離れるとカスクはまだ
話しは終えていないと付いてくる。
こちらはもう、終わったことだと解毒剤を飲む程ではない。
それに、カスクに気にされるような貧弱ではない。
先程の子供が居るところを通ると、もう子供はいなかった。
命の危機を抱いて家に帰ったのだろう。
白亜のカスク達聖騎士の建物へ行く。
人魚に顔を見せて、カスクの部屋の執務室へ向かい、からからと回る椅子に座る。
そこで座って楽しんでいるのと、カスクが激しい音を立てて扉を開けるのが見えた。
自分達の部屋なのに壊したいのかな。
眺めていると、カツカツと靴音を立てて彼はこちらに寄る。
机越しだが互いに向き合う。
「どうしてお前は……お前はもう人間なんだ」
「知ってるわよ。嫌だけど仕方なく人間なのよ」
「そうだ。お前は今はもう弱い体だってことだ」
「弱いけど弱くないわ。村でだって酷使されてたのに生きてるもの」
「いつかはボロボロになってた」
カスクが、なにを言いたいのか分からない。
ぱちぱちと目をしばたかせて、首をひょこっと傾げた。
「分からない、分からないわ」
「そんなお前の面倒を見るのも、おれのやることだから分からないままで良い」
でも、毒はちゃんと解毒しろと告げられて考えてみると言う。
彼はため息と舌打ちを経て、こちらを睨み付けて、むすっとした顔で絶対だと約束させた。
最近は、ジョイやラグナ達を気に入り始めていたので、少しくらいは要望を聞いてあげようと、思い始めていた。