01ー2テリトリー
また日が出始めた頃ではあるが、ちょっと村を見回ろうかと羽を羽ばたかせる。
ゆらゆらと、風景と共に見ていると二つの影が見えた。
「?……な!」
見てみると、昨日の悪魔が幼子を押し倒しているではないか。
目頭がカッと熱くなり、女の頭を掴むと全速力で飛び、引っ掻けるように女を首ごと掴み地面にすりおろした。
──ズガガガガ!
「わー、もう、いったあい」
塵も痛そうに思えない声で、ゆるりと立ち上がる。
既に手を離しており、距離は離れている。
「よくも私の縄張りの人間に手を出したわね」
歯をむき出し、怒気をたゆらせる。
しかし、女はそんな様子をものともせず、けろりとはにかむ。
「ここの子達って擦れてなくてー、美味しそうだったもんっ」
「そう。いい度胸ね」
一旦心を落ち着かせて、朝早くの騒音に大人達も子供達も、距離を置いて関わらずこちらへ集まる。
畑仕事は早朝なので、既に起きている人しかいない。
「わあ!とっても好みの子供がいっぱーい」
本当に嬉しそうだ。
ここまでくると、この悪魔は縄張り関係なく荒らしてくるなと確信して、声を張り上げる。
「この女は!子供を合意なく襲ったばかりよ!」
女の異常性を周知させて、平和な村が突如として戦いの場に変わったことを、村人へ伝達。
村人達は、今の状況に慌てて子供達を後ろへ隠していく。
「リンテイ!」
その時、カスクに呼び掛けられて溜め息を吐く。
あんたの活躍する場はない。
「邪魔しないで……あんた。縄張りを犯す意味は分かってるわよね?」
これは確実な乗っ取りだ。
女は嬉しそうに頷く。
既に自分のものだと、認識しているその顔が腹立たしくて仕方ない。
ずっと、村を縄張りにして保ってきたのに、横から浚われるなど悪魔の沽券に関わる。
「じゃあ、決闘ね」
正直、真面目人間達のルールを守ることを前提とした決闘と違い、いつ相手がルールを破りにくるかという、掛け合いがある決闘だ。
決闘というより殴り合いに近い。
「この村、もらいますねええ」
ピンク悪魔は三又を手に持ち、リンテイも三又を持つ。
どちらも隙なくじりじりと詰め寄る。
土を蹴ったのは先か、仕掛けたのは己から。
どちらも同じ三又なのでリーチは同じ。
片手から繰り出される攻撃は今のところ互角。
と、向こうは思っているだろう。
こちらが右を出せば向こうも出す。
向こうが、ちらちら子供を見るのも不快で、女がこちらの攻撃をいなしてから別方向へ飛ぶ。
ほら、やっぱり正々堂々勝負をするわけがなかった。
「悪魔め」
カスクが札を掲げて、ピンク悪魔の向かう子供と大人の前に出る。
その札は果たして、下手な方ではないように祈る。
カッと光る札は、漸く効力を発揮して女が狙うもの達を包むように弾く。
女は不満そうにカスクを見ているので、一太刀入れた。
スバッと切り裂かれる髪。
女は髪が切られると、今までの態度から豹変させた。
自称可愛いと思っていた顔は、まるでこの世を恨む生物に見える。
「許さない!」
先にやったのはお前だ、とお返しにくるりと回って三又を避ける。
村から離すように向こうへ誘導して、岩肌の地面へ降りる。
それからは、特に進歩も後退もしない戦いだ。
リンテイは別に強いわけではない。
どちらというと、学者や研究者の気質なので強さに重きをおいていない。
かといって、鍛えることをやめているわけでもない平均的な悪魔だ。
女も大差ない戦闘力らしく、同じことが続く。
しかし、リンテイは女にないものを手に持っていた。
──ビッ
口から緑の液体が放たれて女にかかる。
女はそこから、ジュウジュウと音を立てるものが毒と知り、憎しみという上限が限界を超える精神的な金縛り。
僅かに鈍った足を悟り、自分も女の腹めがけて刃を突き立てる。
互いに痛みを感じながらも最後まで手を離さない。
村人達が見ている中、悪魔は心臓が徐々に止まるのを感じて目を閉じた。