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15朝飯前よ

人魚は、周りに子供が居ると知り驚きに目をやる。


人魚と子供の視線が合うと、人魚はにこりと人好きの良い笑みを浮かべる。


お姫様のように見えるので、子供達も警戒が少し緩む。


「初めまして」


まともな会話。


「滑らかに喋れたのね」


今まで片言だったのに。


そこだけは、噛み合う言葉だった。


「こんな事で、通訳の薬を使うのは嫌だからさっさと私の部屋……いや、あいつらの家を使うか」


リンテイは勝手にカスク達の建物へ人魚を置くことに決める。


子供達も付いてくるというので歩く邪魔さえしなければ良いとズカズカと行く。


人魚はペタペタと器用に弾くように跳ぶ。


道すがら人に見られたがこの中でそんなことを気にする神経を持った者など居ない。


建物に向かう中、町へ駐屯している兵士がどこかの誰かが通報したのかなんと、自分達の行く手を阻んだ。


命知らずな行動。


「そこのモンスター、止まれ」




虫を手で払うように不快な顔をして止まらないまま、二人は進む。


子供達は流石に止まってそこで終わる。


兵士は、聞こえなかったような雰囲気でいる二人に目を剥きながら、再度強く止まることを伝えた。


だが、人魚は言葉を知らぬまま、リンテイは聞こえているが羽虫の音だと認識しているので聞く道理もない。


ついに衛兵が動く。


女二人だと思ったのだ。


「聞こえないのか。止まれ」


兵士の手が得たいの知れない人魚ではなく、リンテイに触れたのが間違いだった。


いい度胸だ。


へし折ってやろう。


「うおおおおお!!」


彼女が兵士の手を粉砕骨折させる直後、雄叫びを上げた男が兵士とぶつかる。


「ふべ!?」


兵士は吹き飛びどこかの出店に激突しながら飛んで行く。


それを民衆も、開いた口が閉まらぬ状態で見ていた。


それを見ずに、雄叫びを上げた男を見てリンテイがこてりと首を傾げた。


「私の手を煩わせる前にあいつをやるなんて、少しは成長したじゃない」


「あー!まじでもうなにしてんだ!お前!もうちょっとでヤバかったんだぞ!」


怒気をたゆらせているのは、ジョイだった。


人魚が、いや、魚のモンスターが闊歩していると通報されたのは兵士達だけでなくカスク達もだった。


もしやと行ってみれば、最大の問題は起こりかけていた。


ジョイの頭の中では、王城崩壊までシナリオが進んでいた。


彼女のステータスを試みれば王の近衛や騎士団長など、片手で捻れる。


もしかしたら言いすぎかもしれないが。


そんな女を捉えようとした日には、この王都から王族が居なくなると彼は震えた。


軽く見積もってもただでは済まない未来だ。


それにお尋ね者になったら庇うのはカスク達になる。


そんな状態なのに、彼女は今まで通り行動するのだから、カバーしきれない。


その未来を臨機応変に防いだのだから、男は表彰されるべきだ。


「よしよし。よくやったわ」


「お前じゃない。褒められはしたいがお前じゃないやつに褒められたい」


問題を起こした本人に言われたのでしょっぱくなる。


跳んだ兵士を残して進む彼女を、慌ててジョイは追いかける。


その兵士は駆け付けたカスクが分かりやすいように医院へ連れて行く。


聖騎士の人間が動いたことにより、この事件は隠蔽されることが決定した。


聖騎士が吹き飛ばした事実はなくなる。


カスクはそれを前提に、わざわざ直接手を出して救ったのだ。


兵士は誰に吹き飛ばされたのかを見ていない。


少女とリンテイはそんな背景を見ないまま建物へと入っていく。


「待てよ!ちょっとは反省してくれ。ふりで良いからあ!」


ここまで突き抜けてなにもなかった態度であると悲しくなる。


色々と。


ジョイは自分達の滞在地が強盗にジャックされた気分になった。


しかし、それでも彼女が自分達の住む場所を縄張りとして認識しつつあると思うだけで胸がいっぱいになる。


チョロいぞ自分と叱責しつつもまだ良い足りないので後を後を追う。


「ココハドコデスカ」


どこかと聞かれたので答えてあげた。


「私の家」


「いやお前のじゃねーよ」


ジョイは人魚に伝わらないと分かっていても言わねばならなかった。


「ステキダヨ」


通じていたのならもっと綺麗な言葉で言うべきものが、教えたものの残念さによって簡潔になってしまっている。


まあそれは置いておいて、建物の白亜の部屋へ通してからジョイを見た。


「この子に水槽買ってあげて」


必須のもの。


「……おれらが?」


「私お金持ってない」


純然たる事実を提示。


「ん、んん。だな」


納得出来ないと顔に書いているが、人魚のキラキラした笑顔にジョイは怯む。


「通訳の薬代だってまだ払ってもらってないから」


人魚の鱗と涙を取らねば割りに合わない。


そこでジョイはなぜ人魚を助けたのか合点が行き、納得した。


それならば、水槽は無理だが小さな水入れを購入するのは出来るだろうと外へ行く。


カスクに一人にするなと言われたが、彼女が水入れを変えるとは思えず、また誰かに絡まれては苦労が増えるだけだと諦めた。


ジョイが外へ買いに行っている間、リンテイはこの人魚と話さなくてはいけない。


通訳の薬、改良版を渡して飲ませた。


ごくんと喉を通ったのを確認する。


「助けていただいてありがとうございました」


澱みない言葉遣いは育ちのよさを感じる。


「あんた、庶民なの?」


「いえ、実は」


「言わなくて良い。そんなの知りたくもない」


ぴしゃりと言うと人魚は驚いた目で見てから、申し訳なさそうに俯く。


「でも人間にもバレないようにしてね。面倒だから」


「はい。それは分かってます」


「それにしては私にあっさりバラそうとしたけどね」


「えっと、人間さんですよね?」


「そう見えるのならそうなのでしょう」


「はい!でも、僅かに魂の色が」


「分かってるから言わなくて良い」


人魚は、人間の体も持つ何者であるかと告げようとしたらしいが、己が一番良く理解している。

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