12危険な生物なので
その2度目になる言葉に嫌がることなく、純粋な顔でそうです、という。
やっと聞いた証言なのに、あまりのギャップに頭が追い付かないと見られる。
「いや、クラゲって」
「危険です」
間入れず進言する相手に、三人の空気は微妙になる。
「あんた達は本当にダメね」
人魚の言葉を真剣に捉えていない、男達に呆れの声音を投げた。
四人の視線がこちらに集まるのを気にせず、ふん、と無知な様子を弾く。
「クラゲは海の中で危険な生物というのは有名なのよ」
「クラゲだろ」
「そうやってキノコを食べて死ぬのがあんた達みたいなやつなのよ」
キノコも知識なしで収穫して食べると、割りと本気で死ぬ、というのは悪魔も人外も例外なく有名な話だ。
海の生物達は良く子供時代にそういうことを教わると森の生物に聞いたし、実際危ない。
「刺されて痛い、痒い。そんなの軽症だからに決まってるじゃない」
この世界では、人間が海の中に入ったりするのは珍しいので浸透してないようだ。
湖にクラゲが居るのは、海から流れ着いたのだろう。
海の中ではないに生きているのは、そのクラゲの個体が強い証拠だ。
「そうです!ですです!」
通じた!という顔をして支援してくる人魚に、人間サイドは再び顔を合わせてから人魚を見る。
分かった、駆除しようと言うと人魚の顔が光のように輝く。
やっと一歩進んだという感じだ。
「私が誘き寄せて聖騎士さん達が切るのですか?」
計画がカスクから話されて、人魚は困惑した顔でコピーしたものを出す。
なにか不手際、いや、重大なものを見落としている気がしてならない。
「分かりました。聖騎士さん達は私よりも強いようなので任せますね」
人魚は苦笑いを浮かべて下を見る。
その苦笑いが、何故か不安だ。
見学していると、人魚は湖に潜り2分程すると水面に出てきて「来ますよ!」と叫ぶ。
そう言って直ぐにザバ、と水しぶきをあげて飛び出してくる透明なクラゲ。
「「え」」
「おい!聞いてたのと違うぞっ」
凡そ20匹以上。
確かに彼女の言葉だけでは、複数など含みを感じ取れなかった。
人魚が異常に警告していたのは、クラゲ本体ではなく数の脅威だったらしい。
慌てて三人は、攻撃のポーズを変えて複数のクラゲによる触手による襲撃に備える。
「どうしますか?」
ラグナ達は、意外と冷静に対処していた。
場数で戦ってきたのかと感想を持つ。
「守りの陣でいとけ。個人じゃ捌けねぇ」
カスク達はその場その場で、対応する。
しかし、空中からの攻撃なのでクラゲ本体を撃破出来ない。
「これ、ただのモンスター退治になってますね」
ジョイがほろりと溢す。
「行くぞ」
守りの陣と言っていたのに、前へ進む男達。
攻撃はどうするのだろう。
──ヒュ
風切り音。
その時、クラゲが湖にぽちゃんと落ちるのが遠目に見える。
剣から何か出たように見えた。
「く、まだ練習の途中なのに」
ジョイ達は、苦戦を強いられている顔で剣を振りかぶる。
スコッと、空気を切る音でクラゲの一部が跳んだ。
「なにしてるの」
興味深い。
じっと眺めていると、ラグナも剣を振りかぶる。
剣は普通、振りかぶると大きな隙が出来るのだ。
好んで使われる振り方ではない。
「う、と!」
声を出し力む。
カスクだけが常に何かを放出しては、クラゲに当てている。
辛い辛いと吐き出す彼らは、クラゲの数をちょっとずつ減らしている。
半分減らす頃には、クラゲも攻撃手段を無くしたのか湖に戻る仕草を見せた。
「戻させるな!」
カスクの命令に二人は応え、必死に手を振る。
リンテイは潮時かと、5つの錠剤を取り出して、クラゲの戻るだろう場所とカスク達が歩ける距離の幅を考えて、5箇所に投げた。
ちゃぽんと5個の水紋が起こり、三人の後ろにシュッと立つ。
「今から上部だけ湖が凍るからチャンスを逃すんじゃないわよ」
彼女の台詞に、いち早く反応したカスクは一瞬で脳をフル回転させ、ジョイとラグナについてこいと指示。
二人はなんのこっちゃと混乱しながらも、カスクの後に続く。
その時、湖の水がぱきりぱきりと白くなり氷結し始める。
「あ、凍ってる!?」
二人は驚愕に染まるが、カスクは走れ、と叫び凍った湖の上を瞬時に通る。
彼らはその感覚に、不安を覚えながらもこれはチャンスなのだと、女の言葉を繰り返させ、グっと柄を握り込んだ。
三人はそれぞれ飛び上がると、足元の氷が割れるのを足裏で感じながらも、クラゲのモンスターへ切りかかる。
10匹も切り倒せるのかと思ったが、カスク達はそれぞれ2匹と3匹ずつ、切り伏せた。
やったが、残りの3匹はまだ倒せていない。
しかし、それもどうにも出来ず湖の中に落ちる。
カスク達が落ちて、数秒後弓矢の矢が水面に落ちる。
彼らが見たのは、クラゲに刺さったままの矢。
人魚は、カスク達を湖の端まで運び何度もお疲れ様という言葉をかけてきた。
「残りのクラゲは!?」
ジョイ達は、理解出来ない戦局にリンテイへ詰め寄る。
「もう居ない」
シンプルな返答。
「いや、居たって!絶対」
「もう居ない」
同じ言葉を繰り返して、湖を見る女にジョイ達も人魚も、全ての視線が湖に浮かぶクラゲに注がれた。