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10人魚と言葉の壁

ガタガタと言わせながら馬車はラグナの操作で進む。


距離にして近くも遠くもなかった。


湖がぽつんとあるだけで、それも汚れている。


観光地云々と言っていたが、湖のなにを見るのかその感性が理解出来なかった。


水なら日頃見ているではないか。


「湖は人にとってキラキラしてるし、デートスポットとして人気なんだ」


「獣が居るのに呑気に歩くの?」


「定期的に討伐してるし運が悪くなけりゃ出ないって」


「平和ね」


頭が、と2度目の感想を抱く。


「聖騎士も仕事するけど国の兵や他のやつらも結構頑張ってんだぜ」


「でもそれって人がたくさん居る町だからでしょ。ここは特に王が居るし」


「流石にな」


ジョイは、己の村が悪魔によって保たれていたことを思い出して苦笑いした。


馬車から降りると湖の汚さが浮き彫りだ。


でも、別になにか不純物があるわけではなさそうで、なにが原因か直ぐには分からない。


取り合えず、原因を知ってそうな人魚を探すこととなる。


そこで問題なのは、湖は広いので水の中の人魚を探すのは大変だということだ。


前の湖はとても澄んでいて今とは大違いだとか。


短期間で汚れるなどなにがどうなったんだか。


「人魚っておれらの言葉分かるのか?」


ラグナがちょっと崩れた口調で話しかけてくる。


村出身故に言葉遣いは平民だ。


「さぁ?私も直接会ったことはないから」


湖を眺めて湖の水紋を見る。


ちょっとでも動いたら、そこに居る可能性があるからだ。


「オネーサン」


「ジョイ気持ち悪いわよ」


「ええええええ。おれじゃねぇえええ」


理不尽な罵倒を受け、ジョイのメンタルは削れた。


「オネーサン」


「ラグナ、あんたも気持ち悪いわ」


「えええええ」


ラグナはどこから発されたのか見ながら、理不尽な暴言にただ口から漏れる悲鳴。


「コッチヨ、オネーサン」


「カスク、あんた」


「おれじゃねぇ。下見ろ」


二人の罵倒を目撃したので、ダメージが通る前にカスクはさくっと交わした。


言われたので下を見ると、白魚の手が湖の中から生えていた。


「きったない湖の中によく居られるわね」


「オネーサンオヒマ?ワタシとテツヤデエンジョイシマショ」


「おまけに、ロクデモナイ奴に言葉を習ったとしか思えない挨拶まで、されるなんて」


「いやまぁそうなんだけどな?実も蓋もないこと、言ってやるなよ……絶対本人頑張ってるんだし」


ジョイは健気に彼女に話しかける女をフォローする。


悪魔を人間世界でいかに摩擦させないかは、男達の手腕にかかっていた。


「絶対いけすかない男に習ったわよこれ」


「ま、まーな」


ジョイも頷く程初手の台詞が酷い。


これでは仮に人魚が話しかけても、誰も近づかなくなる。


「オネーサンワタシとコンヤドオデスカ?」


「全力で今、この子に言葉を教えた奴を絞め殺しくたくなった」


「おれも!こんな可愛い子になんつーもの教えてんだっ」


人魚の顔半分が出ているが、ピンクパールの髪色で瞳の色も同等。

服を着ていなさそうだ。


人魚だと断定するには残りの下半身が大切。


「あんた人魚?」


「ナニイッルノカワカリマセーン」


「リンテイ!彼女は世間知らずだ!拳を掲げんなよ?」


まだなんの行動もしてないのに、言われてジョイを睨み付けた。


女だからと見境ないな。


「ジョイ邪魔。向こう行ってて」


「ジョイ、怒らせんなぁ」


ラグナがジョイを引っ張っていく。


代わりにカスクが来る。


後ろでジョイの、ドナドナされていくか細い声が離れていく。


「話が通じないのは厳しいな」


カスクの額がシワでたくさんになる。


険しい顔をする。


昔はむちむちしてて幼子だったのに、厳つくなったもんだ。


「仕方ないわね」


リンテイは懐に手をやり中のポッケを探り、とあるものを出す。


カスクは、それを見てなんだそれはと聞いてくる。


「少しの間言葉が通じるようになる薬よ」


「……なにを、言ってる」


にわかには信じられないという顔で見てくる男に、説明しても理解できない事だと、無視する。


女の人魚に錠剤を渡す。


「これを飲んで」


飲む仕草をすると、なんの躊躇もなく口に入れた無垢な、いや、バカな女を冷ややかな目で見つめた。


いずれ変態に拐われるのも時間の問題だな。


「犯罪に巻き込まれるな」


カスク達も同意見である。


「言葉、分かる?」


「あ!分かる!分かります!凄いっ」


話し方が随分落ち着いた。


これが彼女の口調なのだろう。


軽かった話し方とは随分違う印象になる。


「時間がないから手短に聞くわ。質問はそっちからなし。この湖がこんなに汚いのは何故」


人魚が目をぱちぱちさせて、リンテイとカスクを交互に見る。


そして、直ぐに慌てた様子手をパシャパシャと動かして伝えてきた。


「ここは危険なんですっ。とても危険で獰猛な生物が湖の底に居るんです」


「それと湖の汚れの関連性は?」


「に、人間さん達が近付かないようにわざと汚しました……ごめんなさい」


「ふうん。成る程ね……あんたは危なくないの?」


「私は逃げ切れるので大丈夫です」


「ということはあんたは人魚なのね」


「はいっ、人魚……あ!内緒だったんでした」


「「…………」」


カスクもリンテイも、間抜けっぷりに言葉が出なかった。

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