21-25
21赤トンボ
赤トンボ
羽を取ったら
唐辛子
春の風がギザギザしている
碧く深い夜に
犬はくたびれたように寝そべっている
両目の焦点が定まっていない
老いを諦めているように
ぐったりと寝そべっている
猫はうなだれて立ち尽くしている
一つのところを見つめてはいるが
どこをというわけでもない
空疎な現実を直視でもしているように
無感情に立ち尽くしている
犬猫の時計は止まっているが
時間は確かに動いていた
最終の地下鉄が猛スピードで
終着駅を走り過ぎていく
轟音が転がってきて
ホームにいた自称ミュージシャンに当たる
怯えた彼は気を紛らわそうと
ストリートピアノで曲を奏でる
音感の羅列が波紋のように揺れている
音の上で
ポップな赤のスニーカーは架空の韻を軽やかに踏む
蝶結びの靴紐がだいぶ緩んでいる
紐がほどけてしまうのは近い未来の記憶だった
使い古された時刻表はボロボロだった
深夜の春風が吹く時刻のところをめくると
天使の羽ペンの筆跡で
トンボの薄い羽が天から舞い降りてくる
と添え書きされていた
唐辛子もまた赤トンボに変わることがあるのだ
22天使と少年
天使が地上に舞い降りて
コーヒーブレイクをする
引力には逆らえず飛べなくなっていたのだ
そこへ夢想家の少年がやってきて
天使に翼をねだった
天使は快く少年に翼をさずける
少年は当初喜んでいたもののすぐに絶望した
じぶんの希望したものが何一つ叶わない
好きな人のもとへ赴くのも
誰かを助けるのも
嫌なことから逃避するのも
引力に縛られてる翼があったところで
何も起こせなかった
ただ翼が生えただけの少年は
諦めを覚え、一つ大人になった
大人になった少年にはもう翼はいらなかった
大人は歌を歌った
そして
好きな人のことを想い
誰かの気休めになり
嫌な自分を忘れて好きな時間を過ごすことを学んだ
翼を取り戻した天使は空に帰った
万有引力に逆らうのは
そうしたことももうできない人で
全くつまらないことであった
何が楽しくて翼を欲しがったのか
天使にはチンプンカンプンであったのだ
なにか面白そうなことを思いつけば
天使はまた引力に惹きつけられて堕ちていく
23ポップコーン
ポップコーンを放り投げて
口にいれる
またポップコーンを放り投げて
口にいれる
またまたポップコーンを放り投げて
口からこぼす
落ちてしまったポップコーンは
汚い部屋のどこかへ消えてしまった
行方不明になったポップコーン
美味しく食べられるはずだったのに
とは思っていない
ポップコーンならまだたくさんある
一つくらいならどうでもいい
が、気にはなる
ぼくの気持ちも一つくらい
どうでもいい
と思うこともあれば
気にもしていたりする
ポップコーンと等価値な気持ちなら
たぶん他人のより軽いもんなんだろうが
それでもじぶんにとっては
大切なものだった
ポップコーンよりも
24散歩と犬
散歩してると
犬の裸体に出会した
四つん這いで
首輪をはめられ
リードを繋がれている
主人に従うほかない屈辱的な立場だった
ぼくは思わず目を背けた
横断歩道にくると
今度は主人が犬を大事そうに抱きかかえる
変態プレイを楽しんでいるのか
慈しんでいるのか
わけがわからない
犬が一声吠えた
嫌がったり喜んだりする鳴き声だ
そうこうして
ぼくは散歩を終える
その頃には
犬と飼い主のことなんて
とうに忘れていた
25伸び切った枝葉
並木道の
樹木の脇に生えている
名もなき低木は
季節が巡って
伸び放題だ
いずれ管理業者が来て
刈られてしまうだろう
枝葉はじぶんの
残りの時間も知らずに
四方八方に
伸びに伸び切っている
細い枝の一番先っぽで
陽の光に照らされて
一枚だけ
緑に明るい
ちいさな葉が
愛おしくて恋しい