お守り③
「それでお嬢様?この刺繍はゴブリンでは
ないのでしょうか?」
「……違いますわ。エドは分かるかしら?」
私はエドに望みをかける。
「そうですね……緑色ですし広がっているので
スライムでしょうか?」
スライム。私が小さい頃にオモチャにあったよ。
ミニミニバケツに入っててさドロンってしてる
のに手につかないの。
でもね今思うとその物体でどうやって遊ぶの
だろう?ただひたすらドロン、ドロンと上から
下に落として遊んでいたけど。それで正解だった
のだろうか?
はっ!違う。そのスライムではなくファンタジー
でよく出てくるアレですよね?
この国にも勿論存在するわけで。
実物見た事ないけど緑色なのか?
「もう……いいですわ」
私は諦めた。別に当ててもらわなくてもいい
んだもん。あげる本人に分かってもらえれば
いいんだもん。
私はその刺繍を完成させ小さな巾着を作った。
そう、お守り袋だ。中には紙に『守』と
書いて入れた。
効果なんて無いしご利益なんてあるわけ無い。
でも、ほら、気持ちよ、気持ち。
何故お守りを作ったのかというと。
北の山岳地帯に魔獣が出たようで今回
は数が多いらしい。
そこで1番強い赤騎士団が討伐に向かう事と
になったのだ。
私は脱走事件からガッツリ監禁生活なので
時間がたっぷりある。そこでだ。
無事に赤騎士団が帰ってきてくれるよう
団長のルイお兄様と副団長のキルア様にお守り
を作ってみたのだ。
それをこれから渡す。
メアリーもエドも緑の物体が何なのか知りたい
ようで緊張しながらその時を待つ。
ゴブリンとスライムが何故に緊張するわけ?
「ディア、入るよ?私達に用があるんだよね?
何かな?」
コンコンというノックの音と共に美男2人が
部屋に入って来た。
今日も安定の美しさ。安定の色気。
「ディア姫からのお誘い嬉しいぞ」
キルア様が魅惑の微笑みで私の手に挨拶のキスを
した。
「挨拶なら言葉だけでいいだろう?わざわざキス
をするな。ディアに触れないでもらえるかな?」
ルイお兄様の機嫌が悪くなる。
「いや〜挨拶の基本はキスだろう?」
相変わらずのやり取り見てると安心する
なぁ。
「明日から魔獣討伐ですわよね?これ私が作った
お守りですの。本当は騎士の皆様全員にお作り
したかったのですけれど間に合わなくて。
団長様と副団長様が持っていればと思い2つだけ
完成させましたわ」
ホクホクしながら2人にお守りを渡す。
メアリーとエドが固唾を飲んで見守る。
「わぁ!ディアの手作り?嬉しいな。ご利益
あるね。ありがとう!」
優しいな。ルイお兄様。
「おっ!俺にも作ってくれたのか?嬉しいな。
この刺繍は……」
メアリーとエドがゴクリと唾を飲む。
緊張の一瞬だ。
「……カエルか?上手に出来たな!」
ゴブリン、スライム、カエル。
あぁ。全部緑色ね。
そうなのね。
カエル。お守りにカエル。あながち間違っては
いない。『無事にカエル』ってね。
しかし違うのだよ。キルア君。違うぅぅ。
「キルア、何言ってるんだ!?これはどう見て
も四葉のクローバーだろう?ね?ディア」
はひぃぃーーん!!!ルイお兄様愛してる!
大正解よーーー!
「ルイお兄様、流石ですわ!正解です」
「ディアの事なら何でも分かるからね〜」
ルイお兄様は私を抱き上げてクルクル回る。
四葉のクローバーだと分かってもらえて嬉し
さのあまり、あははは、あはははと私は回りなが
ら笑う。コレって完全にバカップル。
でもいい。今は。
メアリーもエドも正解を知って驚愕の表情だ。
何故?何処をどう見ても四葉のクローバー
じゃん。
キルア様はお守りを色んな角度から見ていたが
「どう見てもカエル……」
と呟いていた。