Side ルイ・ヴィンセット③
ディアが養女になってから10年が経った。
ディアは14歳になり私は17歳になった。
毎日変わらぬ日々。
しかし私は心に決めていた。
ディアが16歳になって成人したら父上に
結婚を許してもらおうと。
結婚がすぐにはダメでも婚約を許してもら
うつもりでいた。
私は7歳の時からディアとの結婚を視野に入れ
人生設計を立ていた。17歳の今では計画も順調
に進み第一王子の側近になれていたし騎士団長に
もなっていた。
これなら父上も文句は無いはずだ。
毎日、月のディアを見守りながら細く微笑んで
いた。
そんなある日、それは突然にやってきた。
そう、本当に突然に……。
その日、私が仕事を終え屋敷に帰ると昼間
ディアが頭が痛いといって倒れたと報告を
受けた。
最近はあまり倒れる事がなかったので私は
慌てた。何故もっと早くに知らせない!?
と声を荒げてしまうほどに。
着替えもせずにディアの部屋に向かう。
夕食を部屋でとるのだろう。
テーブルの上に沢山の料理が乗っている。
そのテーブルを前に嬉しそうな顔をしてソファー
に座っているディアが見えた。
……表情がある。笑っている!?
月の微笑みではなくその表情は美味しそうな
料理をみて笑っているように見える。
そんな事があるのか?何があった?
動揺してドアの所で立ち竦む私にディアが
気づいた。
ディアはゆっくりとソファーから立ち上がって
私から距離を取った。
何故だ?私はゆっくり近づく。
するとディアは腰を屈めて変なポーズを取り
近づくなと伝えてくる。
変なポーズだ。しかしその雰囲気……。
3歳の頃のあのディアではないか?
私は確かめるべくソファーに座り膝をポンポン
と叩いた。
「あれ?この前、食欲がない時はルイお兄様の
膝に座ると沢山食べられるような気がするって
言ってたよね?」
「それに2人だけのティータイムの時には私の
膝に座っていたよね?どうして今日は嫌なの?
……さぁ、おいで」
と嘘を言って。
月のディアがそんな事を言う筈がない。
しかも夕食時には絶対に私の膝には座らない
しティータイムの時もだ。
ディアが膝に座ってくるのは私が屋敷の図書室
に居て本を読んでいる時だけなのだ。
だから試してみた。どの様な反応をするのかと。
するとディアは私の膝の上に座ってきたのだ。
月のディアなら絶対に座らない。
座らないどころか微笑んで
「今日は疲れております。もう休みたいの
ですけれど……」
と、言って部屋から出て行ってもらうように
仕向けるはずなのだ。そしてメアリーがドアを
開ける展開になる。
しかし違った。座ったのだ。座った……。
食事も食べさせてみる。
こんな事をすれば月のディアは冷めた目で私を
見るだろう。実はその態度も私は好きなのだ。
……食べた。ディアが私が差し出すスプーンから、
フォークから。今、何が起こっているのだろう?
次々に食べていく。今朝までスープしか飲まなかっ
たディアが。大量に料理を胃の中に収めていく。
信じられない。
モグモグしながら美味しいのか時折り嬉しそうに
微笑むその顔は太陽のディアだった。
太陽のディアが戻ってきたと確信した。
私は嬉しくて泣きそうになった。