Side ルイ・ヴィンセット
「るぅいおにいたま。はぢめまして。くらう
でぃあです」
初めてディアに会ったのは彼女が2歳、私が
5歳の時だった。
叔父夫婦がまだ2歳のディアを連れて屋敷に
遊びに来た。
ディアは完璧なカーテシーをして一般的な2歳
の子よりもかなり言葉が話せた。
太陽のようにキラキラした女の子で見目も
人形の様に愛らしかった。
天使だ。そう思った。
多分その時、私はディアに恋をしたのだと
思う。
ディアは母上が抱いていたまだ1歳のノアにも
挨拶をした。
「はぢめまちて。くらうでぃあです。なかよく
ちてね」
すると生まれてから一度も笑った事がなかった
ノアがキャッキャと言いながら微笑んだのだ。
ノアは目が開いた時からずっと無表情で大人しい
子だった。普通なら笑ったり泣いたりするのでは
ないか?と私は幼心に思っていた。
それは勿論、父上も母上も分かっていただろう。
心配もしていたと思う。
「わぁ〜。ノアくん笑うと可愛いね〜。ディアと
仲良くしてあげてね」
叔父上がほんわかした口調でノアに話しかけた。
父上も母上もそして私もノアが笑った事に
動揺しすぎて固まっていた。
その変な空気を叔父上が壊してくれた。
上手に気を遣える優しい人だった。
偶然なのだろうか?ディアが挨拶をして
ノアが笑った……。
そろそろ笑う時期になっていたタイミングだった
のか?
その日からノアは笑ったり泣いたりするように
なった。ノアの事を心配していた我々にディアは
光をくれた。そう思った。
父上は頻繁に叔父家族を屋敷に招いていた。
初めての出会いから1年が経ってディアは3歳
私は6歳になっていた。
私も『神童』と呼ばれるぐらい小さな頃から
難しい事も理解出来たりしていたのだがディアも
同じぐらい頭の良い子だった。いや、頭が良い
と言うよりは大人の考え方をする子だったような
気がする。
子供が興味を示す人形遊びやおままごとなど
には目もくれず大人達が飲んでいたアルコール
類に興味津々だった。
いくらこの国は成人していなくてもアルコール
を飲んでいいといっても流石に3歳の子には
無理だ。
「分かっていますわ。こちらで我慢します」
3歳とは思えないハッキリとした口調で
太陽のように微笑んだ。そしてリキュールが
少しだけ入ったイチゴソースがかかっている
アイスクリームを美味しそうに頬張っていた。
そんな不思議な子ではあったが私はディアが
大好きだった。
2歳のノアもそうだったのではないだろうか?
ディアが遊びに来ると大きい目を更に大きくして
遠くからじっと見つめていた。
その目はディアが帰るまで逸らされる事は無く
ずっと彼女を目で追っていた。
ディアはどんどん可愛くなっていく。私だけでは
なく屋敷中の者も虜にしていった。
このまま大きくなったらどんな女性になるのだろ
うと会う度にドキドキが止まらなかった。
そんな時だ。叔父夫婦が行方不明になったのは。
その日、叔父夫婦はディアを屋敷に残し隣町に
居る友人夫婦に会いに行ったという。
自分が一緒だとゆっくり出来ないだろうからと
ディア本人が屋敷に残ると言い出したらしい。
普通の3歳の女の子はそんな風に気を遣えるわけ
がないがディアなら言いそうだとその時思った
ものだ。
友人夫婦からの招待状は偽物だった。そのような
手紙は出していないと。最初から叔父夫婦を狙っ
た犯行だった。
父上は叔母上の兄である神殿様とで総力をあげ
2人を捜索したが見つかったのは叔父上だけで叔母
上は未だに見つかっていない。
見つかった叔父上は変わり果てた姿になっていた。
叔父上の葬儀で会ったディアは別人のようだった。
目はうつろで殆ど表情が無く食事もろくに食べない。
無理もない。両親を一度に亡くしてしまったのだから。
私はそんなディアの手を葬儀中ずっと握っていた。
たまに話しかけてみるが反応が無い。
私は悲しくなった。あの太陽のようなキラキラした
ディアはもう何処にも居ないのだ。