仲間
次の日ローズお母様と刺繍を刺していると
ルイお兄様がキルア様と一緒に帰宅した。
「キルアがどうしてもディアを見舞いたいって
言ってきかなくて……」
面白くなさそうにルイお兄様が言う。
そんなルイお兄様をガン無視してキルア様は
「ローズ様もこちらにいらしたのですね!」
と深くお辞儀をしてローズお母様の手の甲に
キスをした。そして私に向かって微笑み
「体調はどう?刺繍してたんだ?」
近くに寄って私の刺繍を覗き込む。
「……これは?何……?」
「え!?お分かりになりませんの?うさぎですわ。
うさぎ以外に何に見えますの?」
「……化け物?」
「は!?」
いや、うん。私前世でも縫い物は苦手だったよ?
刺繍なんてしたことなんてないから初心者よ?
でも化け物ってさー。わざわざ化け物刺繍する
ご婦人いる?
「ディア。私とルイは少し用事があるのを思い出
しましたわ。キルア様がいらっしゃるので大丈夫
よね?」
「いや、キルアがいるからこそ大丈夫では……」
最後まで言わせてもらえずローズお母様に引きず
られながら部屋を出ていくルイお兄様……。
メアリーも何かあればお呼び下さいと言って
さっさとと出て行ってしまった。
私は苦笑い......。
「気を遣ってもらったのか?」
少し戸惑い気味に色っぺー微笑みを私に向けた。
その色気どうにかならんか?腰が抜けるんだが。
とりあえずソファーに向かい合わせで座る。
お茶でもと言うと要らないと断られた。
そうなの?普通はお茶飲みながら気持ち落ち
着かせるものでは?
落ち着かせる……?
え!?なんで私こんなにドキドキしとるの?
「ルイから今回の事を聞いて居ても立っても
居られなくて突然の訪問悪かった……」
心の中であたふたしている私にキルア様が
言う。
心配してくれたんだ。ギュン……。
は〜!?ここは可愛らしくキュンじゃね?
ギュンって……。もうおばちゃんだからか?
キュンしてた頃には戻れないのか!?
よし。私よ、一度落ち着こう。
「いいえ。久しぶりにキルア様に会えて
嬉しいですわ。来てくださってありがとう
ございます」
2人でニコニコ。
「ルイが来るまでエドを守ってたんだって?
訓練も受けてないヴィンセット家のお嬢様が
だぞ?ディア姫の戦いぶりを聞いて驚いた」
あ〜。やっぱりレオンお父様からルイお兄様
は聞いちゃってたか〜。トラウマ大丈夫だった
のかな……。
「自己流の戦い方で頑張ってはみたのです
けれどやっぱり訓練受けていなければダメ
ですわね」
ふふふと私は笑った。
キルア様はソファーから立ち上がり私の前に
来て跪いた。そして私の両手を握りしめる。
「こんな小さな手で。こんな華奢な体で。
どうしたらそんな戦いが出来るのか不思議だよ」
それは元レディースだったからな。とは言えん。
「でも結局私はルイお兄様に助けられてノアが
いなければ今頃どうなっていたか分からなかった
ですわ……。1人では何も出来ませんでした」
しゅんと下を向く。
「何を言ってる?ディア姫はエドを守ったろう?
あそこでディア姫が何もしないでアイツらに
捕まってたらその後エドも直ぐに殺されていた
だろう」
「ええ……。そうだと思います……」
「ルイが来るまでの時間稼ぎは大成功だ。
アイツら20人もいたそうじゃないか。それを
1人で相手するなんてすごい事だ」
う〜ん。そうなんだろうけど結局私はボロボロに
なって皆んなに心配かけてるし……。
「いいか、ディア姫。ルイに助けられた、ノアの
光魔法で命を繋いだ。大いに結構。仲間の助けが
あって何が悪い?何も1人で戦う事はないんだぞ?」
手をギュッと握りしめてくれながら上目遣いに私
を見る。いや、いや、だから殺しにかかるのは
止めとくれ。せっかくノアに助けてもらった命
なのだよキルア君。
「な、仲間ですの?ルイお兄様もノアも……」
「ああ。そして俺もだ。ディア。クッキー王子
も仲間に入るぞ」
『仲間』何故だかその言葉に懐かしさを感じた。
昔、ずーと昔に私のことを『仲間』と言ってく
れた人達がいたような気がする……。
分からんけど。
「あ、ありがとうございます……」
「あははは!なんで礼なんか言ってるんだよ。
来年からは俺が側にずっと居て誰にも指一本
も触れさせないからな!」
そう言ってキルア様は握ってた私の指に
キスをした。そんなキルア様を見ていると
この人は私にとってとても特別な人のような
気がする。色んな意味で。
そんな気持ちが湧いてきた。
キルア様が言ってくれる言葉の一つ一つが
心に刺さるような気がする。
まだ全部が気がするって段階なんだけど。
「しかし、よくもまーあんなゴロつき相手に
頑張ったよな。本当に凄いぞ。ディア姫が
無事だった事を女神に感謝する」
あっそうかこの国は女神信仰だった。
突然キルア様は私を引き寄せ抱きしめた。
そして頭をグリグリ撫で回す。
色気ねー。笑ってしまう。
そんなところがつい気を許してしまうのだ
ろうか?
「もう!子供ではないのですから……」
「成人までまだ2年もあるぞー。子供だ」
この国の成人年齢は16歳なのだ。
頭をグリグリされている私はぷーとふくれっ
面になった。それを見てキルア様はニコニコ
している。
そんなタイミングでルイお兄様が部屋に入って
来た。
「そろそろいいか……?」
その後、修羅場になった事は言うまでも無い。