教会にて②
「ディア……こちらへ……おいで」
気のせい?
「おいで」
「ずっと待っていたわ……」
男性の声と女性の声。はっきりと聞こえた。
この声は……。この声は!
考えるよりも体が動いた。
私はソファーから立ち上がり勢いよく走って
ドアを開ける。
「ディア!?」
「お嬢様!?」
2人の叫ぶ声が聞こえたけど私構わずに声の
する方へと走る。
エドが私を追って部屋を出た。
続いてルイお兄様が出ようとすると凄い勢いで
ドアが閉まった事など夢中で走っている私は気
がつく余裕など無かった。
私はひたすら走る。声がする方へ。
すると教会の外へ出てしまっていた。
「あれ?」
教会前の広場に待機していた筈の護衛騎士様達
の姿が無い。
30人も居たのに1人も居ないのだ。
私は一瞬嫌な予感がして広場で止まった。すると
後ろから
「お嬢様!!」
エドの叫ぶ声が聞こえた。
後ろを振り返るとそこにエドが立っている。
少しホッとしてエドの腕を掴んだ。
「エドごめんね。突然走り出しちゃって。なん
かずっと私を呼ぶ声が聞こえてて……こっちの
方から聞こえたんだけど……」
「声……ですか?」
「うん。エドには聞こえなかった?」
「はい。多分ルイ様にも聞こえてはいなかった
と思いますが……」
「え?そうなの?私だけ……?」
私だけに聞こえるなんて……不安になったその
瞬間、私とエドを中心に教会前の広場全体が
円形のシールドに囲まれた。
「お嬢様、私から離れぬように……」
エドはさっと私を隠すように前へ出た。
すると森の方からガラの悪そうな男達が
20人ほど歩いて来る。
皆んなガタイがよくムキムキマッチョだ。
「あ〜あのちっこいのが今回の獲物か〜
かっかっかっ〜」
マッチョなおっさん①が私を見て笑う。
『かっかっかっ』??そんな笑い方するの
ってマンガの中だけかと思ってたよ……。
本当にいるんだね……。
「いや〜!本当に教会から出て来るんだもんな!
この石すげーわ。オレらにはなんにーも聞こえ
なかったけど」
マッチョなおっさん②が赤く光っている石を
ニヤニヤしながら私達の方へ投げてきた。
石は赤い光りが消えてコロコロとエドの足元で
止まった。
「幻聴魔法か……」
エドが足元の石を見ながら言った。
「ああ、そうだ。お前にも聞こえなかった
だろう?あれはそっちのガキにしか聞こえ
ないんだとよ。神殿の血が入ってる奴にしかな。
ま、それで間違いなくそいつ依頼主が欲しがっ
てるガキだと分かったよ」
マッチョなおっさん③が怠そうに言った。
へ〜そうなんだ。神殿の血筋にしか聞こえない
魔法なんだ。勝手にベラベラと説明アリガトウ
ゴザイマス……。
「さぁ、そっちのガキを素直に渡せばお前は
見逃してやってもいいぜ〜?」
マッチョなおっさん③が怠さ100%醸し出して近
づいてきた。そんなに怠いなら依頼受けなきゃ
いいのにって思うわ〜。こっちがなんかすいませ
んって言いたくなちゃう……。
周りにシールドが張られているからこの広場から
は逃げられない。
エドが両手を前に組んで呪文を唱えると手が光り
始めた。その時マッチョなおっさん②が丸い玉を
勢いよく地面に投げつける。
その丸い玉が粉々になって緑の煙がモクモクと
出てきた。シールド内がその煙で充満する。
私は「何?煙いな……」ぐらいにしか思わなかった
けどエドは激しく咳き込んだ。
「エド!?大丈夫?エド……?」
エドは咳き込みながらその場でしゃがみ込んで
しまった。顔色が悪い……。
何なの!?この煙は?