僕の愛しい人②
「お前!何て事を……!
絶対に許さない!」
意識が朦朧としていたら聞き慣れた声が
聞こえたような気がした。かなり怒ってる。
ああ……私のこの顔かな。きっとボコボコに
腫れてるよね。
『ボクノ……タイセツナヒトヲ
コンナメニアワセテ……コロス……
コロシテヤル……』
心の声が聞こえるなぁ。普段はこんな事
ないのに。もう死にそうだから?
「あれ?置いてきた僕と戦っているはずじゃ
なかったっけ?」
悪魔が私に馬乗りになりながら声のした方に
顔を向けたよう見えた。もう目もあんまり
見えていない。
「アレはアダン殿下達に任せてきた。彼ら
も直ぐにこちらに来る事になる。お前は
そんなに強くないから」
ああ……。この声はノアだ。
「……凄く腹の立つ事を言われたけど、まぁ
いいよ。僕は悪魔にしては心が広いから
許してあげる。だけど邪魔だからここで
殺すね?まったく太陽神も余計な事をして
くれたよね。こんな奴を作り出してさ」
悪魔はそう言いながらぐったりしている私を
傍に抱き抱え立ち上がった。
「ディアを離してもらおうかな?」
あれ?ルイお兄様の声もする。声が震えてる。
この震えは怒りからだ。それに氷点下の冷気が
こちらまできてる。死にそうになってる体には
ヤバいぐらい寒いんだけど……。
「はっ!僕と対等に戦える力も無いくせに
命令しないでくれる?」
悪魔が笑う。
ちょっと!何言ってんの?ルイお兄様は
強いよ?あんた、戦った事がないから
そう言えるんだ。
戦ってみなよ……絶対……に……。
そこで私の意識が途切れそうになった。
『ディア姫、体借りるぞ!』
ん?この声にこの呼び方……。
体を借りる……とは!?そう思った瞬間
私は今の状況を上から眺めてる目線に
切り替わった。え?どーゆー事!?
あ……前に学園で悪魔に襲撃された時に
もこの状況になった事があったよ!
ポレットが私の体を使って戦ってくれた
やつ!
え?って事は今回も?ポレットはあの
一回しか助けられないって言ってた。
だとしたら……。あの『ディア姫』呼びは……。
まさか……。そんな事ある!?
私は戸惑いながら下を見る。
ノアとルイお兄様が立っている。その正面には
私を抱き抱えている悪魔が立っていた。
その私が顔をゆっくりと上げた。
「よくも俺のディア姫をこんな目に合わせ
たな……。俺を殺した上にディア姫にまで
手を出すとは。お前はぶっ殺す」
ゆっくりとそして一言一言はっきりと
私が言った。いや、正確には私ではない誰か
だけど。
悪魔もルイお兄様もノアも突然の事に
驚きピクリとも動かない。
無言のまま悪魔が私をドサっと草むらに
落とした。や、ちょっと!あんだけ愛しい人
とか言っといてその雑な感じは何!?
「お前、誰?僕の愛しい人じゃないよね?」
よいしょと立ち上がった私に悪魔は睨みながら
問いかけた。
「ああ。俺はお前に殺されたキルアという
騎士だ」
ええええええーーーーーーーー!?
そうかもって思ってたけどさ!
ルイお兄様とノアが信じられないといった
感じで私を見ている。そうだよね。私だって
信じられないもん。
「僕が殺した?全然覚えてないけど……。
そうなんだとしても何故僕の愛しい人の
中に入っている?気持ち悪いんだけど?」
「それはこっちのセリフだぞ?ベタベタ
ディア姫に触りやがって挙げ句の果てに
ボコボコに殴りやがった。それが愛しい人に
する事か?あ?」
キルア様になった私『私キルア様』はドスの
効いた声で悪魔に言った。