従僕のメルカルロ
「ねぇ、毎朝私の髪の毛をセットしに
来るの?」
私の髪の毛を器用にクルクルと纏めて
いるメルカルロ様に言った。
「勿論です。私はお嬢様の従僕ですから。
本当は夜もベッドに入られるまで全て
お世話したいと申し出たのですがルイ様
とノア様に猛反対されまして……。
お髪だけでもと掛け合ったところそれ
ならヴィンセット家でもしているからと
了承を得ましたので」
ニコニコしながらメルカルロ様が最後の
仕上げに取り掛かった。
確かに昨夜は入浴、着替えまではこちらの
メイドさんにやってもらってその後に
メルカルロ様がやって来て髪の毛を乾かし
たりしてくれた。
「でもここでは王子様なんだし……ね?
そこまでしなくてもいい……」
「いいえ!私は今回エルフの王子として
来たのではなくお嬢様の従僕として来て
いるのです。エドとにお嬢様のお世話は
任せた、と言われていますので」
メルカルロ様も段々と私の言葉に被せて
くるようになってきたな。そしてそう
だったのか!従僕として来ていたのか!
里帰りとかではなく?
「そうですよ?私はもうヴィンセット家
の使用人でお嬢様の従僕なのですからね。
こちらに帰ってくる気も無いですし。ずっと
エドと同じでお嬢様の従僕です」
え?また心の声漏れてた!?
嫌だな〜。気をつけないと。
「そうなの!?王子様なのに何で我が家の
使用人なんかに……だってもう金色の女神様
の生まれ変わりの私を見つけたのだから
王子様に戻っても……」
「王子には戻りませんよ?これはもう
一族と話し合って決めた事ですしレオン様も
ずっとお嬢様の従僕でいていいと言って
下さってますので」
「そうなの!?いつの間にそんな事になって
たのーーー!?王子様なのに?その地位を
捨てちゃうの?まあ、エドとメルカルロ様が
側に居てくれたら安心この上ないけど」
「そうですね。そもそも私は王子には向かな
いので良いのです。ですので『メルカルロ』
と呼び捨てに。今までのメアリーと同じ感覚
でお願いします」
えー。うーん。それって難しくないかい?
頑張ってはみるけども。
でも王子様から従僕って……。
いいのかなぁ。
「エド……かぁ。そういえば元気かなぁ」
ふとエドを思い出した。いつも一緒の
エドが居ないのは初めてかも……。
「お嬢様?まだ1日しか経っておりません
よ?元気ですよ」
あ……そうか。まだ1日。
昨日の前国王様の昔話が何だか、ほへ〜って
感じで聞き入ってしまったのでもっと日数
経ってる感じがしちゃってるな。
「……エドが気になりますか?」
はっ!そうだった。メルカルロ様が男性だと
分かってエドはどうしたのだろう?
いや、いや。2人の事だ。口出しは駄目。
「あ、ごめんね?メルカルロ様もエドの事
思い出しちゃった?」
「え?私がですか?いいえ。別に。それに
私に『様』は不要ですよ?」
「あ!わぁ。ごめんなさい。気をつけます。
えーと?今日これから歓迎パーティーなんだ
よね?」
「はい。それなのにお嬢様を着飾れないのが
非常に残念です」
では『様』無しで呼ばせて頂こう。
メルカルロがため息をつく。
私は外交をしに来たアダン殿下の側近
って事になっているのでパーティーも
勿論この制服で参加だ。着飾ってドレス
などもっての外だ。
「ドレスなんて着たら美味しいご馳走が
食べれないよ。この制服でいいの」
「お嬢様、昨夜も豪快に召し上がっていま
したのに今夜もですか?」
「も、勿論よ!」
ふふふ。とメルカルロが微笑んだ。
「お嬢様は何処に来てもお嬢様のままで
すね。それで良いのです。記憶なんて
無くても。今のお嬢様が『金色の女神様』
なのですからね?」
メルカルロはエドと似ているところが
あって私が落ち込んでいるのを察知する。
どんな小さな事でもだ。一種の魔力なの
だろうか?
「ありがとう。元気出た」
「良かったです。私もお嬢様が私に対しても
異世界語で話してくれるのが嬉しくて
元気になります」
あれれ。そういえば私、メルカルロの前でも
異世界語だ。でもいいよね。もう
メルカルロ様はエドと一緒で家族みたいな
ものだし。私とメルカルロは笑い合った。