山猿③
「それはエドに魔力や魔法について教えても
らっているだけですわ。ね?エド?」
私はチラリとエドを見る。
「はい。左様でございます」
エドもは頭を下げる。
「へえ……わざわざメアリーが不在の時に?」
「偶然ですわ。勿論メアリーが一緒の時にで
も構いませんもの」
「ふ〜ん。偶然ね……。でも魔力や魔法の話し
なら私でもいいし父上に聞いたっていいのだ
よ?これからはそうしようね」
「は、はい」
うわー。これからはエドと異世界討論が出来な
くなる。癒しの時間だったのに……。
「父上からの信頼もあるから大丈夫だとは思っ
ているけどエドだって男だからね?ディアはそ
のへん分かっているのかな。長時間2人だけに
なるのは控えてもらいたいのだけど」
「で、でもエドはまだ12歳ですし……その……
男って……」
「12歳でも男は男なんだよ。ディア」
ルイお兄様の目が鋭く光る。
「申し訳ありませんでした。今後そのようなこ
とは一切いたしません。お許し下さい」
エドはルイお兄様の横に行って深々と頭を下
げた。
うっうっ……ごめんよエド、頭下げさせてし
まって……。
「そうだね。そうした方がいいよ」
ルイお兄様の綺麗な微笑みがホラーにしか
見えなくなってきた……。
「うちに出入りしてる業者のもの達がディア
が運動してる姿を見かけたようで……ね」
ホラーな笑顔で話しはまだ続く。
「あ、山に行く途中で何人かの方にお会いし
ましたのでご挨拶しましたわ」
「あのピンクのジャージ姿が可愛かったのだ
ろうね。ディアが運動してるところを隠れて
見ていた者がいたらしいよ」
「そうですの?」
ピンクジャージは絶対に関係ないと思うのだ
がルイお兄様は大層お気に入りだ。
しかし隠れて見ていたって不法侵入かい?
殺されてないのか?
「その者達は……ま、それはいいとして……」
は?良くない。良くないよ〜!そんなホラー顔
で言われたら気になってしょうがないじゃん!
その人達どうなった!?
ふぅーと大きく息を吐いてからルイお兄様は
一気に言った。
「その者達が街でヴィンセット家の天使様が
山猿になってしまったと先々でそんなことを
言って回ったようなんだ。それが今、噂になっ
てしまっていて……」
ヴィンセット家の天使様?ノアではなく私の
こと?……山猿。
あ、木に登ったり奇声あげながら走ってたりし
てたからか。
天使から山猿。凄まじく転落したな。
山猿か。プププ。自分のことながら笑えるわ。
「私はね……私はそれを聞いた時直ちに反論した
よ?私の可愛いディアは山猿などではなく野生児
だとね!」
ん?ん?野生児ってあの野生児のことかい?
えーと、また言葉のチョイス間違ってない?
「野生児……ですの?」
「うん。野生児だよ」
素晴らしく美しい笑顔で言い切ったぞ。
えっ……と、お猿さんから人間に昇格してるって
ことで良しとする?
うん。あんまり嬉しくない。
モヤモヤするぞ。
モヤモヤ。
モヤモヤ。
……消化した。もう大丈夫。
偉いな私。