登城前夜
私は明日の登城のイメージトレーニングを
しながらお風呂に入っている。
目を瞑り聖女様の顔を思い浮かべては
怖くない、怖くないと呟く。
私をお風呂に入れてくれているメイドさん
達がビクビクしてるの知ってるけど、
ごめんね?今晩だけはぶつぶつ言わせて
くれ。
お風呂からお部屋に戻ってもぶつぶつ。
エドがクスクスと笑ってる。
メルカルロ様は明日はエルフの王子様と
して登城するので今夜はゆっくりして
もらう為に従僕のお仕事はお休みだ。
「あー!なんで笑うかな!」
「申し訳ございません。お嬢様があまりにも
可愛かったもので」
久しぶりにエドと2人なんでおばちゃん語が
炸裂中。
「どの辺が可愛いのか分かんない。やっぱり
この国の人々のツボが難し過ぎる」
「そういうところが可愛いのですよ」
今日はメルカルロ様がいないのでエドが
髪の毛を乾かしてくれて三つ編みまで
してくれている。あんまりやってもらった
事無いけど上手だな。流石エドだ。
「あの騒動の時、私はずっと聖女様の事を
観察していたのですが……」
エドが三つ編みをしながら思い出した
ように語り出した。
「ですが……何?何か発見あった?」
私は急かす。
「聖女様はお嬢様にベタ惚れしています。
ですので明日お嬢様に危害を加える事は
絶対にないかと」
「いや、いや、いや。聖女様がベタ惚れ
してるのは1000年前の女神様であって
私ではないのよ。今の私は女神様であって
女神様じゃないんだもん。逆に嫌われてる
よ。なんで1000年前の事思い出さないんだ
よ!みたいな……ね?」
「ふふふ。聖女様にとって記憶はどうでも
いいのだと思いますよ?もう女神様の『魂』
が好きなのです」
綺麗に三つ編みが完成してエドもご満悦だ。
「魂……?えー!尚更怖いんだけど。魂が
好きとかって謎過ぎる……」
「……謎過ぎるってどんだけ可愛いんだ
よ!この人は……」
「ん?なんて?聞こえなかった」
「いえ、大した事ではありませんので」
そう?最近エドは独り言が多いぞ?
「嫌われてても好かれてても怖いわ〜。
どうしたらいいのかな?」
「お嬢様はそのまま自然体で良いのですよ」
エドが私のベッドをひと通りチェックし
整えてからふわふわの羽毛の布団をめくり
どうぞとジェスチャーする。
はーいと私もベッドに入る。
「ではお嬢様、良い夢を。お休み
なさいませ」
「うん。お休み〜」
エドは灯りを消して部屋から出て行く。
1人になった私はやっぱり聖女様が怖い
って思って中々眠れなかった。
絶対に相性悪いって。
押し倒されたり体を触られたりした事
が怖いのではなくて……。そんなのは
前世レディースの時に何回もやられてる。
そうではなく彼の目が。
『お前を女神とは認めない』って言われて
るみたいで。でもそれは私の心の中で
そう思ってるからなのかな。
自分は女神様らしくないよねって。
記憶も無いし力も使えないし。
駄目だ。考えれば考えるほど眠れなく
なる。
結局殆ど眠れないまま朝を迎えてしまっ
たよ〜。