怒り sideユーリ・ブロスト
マーカスが隠れ家に使っていた屋敷は
吹き飛び跡形も無くなっていた。
その場所にクラリスを庇う様に覆い被さって
いるディアを見つけた。背中の火傷が痛々
しく沸々と怒りが込み上げる。
その少し横に意識の無い火傷だらけの
マーカスが転がっていた。
救助隊にディアとクラリスを任せ
無事にディアを救出してホッとした時
少し離れた草むらに古びた柩を見つけた。
中を覗いてみるとそこには変わり果てた
姿のソフィアが横たわっていた。
殆どミイラ状態だったが直ぐにソフィア
だと分かった。
なんて事だ。やはりマーカスが関わって
いたのか。騙されていた。もう何十年と。
ソフィアの頬をそっと触る。
やっと見つけれた気持ちと悲しい気持ち
とで涙が止まらなかった。
死んでまでもマーカスに捕らわれていた
なんて。俺は激しい怒りを抑えるのに
必死だった。
ヴィンセット家に皆集まりクラリスの話を
聞いた我々は怒りを我慢しきれず部屋の中は
暑くなったり寒くなったり風が強く吹いたり
と地獄のようになった。
我々の怒りようにクラリスは恐怖のあまり
気絶した。
色々あったがディアが守っていた命だ。
とりあえずディアが目覚めるまで物置
部屋に寝かせておくとレオンが言っていた。
その後に俺とレオンそして皇帝陛下のジャン
の3人だけでマーカスの記憶を見る事に
なった。これは過去のロノフとソフィアの
事件に関する記憶だけを引き抜いて見るのだ。
俺とレオンは身内でジャンは皇帝陛下という
立場での立ち合いだ。
魔術士の中で記憶を取り出す専門職がある。
その道のプロに頼んで観せてもらった記憶
は酷いものだった。
どうしてここまで残酷な事が出来るのだ
ろうか。マーカスはもうずっと前から
人間では無かったのだ。
ロノフとソフィアがされた事が酷すぎて
目眩暈がした。目を逸らせたいのに逸らせ
ない。そんな俺の目からは涙が次から次へと
流れ落ちていく。
我々一族はマーカスへの差別も無く一緒に
ブロスト家の一員として育ってきた。
ソフィアはその中でも1番マーカスに優しかっ
たと記憶している。それがいけなかったのか?
あの天使の様に美しくて優しくて朗らかで
そんなソフィアを……。
「2人共、大丈夫か?」
全て見終わった後、ジャンが静かに言った。
俺もレオンも何も返事が出来ずに座った
ままだった。
「アイツ……地獄を見せてやる。ロノフと
ソフィアをあんな目に合わせてその上ディア
を……ディアを穢そうとした」
レオンが嗚咽混じりに呟いた。
俺も同じ気持ちだ。
マーカスに孤児院も任せていた事を思い出し
た。調べると殆ど彼が携わっていない事が
判明したのだ。運営費だけ渡して後は放置。
そこの孤児院の雇われ院長が好き放題して
いたのだ。子供達が酷い事になっていた。
確かここはエドくんが居た孤児院だった
はず。こんな酷い環境だったのによくぞ
まともに育ってくれたものだ。
その孤児院は直ぐ下の弟に任せる事に
なった。彼はソフィアの次に優しい
性格をしているから大丈夫だろう。
そして優しいだけでは無く経営には
厳しい目も才能も持っている。
安心して任せられる。
マーカスの悪事を見抜けなかった俺は
果たして神殿様として相応しいのだろう
か?そんな事を考えていたら数日後、ディア
へ謝罪と事件の事を説明に行った時に
帰る私の後ろ姿に
「ユーリ様、学園長の裏の顔を見抜け
なかった自分は神殿様に相応しいのか?
って思ってない?全然関係ないよ?
学園長は隠すのが異常に上手かっただけ。
私もあの笑顔に騙されてたし。神殿様は
ユーリ様しか出来ないからね?
もし神殿様を誰かに譲るなんて言ったら
許さんよ?」
と、可愛い、可愛い、異世界語で言って
きた。俺は単純な男だからこの言葉で
神殿様を誰かに譲るなんて気は無くなった。