マーカス邸にて②
「……」
私の前髪を掴んでいる手にグッと
力が入る。いででででーー!ホントに
痛いから!でも負けない!
キッと学園長を睨む。
「マーカス」
まだ言ってるよ。
ぷいっと少し横を向く。
前髪を掴まれたままなのでちょっと
動いただけだけど。
すると学園長はふふふと笑って私の
目の前に透明な顔サイズ程の『壁』を
魔力で作り出した。透明だけど分かる。
そこに何かがある圧迫感。
「さぁ呼んで?」
「……」
「そうですか。名前呼んでもらうのって
とても嬉しい事なんですけど」
そう言って前髪を掴んでいた手は場所を変え
私の後頭部の髪の毛を掴んできた。
そして思いっきり透明の壁に私の顔面を打ち付
け始めた。
部屋の中にはガンガンと鈍い音が響く。
ひょえぇぇぇーーーーー。
これって前世で喧嘩した
時にした頭突き攻撃に似てるわ〜。
痛いけど慣れてる?私の前世がまたもやここで
役に立ってる。
……?そうかぁ〜?役に立ってるって
言っていい?
激しく打ちつけられながらそんな事を考える。
そのうち額が切れたようでツツーーと血が
流れてきた。うーん。鼻血もまた出てきちゃった
し。もう鼻血キャラ確定だな。
いや、いや、しかし痛い。
「さぁ、マーカスと呼んで下さい」
一度手を止め私の血だらけの顔を見ながら天使
の様な微笑みで言ってきた。
「悪いけど私、この痛みは慣れてるから
いくら打ちつけても無駄だよ」
あ、しまった!異世界語喋ってしまった。
「はっ!異世界語!ふふふ。やはり可愛い
ですね。しかも異世界人にはこの痛みが
日常茶飯なのですね?面白いです!」
「いや、異世界人全員慣れてるわけじゃ
ないからね?特殊な人だけだから」
「貴方は異世界でも特殊だったのですか!
最高です!」
そう言いながら私の顔の傷を一瞬で治してしまっ
た。光魔法まで使えるのか。
この人、化け物だな。
そーいえば耳の裂かれた傷も治ってるもんね。
意識の無い時に治されてたか……。
「可愛い異世界語が聞けたので名前呼びは
おいおいでいいでしょう」
そんなにいいの?異世界語……。
「さて、移動しますよ」
そう言い終わるか終わらないかのうちに
違う部屋に移動していた。
私は広くて大きい背もたれのある椅子に
座らせられた。手すりもあるので体に
力が入らなくてもズリ落ちない。
はっ!今頃気が付いたけど私、前世で言う
ネグリジェみたいなのに着替えいる。
真っ白でレース付き。フリフリだ。
メアリーもフリフリをよく着せたがる。
そんなイメージなのか。
ん?意識が戻った時から感じていたこの
スースー感は……。下着着てねぇーよ!
「私が着替えさせましたよ?」
私が今更ながらネグリジェに気が付いて更に
下着行方不明に驚いてたからか学園長が
言ってきた。
あ、学園長は色んな魔法や魔力が使えるから
ひょひょ〜いって一瞬で出来ちゃいそうだ
もんね!魔法でやったんだよね?
「貴方の血だらけワンピースを手で脱がすのも
血で汚れた体を拭くにも、そしてその純白の夜着
を着せるのも興奮しました。あ、でも意識の
無い貴方に手を出すなどとそんな卑劣な事は
していませんよ?今日は初夜になるのでその時
まで我慢しました。初夜なので下着は不要と
判断しましたので」
ひっぇーーーーーー!魔法じゃねーの?
まっぱ見られてるしぃぃぃ!!!
全身拭かれてるし。
恥ずかしくて死ねる。
今直ぐ死ねるわ……。