マーカス邸にて
目が覚めた。見たことがない天井だ。
体を起こそうとしてみたがあまり力が
入らない。顔だけ動かして周りを見る。
やはり見たことがない部屋だ。
記憶を辿ってみる。
うん。学園長に拉致されたな。
大量に血も吐いた。
でも生きてる。女神様の生まれ変わり
はなんだかんだいっても頑丈に出来て
るんだな。素晴らしい。
さて、どうしたものかな。体の自由が
きかないから……。
「私の妻はお目覚めかな?」
気がつくとベッドの横に学園長が立っていた。
音も無くか……。どうせ歩いて来たわけでは
ないんだろうね。ヒュンヒュンと魔力で
壁越えしてそう……。そんなどうでもいい事を
ダラダラと考えてしまう。
余裕なのか他人事みたいな感覚なのかそれとも
これから起こる事に恐怖を抱いているのか
自分が分からない。何かが麻痺してしまってる
感覚だ。
「声を聞かせてくれませんか?少し体の自由
は奪っていますが声は出せますよ?色々と
怒ってますよねぇ?」
くすくすと笑いながら私をベッドから抱き上げる。
うん。そうか。この力の入らない体は学園長の
魔力で何やらされているわけか。
ですよね。いくら私が魔力使えなくてもその
くらいはするよね。
「怒ってますわ。私の大事な人達にあんな酷い
事をしたのですから」
体に力が入らないので抵抗も出来ず抱っこ
されたまま私は文句を言う。
「失礼しましたねぇ。でも死にはしませんよ?
あ、エルフと従僕は貴方が帰って体に触って
あげないと目を覚さない術をかけてきました
から一生眠ったままですね」
「え!?何故その様な事を!?」
「悪戯ですよ。ふふふ。まぁ従僕はどうでも
いいのですがエルフは目を覚さないとなると
この国は大変な事になるかもしれませんね」
従僕はどうでもいいって何よ!?
全然よくないけど!?
「大変な事?」
「はい。多分エルフ国から攻められますね。
なんと言ってもあのエルフは……」
「え?」
「ま、そんな話はどうでもいいので場所を
移動しますよ?」
どうでもよくない!そんな半端な所で話を
切るな!気になってしょうがないぞ?
「何故移動……するのですか?」
「それはですねぇ……クラリスを貴方の目の前
で処刑するからです。ここで処刑しても良いの
ですが流石に私達夫婦の寝室を汚らわしい血で
汚したくないので。あ、勿論直ぐにクリーン
魔法で綺麗には出来ますけれど一回血が付い
たカーペットはちょっと嫌ですよね?」
クラリス様の処刑!あ、なんか連れ去られる前
にそんな事言ってたよ!
それにさりげなく『夫婦』って言うな。
私達は夫婦ではない!
「クラリス様を処刑なんてしなくても良いです
わ。彼女は学園長にそそのかされたか何か術
をかけられてした行動だったのでしょう?
彼女の意思では無かった筈です」
「マーカス」
「はい?」
「夫婦なのに学園長呼びはダメですよ?
マーカスです」
さっきも思ったけど夫婦じゃないし。
「……」
私が黙っていると突然前髪を力強くわし掴み
され顔を無理矢理上げさせられた。
い、痛いし……。
「マーカス」
笑顔だけど目が全然笑ってない。
「マーカス」
これ私が名前呼びするまでずっと言ってる
のか?髪の毛痛いけどほっとく?
こんな狂った奴の名前なんて呼びたくない。