1000年前の事⑤
その日の夜中。
皆んなが寝静まった頃、アクアが私の
部屋を訪ねて来た。
「皆には分からない様に二重三重にも
シールドを張っている。俺が魔力を使って
いる事さえも屋敷の人間には分からない」
そう言ってアクアは私が寝ていたベッドに
腰かけた。
レオンお父様にもルイお兄様にもバレない
なんて。悪魔の力ってやっぱり凄いんだ。
「何か用事?」
「ああ、今日の話しの流れで言っておいた
方がいいと思ってな」
「皆には聞かれない方がいい話なんだね。
了解」
私は上半身をベッドの上でお越しアクアの
話を聞く。
「女神ちゃん、本当に何も覚えてないのに
使命だけは果たそうといてるだろう?
何だか可哀想になっちゃってさ。前世の女神
ちゃんがやろうとしてる事は俺の口からは
言えないけど」
ふむ。想像はしてたけどやはりポレットは
1000年前に魔王を倒すための『仕込み』を
してたんだね。
「1000年前に俺の親父が女神ちゃん達の元を
去る時にさ……。女神ちゃんにだけ現魔王の
殺し方を教えてた。多分女神ちゃんだけしか、
女神ちゃんだからこそ出来る殺し方だ」
「それは女神様の力が強いから?」
「勿論それもあるが女神ちゃんなら現魔王に
近づけるし神や違う女神とも協力し合える
からだ。しかし生半可な気持ちや決意では
アレは出来ないと俺は思うぞ。それを前世
の女神ちゃんはやった。俺は本当に実行する
なんて思って無かったからこの次元に来た時
に驚いたね。そしてもう尊敬しかない。だから
少しの間でも女神ちゃんの側に居たいと思った」
「それ程、現魔王を倒すのは難しいって事?」
「ああ。前世の女神ちゃんがお膳立てした事の
一つでも現魔王にバレたら終わりだ。一瞬で
努力が水に泡」
ひっえぇぇーーーーー。そんな恐ろしいミッション
を私は今してるの?無自覚なのに。何をしてるか
分からないのに。
「えっと……これだけは訊いていいかな?その
前世の女神様が仕掛けた事って今のところは
上手く行ってる?私で何かをダメにしてない?」
「大丈夫だ。少しづつだが確実に実行されてる」
良かった〜。
「あと一つ。『それ』を実行するのに私の力の
ほとんどが使われてる?だから私、力が体内に
沢山あるのに使えないの?」
「そうだ」
疑問に思ってた事が少し解決した。
「ありがとう。アクアがこの事を話してくれなかっ
たら魔王討伐に関して何をするべきなのか
を悩んでたと思う。感謝しかない!」
私はニッコリ笑った。
「あ〜ホント、全然違うんだけどチビと重なるん
だよなー。そこが困る」
頭をかきながらアクアが呟く。
ん?チビ?猫か犬のことか?
「本来なら全部教えてあげたいがそれ聞いちゃう
と女神ちゃんは他の奴らに黙っていられないだろう
からな。この『現魔王暗殺計画』が女神ちゃんの
周りの人間達に知られたらアイツら全力で阻止
しようとしてくると思うぞ?それは困るだろう?
だがいつか女神ちゃんだけに分かる時がくる。
それまでは体を大切にしろ。絶対に無茶するなよ?
前世の女神が命をかけて用意した事が台無しになる
からな」
阻止……。怖いからあんまり考えないように
しよう。うん。それがいい。
「それって1000年前に女神様が姿を消した事と
関係してる?」
「『これだけは訊きたい』が多いな。
姿消した事は知ってんだな」
アクアが笑いながら言う。
「うん。聞いた」
「ま、関係してる」
「そっか。とりあえず私頑張ってみる」
「うん。そーゆーとこ。すげー前向きなところ
が気に入ってる。だから俺がこの次元に居る間は
守ってやるよ。しかしいい人選だわ。今の女神
ちゃんじゃなかったらこの1000年かけた計画は
ダメになったかもしれんな〜」
アクアは微笑んだ。
そんな優しい顔も出来るんだね。
しかし私と重なる『チビ』が気になる
今日この頃だ。




