決心②
「私も今来たところですわ。ノアは雪だるま
を作った事はおあり?」
私の目の前で止まったノアは即答する。
「ないです!そもそも雪だるまとは何です
か?」
え?雪国なのにそこからなの?
エドとメアリーを見ても2人共肩をすくめて
いる。へ?マジで知らんの?
「え〜と……私、何かの本で見たのですけれど
雪で作る可愛い置き物……かしら?」
ん。本で見た事にしときましょう。
「作ってみたいです!姉様、作り方を教えて
下さい!」
うむ。元気があってよろしい。
私は最初に手のひらサイズの雪玉を作って
コロコロと転がしながら作り方を説明した。
ノアと2人でワーキャー言いながらどんどん
作っていく。
エドとメアリーは少し離れた場所からこちら
を見守っている。
大きい雪玉の上に小さい雪玉を2人で載せて
予め用意していた黒い2つの石を目にする為
雪玉にグリグリと埋め込み同じく用意していた
ニンジンも鼻の位置に埋め込む。
次に小枝を大きい雪玉の左右に刺して手を
作る。仕上げに大きい雪玉と小さな雪玉の
境目に毛糸のマフラーを巻いて完成だ。
「わぁ!これで完成ですね?可愛い!」
ノアが喜んでる。なんだかんだ言ってもまだ
お子様なのね。雪だるまよりノアの方が
激可愛よぉぉぉ〜。ふふふ。
しかし我ながら完璧。うん。可愛いじゃない。
私はじーと雪だるまを見る。
……前世でも孫っちと雪だるま作ったな。
まだ小さいのに頑張って作ってた。
『ばぁばー!このくらいのおおきさで
いい?』
孫っちの声が聞こえるようだ。
なんかウルウルしてきた。
あー。もう私、孫っちにも会えないんだな。
娘にもお隣の関口さんにも同僚達にも。
私ってば中々諦めが悪くて目が覚めたら
『コーポ太陽』の小さな部屋に戻ってるん
じゃないかって、あーちょっと変わった夢見
てたって起きるんじゃないかって毎朝思って
しまうのだ。
娘の仕事が遅くなる時には孫っちを預かったり
隣の部屋の関口さんをおつまみ作りすぎたから
一緒に飲まない?って誘ったりな日常が戻って
くるんじゃないかって。
駄目だよね。そろそろ現実を見ないと。
なんだかんだ色々ありすぎて毎日をこなすのが
精一杯だったから自分の気持ちに蓋をしてきた
けど。ちょっともう限界みたい。
雪だるまがトリガーになちゃった……。
ハラハラと涙が頬を伝う。
「姉様……?どうかしましたか?どこか
痛いのですか?」
ノアがオロオロしてる。
ごめん。
もう、多分ストレス溜まりまくりで。
「違……うのです……。ごめんなさい……」
もうこの世界で生きていくしかないのに
こんなに大切にしてもらっているのに
前世が恋しいなんて。
何を贅沢言ってるんだろう私は。
こちらに来てからずっと前世の方が
現実味があって今世はどこか他人事の様
に感じていた。
誘拐未遂だってそうだ。自分の身に起きた
事なのに死ぬ寸前までいったのにどこか
他人事の様で。
でもキルア様が亡くなった事で一気に
こちらが現実なんだって思い知らされた。
大切な人を失ってやっと分かるってホント
馬鹿だ。私は。
「姉様?姉様?」
どんどん号泣してくる私を心配しているノア。
私の様子に気が付いたエドとメアリーが
こちらへ走って来る。
するとノアが2人に向かって低い声で叫んだ。
「大丈夫だ!2人共こちらに来なくてもいい!」
2人の動きがピタリと止まったのを確認して
から私の方に向き直る。
号泣している私の手を握りしめて言った。
「何が姉様を悲しませているのです?僕は姉様を
悲しませるモノ全てから守ってみせます!一生
守ります!」
私は一瞬キョトンとした。
だって……。
『裕ちゃん。俺こんなんだけどお前を悲しま
せる事から一生守ってみせるからな』
ってセイさんがプロポーズの時に言ってた。
ま、守ってもらう前にセイさん居なくなっ
ちゃったけど。
人生で2人の男性に同じ事を言ってもらえる
私って……幸せ者なのではないだろうか?
「ふふふ。ありがとうノア。そう言ってもらえた
のは2回目だわ……」
なんだかおもいっきり泣いたからスッキリした。
何かがストンと落ちた感じ。
「2回目……?」
ヤバい!ノアがそこに食いついた!