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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三国志

三国志・高順伝~忠勇清廉の陥陣営~

作者: 霧夜シオン

長い三国志の物語の中で、僅か数年間の間だけ表舞台に登場する名将、高順。

呂布と言う反覆常無い男の元で戦い続けた清廉な人柄は、多くの英傑達に感銘を与えている。

その彼の一生を声劇台本化してみました。


声劇台本:三国志・高順伝~忠勇清廉の陥陣営~


作者:霧夜シオン


所要時間:約40分


必要演者数:最低9人、最大10人


※配役例+総セリフ数

高順(94):

呂布(46):

張遼(17):

陳宮(22):

魏続(6)・呂布軍兵士1(9):

曹性(8)・呂布軍兵士2(7):

曹操(13)・夏侯惇(10):

劉備(3)・呂布軍部将(16):

ナレ(19):


※これより少なくても一応可能かもしれません。


はじめに:この一連の三国志台本は、

     故・横山光輝先生

     故・吉川英治先生

     北方健三先生

     蒼天航路

     の三国志や各種ゲーム等に加え、

     作者の想像

     を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた

     め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事

     も多々あります。

     (正史の成分が多めなので、前後の作品に食い違いが出るかも

     しれません。)

     その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです

     。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい

     ております。何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします

     。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場

     合がありますので、注意してください。

     なお、性別逆転は基本的に不可とします。



●登場人物


高順こうじゅん・♂:あざなは伝わっていない。

     呂布りょふ配下で張遼ちょうりょう双璧そうへきをなす猛将。攻撃した敵部隊を必ず壊滅した事

     から【陥陣営かんじんえい】の異名で恐れられる。寡黙かもくで酒は飲まず、贈り物も一切

     受け取らない清廉潔白な人物であったという。


呂布りょふ・♂:あざな奉先ほうせん

     飛将軍ひしょうぐんとあだ名される三国最強の武勇を持つ将の一角。

     その場しのぎの頭は回るが、遠大な計を立てることはできない。

     それゆえの裏切りを繰り返し、丁原ていげん董卓とうたくをその手に掛けている。


張遼ちょうりょう・♂:あざな文遠ぶんえん

     のちに泣く子も黙ると恐れられた武勇を持つ人物。この時は呂布りょふ配下でこう

     じゅんと二枚看板をなす猛将。己の意思とは裏腹に、丁原ていげん董卓とうたく呂布りょふと次

     々に仕える主君を変えざるを得なかった。


陳宮ちんきゅう・♂:あざな公台こうだい

     もと中牟県ちゅうぼうけん県令けんれいで、董卓とうたくに追われていた曹操そうそうを一時捕らえ

     るも、説得されて共に反董卓連合軍はんとうたくれんごうぐんを立ち上げる。しかし、その人間性

     についていけなくなり、ちょうど曹操そうそうの親友の張邈ちょうばくの元に身を寄せてい

     た呂布りょふと共に挙兵、反旗をひるがえす。高順こうじゅんとは非常に仲が悪い。


魏続ぎぞく・♂:あざなは伝わっていない。

     呂布りょふ縁戚えんせき関係にあったことから重用ちょうようされた。呂布りょふ高順こうじゅんうとんじる

     ようになると、呂布りょふ高順こうじゅんの兵を魏続ぎぞくに率いさせている。


曹性そうせい・♂:あざなは伝わっていない。

     呂布りょふ配下のカクぼうの部将。袁術えんじゅつからそそのかされたカクぼうに反乱に協力

     するよう相談されるが逆に反乱をやめるよう説得する。しかし聞き入れ

     られなかった。


曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

     治世ちせい能臣のうしん乱世らんせ奸雄かんゆうと評される、三国志版の覇王。

     文化、軍事、政治、全ての分野に名を残す”破格の英雄”。     


夏侯惇かこうとん・♂:あざな元譲げんじょう

      曹操そうそうからの絶大な信頼を得ている曹操軍第一の大将。三国志演義では

      武勇に優れる猛将と描かれるが、実際は政治や領国統治、

      曹操と仲が悪い臣下との人間関係調整に長けていたと伝わる。

      曹操そうそうの根本方針である、唯才是挙ゆいざいぜきょ【ただ才能に優れた者を挙げよ】の

      唯一の例外者。


劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく

     漢の中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょう末孫まっそんを自称。乱れた世を正す為、義兄弟の

     関羽かんう張飛ちょうひと共に乱世を駆ける。


呂布軍部将・♂♀不問:主に高順こうじゅん配下として登場する。


呂布軍兵士1:・♂♀不問:そこそこ出番が多い。主に高順こうじゅんの配下その1。


呂布軍兵士2:・♂♀不問:そこそこ出番が多い。主に高順こうじゅんの配下その2。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。




※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:今よりおよそ1800年前、後漢王朝末期ごかんおうちょうまっきにあたる建安けんあん4年、冬の2月。

   徐州じょしゅうじょうにて、一人の名将がその生涯しょうがいを閉じようとしていた。


曹操:高順こうじゅんなんじにも苦しめられることが大きかった。

   どうだ、に仕えぬか。


高順:……。

   (武運ぶうん、ここにきるか・・・だが、いはない。)


曹操:陥陣営かんじんえいと称されるその武勇、の為に、いや、この乱れた天下をしずめる為に

   貸してくれぬか。


高順:………。


ナレ:高順こうじゅんはいつしかまぶたを軽く閉じる。それと共に流れ始めた走馬灯そうまとう奔流ほんりゅうに、

   しばし身をゆだねた。


   【二拍】


   時は数年前にさかのぼる。

   都・洛陽らくようを追われ、南陽郡なんようぐんを治める当時の名族、袁家えんけの一人である袁術えんじゅつを頼

   って落ちてきた男がいた。

   呂布りょふあざな奉先ほうせん

   三国志最強とうたわれる武勇を持つ将である。

   彼は袁術えんじゅつの厚い待遇たいぐうを受けながら、人材を集め、兵をつのっていた。


呂布:お前か、仕官しかんに応じたのは。


高順:はっ…高順こうじゅんと申します。天下に名高い呂将軍りょしょうぐんとお会いでき、喜びにたえ

   ません。


呂布:よし、我が配下として存分に働いてもらうぞ。


高順:ははっ…微力びりょくを尽くします。


呂布:さっそくお前に部隊を預ける。手足のごとくに動かしてみるがいい。


高順:(な…いきなり兵を与えて下さるとは…!)

   ありがたき幸せ…必ずや、ご期待にこたえてご覧に入れます。


ナレ:呂布りょふには他にも張遼ちょうりょう魏続ぎぞくなどが行動を共にしていたが、その関係は決し

   て純粋な主従ではなかった。

   それゆえ南陽なんようの地で登用された高順こうじゅんは、呂布りょふの初めての子飼こがいの武将と言え

   た。その人柄も相まって、彼は厚い信頼を得ることとなる。


高順:よし、次は魚鱗ぎょりん陣形じんけいだ!


呂布軍部将:ははっ! 右翼うよく左翼さよく、前進ッッ!!


      【二拍】


      よォし、停まれッ!

      高順こうじゅん様! いかがでございましょう!?


高順:うむ。申し分なし。

   お前達、いつもよくやってくれているな。礼を言うぞ。


呂布軍部将:もったいないお言葉…!


呂布軍兵士1:なぁ、俺達、いい上官に恵まれたよなあ。


呂布軍兵士2:まったくだぜ。張遼ちょうりょう様のとこもいいんだが…なんか怖いしな、あ

       の方は。


呂布軍兵士1:そこへ来たら高順こうじゅん様は、俺達兵の一人にまで気をかけて下さってる

       。


呂布軍兵士2:だよなぁ。だからこそ命を張って戦う気にもなるってもんだ。


高順:そこ、私語はつつしめ。


呂布軍兵士1:は、ははっ!


呂布軍兵士2:も、申し訳ありません!


高順:いや、良い。今のお前達の言葉で、これまでの私のやり方は、間違っていな

   いと確信できた。


呂布軍部将:こ、高順こうじゅん様…!


呂布:やっているな、高順こうじゅん


高順:! これは…呂布りょふ様。


呂布:末端まったんの兵にまで良く統率とうそつが取れている。見事だな。


高順:ありがたきお言葉…。


呂布:これはいざ戦となった時が楽しみだ! はっははははは!!


ナレ:高順こうじゅんが仕官してまもなく、袁術えんじゅつ呂布りょふの関係は悪化。呂布りょふ北方ほっぽう袁術えんじゅつ

   兄、袁紹えんしょうを頼る。袁紹えんしょうは快く受け入れはしたが、ただ遊ばせておくような

   ことはしなかった。

   北方の覇権をかけて争っている相手、公孫瓚こうそんさんが同盟を組んでいる黒山賊こくざんぞく

   その討伐をすることとなったのである。


呂布:敵はかつて反董卓連合軍はんとうたくれんごうぐんに参加したこともある黒山賊こくざんぞく張燕ちょうえんか。

   確かに数は多いが、我が軍の結束にはかなうまい。


高順:おおせの通りかと。


呂布:よし、出陣だ! 俺は正面から当たる! 高順こうじゅん右翼うよく張遼ちょうりょう左翼さよくから

   雑魚ざこ共を蹴散けちらしてやれ!


高順:ははっ。


   皆、行くぞ。右翼うよくから突撃だ!


呂布軍部将:高順こうじゅん様に続けーーーッ!!


呂布軍部将・高順役以外:【喚声・SE代用可】


高順:む…あの部分が手薄だな…、あの一点を突破だ!


呂布軍部将:ははっ! それッ、者共、後れを取るなァ!!


呂布:でぇぇい! ふんッ、人中じんちゅう呂布りょふうたわれる俺を前に、この程度の備えで待

   ち構えているとはな! められたものだ!!

   ! 敵の右翼うよくがすでにくずっている? おお、高順こうじゅんが早くも敵を打ち破っ

   たか!


高順:次は敵左翼てきさよくの後方だ! 張遼ちょうりょう殿に加勢する!


呂布軍部将:よォし、この勢いのまま進むぞ!


呂布軍兵士1:すげぇ…敵の弱い所をすぐに見抜くなんて…!


呂布軍兵士2:さすがは高順こうじゅん様だ! どこまでも付いて行きますぜ!


高順:あそこから突撃だ! 続けッ!!


呂布軍部将・高順役以外:【喚声・SE代用可】


呂布軍部将:て、敵陣が…まるで紙のように切り裂かれていく…!


呂布:見事だ…見事だぞ、高順こうじゅん! 俺は良き家臣を得たわ、はっはははは!!

   攻撃した敵陣を必ずとすとは…まさに陥陣営かんじんえいよ!


高順:! ありがたき…!


呂布:よしっ、こちらも負けてはおれんな。

   行くぞ! 敵の第二陣へ向けて突撃だ!!

   ぬぅうううおおおああああーーーッ!!


ナレ:呂布りょふ軍は黒山賊こくざんぞく連戦連勝れんせんれんしょうで破った。

   配下の高順こうじゅん張遼ちょうりょうの働きも目覚めざましく、中でも高順こうじゅんとその部隊は、

   ひとたび攻撃に転ずれば敵の陣営を必ず陥落かんらくさせたことから、

   敵味方を問わずにたたえ恐れられた。

   ”陥陣営かんじんえい”と。


   その後、袁紹えんしょうとも不仲ふなかになった呂布りょふ河内かだいを経て曹操そうそうの領土であるエン州へ

   辿り着く。陳留ちんりゅう張邈ちょうばくと共に裏切った陳宮ちんきゅうは、呂布りょふ参謀さんぼうとして迎えられ

   ると、エン州制圧の策を献じていた。


陳宮:曹操そうそうはいま、徐州じょしゅう陶謙とうけんに家族を殺され、その復讐戦に出向いています。

   このエン州を奪い、将軍の根拠地こんきょちとするのは今をおいて他にはありませぬ。

   ? …聞いておられるのですか、高順こうじゅん殿?


高順:…ああ、聞いている。


陳宮:【軽く舌打ち】

   すでに張邈ちょうばく殿はこちらに呼応こおうして、城の占拠せんきょに動いております。


高順:(一度はあるじあおいだ人間を簡単に裏切るとは…それに張邈ちょうばくといえば、曹操そうそう

   の親友ではないか…なぜ陳宮ちんきゅうと共に曹操そうそうを…。)


呂布:よし、濮陽ぼくよう城を奪いエン州を我が物とするのだ!


高順:はっ…!

   (納得はいかないが…呂布りょふ様の為に死力しりょくくすまでだ。)


ナレ:陳宮ちんきゅうの策と張邈ちょうばくの裏切り、そして高順こうじゅんら猛将達の働きもあって、

   八十以上もあるエン州の城があっという間に呂布りょふの物となる。

   しかし、東阿とうあけんはん三城さんじょうを守っていた曹操そうそうの腹心の荀彧じゅんいく程昱ていいく

   棗祇そうぎらにはばまれ、完全制圧は成し得なかった。

   その後二年の激戦を経て呂布りょふ軍は敗北、エン州から撤退てったいし、次にるべき地

   を徐州じょしゅうに定めることになる。


呂布:くそ…もう少しでエン州を完全に我が物にできたというのに…!


陳宮:荀彧じゅんいく程昱ていいく…彼らの知謀ちぼうにしてやられるとは…無念です。


呂布:陳宮ちんきゅう徐州じょしゅうは我らを受け入れるだろうか?


陳宮:ええ、うまくいくかとは存じます。劉備りゅうびは先に病死した陶謙とうけんから託されてじょ

   しゅうの領主となったばかりです。かつて曹操そうそうに攻められた際、我らが背後を突

   いて助ける形になりましたゆえ、その恩を盾に取ることも出来ましょう。


呂布:確かにな。よし、道を急ごう。


高順:……。

   (劉備りゅうび…仁義に厚く、力に頼らず仁徳じんとくをもって徐州じょしゅうの領主となった男…

   どのような人物であろうか。)


呂布:高順こうじゅん、気落ちするな! 兵力さえあれば、お前達と共にまた州の一つや二つ

   をたいらげるのは、この俺にとってたやすい事だ!


高順:はっ…。

   (配下にも義兄弟の関羽かんう張飛ちょうひというごうの者がいると聞くが…。)


陳宮:む…呂布りょふ殿、あれを。どうやら徐州じょしゅうからの迎えの者のようですな。


劉備:呂布りょふ殿、徐州じょしゅうへようこそ参られた。劉玄徳りゅうげんとくです。


呂布:おお、劉備りゅうび殿か! 出迎え痛み入る。よろしく頼む!


高順:(劉備玄徳りゅうびげんとくうわさにたがわぬ人物のようだ…。だが、彼の周囲の顔色を見るに

   、歓迎せぬ者もいるか…当然だ、厄介者やっかいものだからな…。)


劉備:さあ、まずは旅の疲れをいやしてください。

   他の皆様はこちらへ。いま案内させます。


高順:かたじけない…。


ナレ:劉備りゅうびの元に身を寄せた呂布りょふ達はひとまずの安息を得る。しかし、乱世の荒波

   は次々に彼らに襲い掛かる。

   先にあげた南陽なんよう袁術えんじゅつ。彼が曹操そうそうの策に掛かり、劉備りゅうび戦火せんかまじえる事にな

   った。その時、徐州じょしゅう小沛しょうはいの城に袁術えんじゅつの使者がやって来る。

   劉備りゅうびの背後を襲えば兵糧ひょうろうその他の軍需物資ぐんじゅぶっしの提供を約束する、との密約みつやく

   たずさえて。


陳宮:呂布りょふ殿、今こそ徐州じょしゅうを奪う時です。袁術えんじゅつから物資を得た後は、かねてより

   保護の要請が来ている皇帝陛下をお迎えする事も出来ましょう。


呂布:うむ…劉備りゅうびには悪いが、この俺の為に犠牲になってもらうしかあるまい。


高順:ッ呂布りょふ様! 家や国がほろぶのは、忠臣ちゅうしんや知恵に優れた者がいないのではなく

   、その意見を用いない為に起きるのです。

   呂布りょふ様はいつも深く考えずに行動します。また、いつも得失を考えない言動

   で数え切れないほど失敗しております。このようなことはつつしまねばなりませ

   ぬ!


呂布:む、むむむ…。


陳宮:高順こうじゅん殿、この乱世らんせ、そのような真っ正直だけで通れるものではありませぬ。

   それに、先ほどの話を聞いていれば、私が忠臣ちゅうしんではない、と申されているよ

   うにも聞こえますが…?


高順:ッ…そんなつもりでは。


呂布:高順こうじゅん、俺は決めた。この徐州じょしゅうを奪って献帝けんていをこの地にお迎えし、

   再び天下を狙う! 速やかに軍を率いて劉備りゅうびの背後を襲え!!


高順:…はっ、承知しました…。


陳宮:頼みましたぞ、【若干強調して】高順こうじゅん殿。


高順:…心得た。


ナレ:呂布りょふは再び餓狼がろうの性質をむき出しにすると、袁術えんじゅつの誘いに乗った。即時、

   三万の精兵を高順こうじゅんに与え、劉備りゅうびの背後を襲わせたのである。


張遼:高順こうじゅん殿、浮かぬ顔をされているが…。


高順:いや…、このような不義理ふぎりな事ばかりをしていてはいつ、どうなるのか

   と不安になってな…。


張遼:確かに不義理ふぎりは許されることではないかもしれぬ。しかし、今は乱世だ。

   一時の不義理ふぎりは、後に義理を通すことであがなえば良いのではないだろうか

   ?


高順:む…ぅ。


張遼:ともあれ、今の呂布りょふ様にはって立つ地が必要だ。その為には仕方あるまい

   。


高順:…やむを得ぬか。

   よし、全軍、ここに陣を張れ!

   明日、攻撃を開始する!


張遼:敵の奇襲きしゅうがあるやもしれぬ。油断なくあたりを見張れ!

   雨も強くなっている。川の氾濫はんらんに注意するのだ!


ナレ:夜が明け、彼らが劉備りゅうび軍の陣地へ殺到さっとうしてみると、敵はすでに逃げた後で敵兵

   一人の影もなかった。


張遼:これは…、敵は高順こうじゅん殿の名を聞いただけで逃げせてしまったか!

   何と笑止しょうしな事だ!


高順:(内心、剣をまじえずに済んでほっとしている自分がいる…なぜだ。)

   ともあれ、これで劉備りゅうび軍を追い落としたことにはなる。さっそく袁術えんじゅつ軍の大

   将、紀霊きれいに使者を出そう。約束の物資を受け取らねばなるまい。


張遼:うむ。それが今回の第一の目的だからな。


高順:よし、誰かあるか。


呂布軍部将:はっ、これに!


高順:袁術えんじゅつ軍の紀霊きれいの元へおもむき、約束は果たしたゆえ代価の物資を頂きたい、

   と申し入れて参れ。


呂布軍部将:承知しました! ただちに行って参ります!


ナレ:雨風あめかぜはますます強くなり、草は風雨ふううし、木は折れ、かわあふれていた。

   そう遠くないところに位置する袁術えんじゅつ軍とはいえ、使者の往復には普段以上の

   時間を費やすこととなった。


高順:…一刻いっとき経ったか。


張遼:うむ、この天候では往復も容易ではあるまい。

   焦らず待とう。


呂布軍兵士1:申し上げます! ただいま袁術えんじゅつ軍へ向かった使者が戻りましてござ

       います!


張遼:おお、すぐにこれへ!


呂布軍部将:高順こうじゅん様、ただいま戻りました…!


高順:うむ、使いご苦労だった。して…返答は?


呂布軍部将:はっ、それが…、物資の件は主君同士でのやり取りゆえ、それがしは

      聞いておらぬし、また聞いていたとしても自分の一存ではそのような

      多額の財貨ざいかはどうすることもできない。帰国の上、我が君へ申し上げ

      ておくゆえ、貴軍きぐんもひとまず引き上げられよ、との返事でございまし

      た。


張遼:確かに言う事ももっともだ。…高順こうじゅん殿、ここは引き上げよう。


高順:うむ…呂布りょふ様にはそう復命ふくめいするしかあるまい。

   全軍、撤退てったいせよ!


呂布軍兵士2:はっ!

       全軍引き上げ! 引き上げだー!


ナレ:高順こうじゅんらは徐州じょしゅうへ帰還すると事の次第を復命ふくめい呂布りょふもそれを信じ、

   袁術えんじゅつへ正式に使者を出して代価を求めた。

   しかし袁術えんじゅつからは、まだ劉備りゅうびが生きているから早くその首を取って

   こちらへ渡せば約束の物を与える、との横柄おうへいな返事だった。

   呂布りょふは激怒して袁術えんじゅつを攻めようとするが、陳宮ちんきゅうが制止する。彼の献策けんさく

   によって、逆に劉備りゅうびと再び同盟、小沛しょうはいの城へ置いて袁術えんじゅつへの前衛ぜんえいとした。

   そしてその年の六月。


高順役以外全員:【遠く聞こえる喚声・SE代用可】


高順:む…?

   なんだ、風に乗って喚声かんせいのような音が…?


呂布軍部将:? 高順こうじゅん様、いかがなされました?


高順:いや…風の音を聞き間違えたのかもしれぬ。


呂布軍部将:そうですか。夜明けまではまだ間があります。もう少し休まれては?


高順:うむ、済まぬな…。


呂布軍兵士1:も、申し上げます!!


呂布軍部将:なんだ、真夜中だぞ! 静かにせぬか!


呂布軍兵士1:そ、それが、その、りょ、呂布りょふ様が奥方おくがた様と共にこの陣へ!


高順:!! 聞き間違いではなかったか…!

   すぐに出迎えねば…!


   【二拍】


   呂布りょふ様、こんな真夜中にいったい何事が起ったのですか?


呂布:う、うむ…敵襲だ、高順こうじゅん


高順:なんですと…!?


呂布:不意に騒がしくなったと思ったら、庁舎ちょうしゃを完全に包囲されていてな。

   幸い内門うちもんが固く、敵が手間取てまどっているうちに取るものもとりあえず、

   妻を連れてここまで来たのだ…!

   闇夜にまぎれて襲ってきたから、どこの手の者かもわからん!


高順:なるほど…呂布りょふ様、他に何か気づいた事はありませぬか?


呂布:【唸る】

   そういえば、敵兵にずいぶん河内地方かだいちほうなまりを持つ者達が多かったな。


高順:! …呂布りょふ様、襲撃したのは恐らく、味方のカクぼうかと思われます。

   河内かだいなまりが多い兵を持つ部隊はカクぼうのみです。


呂布:な、なんだと!? し、しかし、なぜカクぼうが…!?


高順:事の真偽しんぎを確かめている暇はありませぬ。呂布りょふ様はここでお待ちを。

   それがしが行って参ります…!


呂布:わ、わかった。お前に任せよう。頼むぞ!


高順:ははっ!


   【二拍】


   弓兵ゆみへい隊を先頭に立て、静かに進軍するのだ。

   庁舎ちょうしゃを囲んでいる敵兵共の背後を包囲し、合図と共に一斉に矢を射かけよ。


呂布軍部将:ははっ!


      【三拍】


      高順こうじゅん様、あれです…!


高順:よし、弓兵ゆみへい隊、構え。


   【二拍】


   放てッ。


ナレ:高順こうじゅんは素早く敵の背後に部隊を展開、弓の一斉射撃は敵を混乱におとしいれた。

   自身で馬を飛ばし、あちこちの戦場を疾駆しっくしていたが、ついに目的の一騎を見

   つけた。カクぼうである。見れば味方の曹性そうせいと一騎打ちし、すでに片腕を切り落

   とされていたが、曹性そうせいの方も重傷を負っている様子だった。


高順:カクぼうッ! 反乱の罪は死をもってあがなえ! 覚悟ッ!!


   【二拍】


   カクぼうすで誅殺ちゅうさつした! 兵ども! これ以上は無意味だ、くだれ!

   今なら罪には問わぬ!!


   ッ、曹性そうせい殿! 大事ないか?


曹性:うう…こ、高順こうじゅん殿か…助太刀すけだち、かたじけない…!


高順:ともあれ、手当てせねば…。

   誰か、板に乗せて陣へ運ぶのだ!


呂布軍部将:ははっ! お前達、手伝え!


呂布軍兵士1:はっ! おい、そっちを持て! 揺らすなよ!


呂布軍兵士2:わかってる! 曹性そうせい様、お気を確かに…!


呂布:高順こうじゅん、見事だ。即座に反乱を鎮圧ちんあつするとはな…。


高順:これは呂布りょふ様。もう心配はございませぬ。


陳宮:ッ…み、見事ですな、高順こうじゅん殿…。


曹性:おお…りょ、呂布りょふ様…!


呂布:曹性そうせい、カクぼうは何故反乱を起こしたのだ?


曹性:そ、それは…背後に袁術えんじゅつがいてそそのかしていたのです…!


呂布:な、なにい!? 袁術えんじゅつだと!?


曹性:はい…それがしはカクぼうにこの話を打ち明けられた時、反対したのです。

   しかし、カクぼうすで陳宮ちんきゅうも力を貸してくれているからと・・・今夜の反乱

   に踏み切ったのです…!


陳宮:!!! ッ…【小声】くっ…カクぼうめ、余計な事を…!


呂布:陳宮!? 陳宮と言ったか!? 何故だ!?


高順:もともと袁術との外交窓口でしたからな…、呂布りょふ様! 曹操そうそうを裏切り、

   そして今また呂布りょふ様を裏切ったこの陳宮ちんきゅう、斬らねばなりますまい…!


陳宮:むぅぅ…もうこうなっては言い訳いたしますまい。

   ええ、確かに袁術えんじゅつにそそのかされてこの挙に及びました。

   どうぞ、ご存分にご成敗下さい、呂布りょふ様。


呂布:ぬ、ぬうううぅぅうう………!


   【三拍】


   いや…陳宮ちんきゅう、お前は我が軍の一方の大将だ。大将であるゆえをもって、

   今回の事は不問に付す…!


高順:なっ、何故でございますか! この男は、呂布りょふ様のお命を狙ったのですぞ!


呂布:高順こうじゅん、何も言うな。もう決めた事だ…!


高順:………承知、しました……!

   (陳宮ちんきゅうは名声もある、そして袁術えんじゅつと深い繋がりがあるのだろう。

   それゆえに斬れないのか…!)


呂布:………。


ナレ:高順こうじゅんはカクぼうの反乱を阻止し、討ち取ることに成功した。

   だが、陳宮ちんきゅう河内かだいで子飼いの配下にしたカクぼうにまで裏切られた呂布りょふは、

   猜疑心さいぎしんとりことなる。そして疑いの目は、皮肉にも高順こうじゅんにまで向けられた。

   「不意を突かれたとはいえ、逃げるしかなかった自分にひきかえ、高順こうじゅんはい

   とも簡単に反乱を鎮圧してのけた。そしていつカクぼうのように裏切るか…。

   もう信じられるのは身内しかいない…!」と。


呂布:高順こうじゅん、済まぬがお前の直属の兵達を魏続ぎぞくに預けることにした。

   良いな?


高順:!! な、何故でございます、それがしに何か落ち度が…?


呂布:い、いや、落ち度と言う程のものはないが、そ、そうだ、お前の兵達の結束

   の強さを魏続ぎぞくの部下達に学ばせてやりたいと思ってな!


高順:(そうか、先日の反乱…カクぼう呂布りょふ様の子飼こがいの臣、陳宮ちんきゅうは腹心の参謀さんぼう

   …その二人に裏切られたのだ。疑心暗鬼ぎしんあんきになるのも無理はない…。

   信じられるのは身内だけと…いや、いずれ分かっていただけるだろう…。)


   そういうことでしたら…承知しました。


呂布:う、うむ。

   魏続ぎぞく、しっかり高順こうじゅんの兵達を頼むぞ!

   そしてその結束の強さを学ばせてやれ。


魏続:ははっ。

   では高順こうじゅん殿、貴殿の兵、お預かりいたしますぞ。


高順:…よろしく、お願いいたす。

   では、失礼仕しつれいつかまつる。


張遼:ッ!


   【二拍】


   高順こうじゅん殿!


高順:…張遼ちょうりょう殿か。


張遼:なぜ、なぜ呂布りょふ様はあのような扱いを…高順こうじゅん殿が何をしたと言うのか!

   武将として屈辱的くつじょくてきな待遇であるのに何も言わず…、理不尽な扱いには

   を唱えるべきだ!

   それがしも口添くちぞえいたすゆえ——


高順:【↑さえぎるように】

   張遼ちょうりょう殿!

   きみきみたらずといえども、しんしんたらざるべからず、と…

   そう申されるではないか。


張遼:ッ! しかし!


高順:何も申されるな、張遼ちょうりょう殿。

   …いずれ、わだかまりが解ける日も来よう。

   では…。


張遼:確かに臣下しんかの道としては正しいのかもしれぬ。

   だが、過ちは正さねばならぬのではないか…!?


高順:……。


ナレ:高順こうじゅんから兵を取り上げた呂布りょふは、戦いの時のみ魏続ぎぞくの部隊から兵を戻し与え

   るという、将として屈辱的くつじょくてきな扱いを課した。

   だが高順こうじゅんはこれに対して、ついに最期の時まで恨み言や不満を漏らす事はな

   かったと伝えられる。

   年を越して建安けんあん2年。

   泰山たいざんの独立勢力、臧覇ぞうは呂布りょふに味方していた蕭建しょうけんを破ってその地を占拠した

   、との急報が呂布りょふの元へもたらされた。


呂布:なにい!? 臧覇ぞうは蕭建しょうけんを!?

   おのれ、あの山賊どもは一度力をもって黙らせておかねばならんな!


高順:お待ちください、呂布りょふ様!


呂布:なんだ、高順こうじゅん。今回は俺みずから出るぞ!


高順:そうではありません。

   董卓誅殺とうたくちゅうさつによる呂布りょふ様の威名いめいは天下にとどろいており、遠きも近きも恐れ、

   遠慮しております。


呂布:それがどうしたというのだッ!?


高順:臧覇ぞうはなど、呂布りょふ様のひとにらみですぐに降伏するかと。

   御自おんみずから軽々しく出陣してはなりませぬ。勝っても利益は無く、万一敗北する

   ような事あれば、呂布りょふ様の名声をそこないます。


呂布:なんだと高順こうじゅん、この俺が負けるとでも言うのか!

   

高順:いえ、そのような事は…ただ、戦わずともにらみをきかせるだけでいずれ

   こちらに味方するであろうと…。


呂布:ええい、何も言うな! 奴はこの俺に逆らったのだ!

   実力で黙らせねば気がすまん!

   それほど言うのならお前には留守を命じる!


高順:ッ…承知、しました…。


ナレ:呂布りょふ高順こうじゅん諫言かんげんを無視し、出陣した。

   しかし高順こうじゅん予見よけん通り、臧覇ぞうは用兵術ようへいじゅつたくみに駆使くしし、呂布りょふ軍を散々に

   悩ました。

   結局呂布けっきょくりょふは、臧覇ぞうはの守る城を落とせず退却する羽目はめになる。

   臧覇ぞうはとはのちに同盟を結ぶことになるが、これによって呂布りょふはますます高順こうじゅん

   警戒し、遠ざけるようになった。


   年明けて、建安けんあん3年。劉備りゅうびを初めて攻撃した時以降、同盟の締結ていけつと破棄を

   繰り返していた袁術えんじゅつと再び結んだ呂布りょふは、徐州じょしゅう小沛しょうはいの城にいた劉備りゅうび

   攻撃した。


呂布:高順こうじゅん袁術えんじゅつと再び同盟したゆえ、劉備りゅうびを滅ぼす。

   副将として張遼ちょうりょうを付ける。

   奴らの兵力など多寡たかの知れたものだ。陥陣営かんじんえいの力、存分に発揮してくるがい

   い!


高順:…はっ。

   張遼ちょうりょう殿、参ろう。


張遼:うむ…。

   (高順こうじゅん殿…どこか寂しげな…。やはり兵の取り上げがこたえているのか、

   それとも…。)


高順:聞け、お前達。これより我が軍は小沛しょうはい劉備りゅうびを攻撃する。敵はすで曹操そうそう

   つうじているゆえ、攻城戦こうじょうせんが長引いた場合、曹操そうそうの援軍が到着する恐れもある

   。

   そのつもりで、援軍が現れてもついでに打ち破る気概きがいで、これに当たれ。


呂布軍部将:ははっ!


高順:よし、出陣する。続け!


張遼:高順こうじゅん殿と共に戦うのは久しぶりだ。胸がおどるな。


高順:…それがしもだ。敵は劉備りゅうび、そしてあの関羽かんう張飛ちょうひだ。

   彼らを相手にするよりは彼らの陣を打ち破った方が、時をかけずに済むだろ

   う。


張遼:ふ…陥陣営かんじんえいらしい言葉だ。

   ならば! この張文遠ちょうぶんえん高順こうじゅん殿と両輪りょうりんの槍となって、敵陣をつらぬこう!!


高順:…うむ!

   小沛しょうはいの城が見えたな。まず城外の陣から破る! 続けッ!!


高順・ナレ役以外:【喚声・SE代用可】


ナレ:劉備りゅうび軍は籠城ろうじょうにて応戦したが、高順こうじゅん率いる大軍に圧倒あっとうされる。

   間もなく呂布りょふ自身も出馬し、小沛しょうはいの城は風前ふうぜん灯火ともしびとなった。

   だが、それ以前に曹操そうそうの元へ援軍要請えんぐんようせいの使者が届いており、彼の第一の大将

   、夏侯惇かこうとんが救援第一陣として駆け付けてきたのである。


夏侯惇:曹司空閣下そうしくうかっかめいにより劉備りゅうび殿、助太刀すけだちいたす!

    者共かかれィ!!


高順:く…敵の援軍が早くも到着したか。張遼ちょうりょう殿はこのまま劉備りゅうび軍の方を、

   それがしは新手あらての援軍に当たる!


張遼:任せよ! 武運ぶうんを祈る、高順こうじゅん殿!


呂布:くそっ、もう曹操そうそうの援軍が!

   いかん、このままでは高順こうじゅんの陣が突破される!

   曹性そうせい、急ぎ高順こうじゅんの援軍に向かえ!!


曹性:承知!! 皆、我に続け!!


夏侯惇:雑魚共どけィ! この俺の前に立ちふさがって馬に蹴殺けころされるな!!


高順:待て! これ以上は進ませんッ!

   それがしは呂布りょふ様の麾下きか中郎将ちゅうろうしょう高順こうじゅんなり!


夏侯惇:おう、あの有名な陥陣営かんじんえいか!!」

    我こそは夏侯元譲かこうげんじょう、相手にとって不足なし、来いッッ!


高順:参る、はあッ!!


夏侯惇:ほう、なかなか鋭い打ち込みだな!

    だが、これならどうだ! おおうッ!


高順:ぬううッ! さすがは夏侯惇かこうとん…だが! おおぁッ!


夏侯惇:どうした、陣を破るのは得意だが、一騎打ちはそれほどでもないと見える

    な! つあッ!!


高順:くっ…これはいかん…距離を取るか…!


曹性:!! あれは高順こうじゅん殿! 敵将に追われているのか!

   あの時の借りを返さねば…助太刀いたす!

   敵将め、この矢でも、喰らえッ!!


夏侯惇:!!! うっ、ぐおおおッ!!


高順:な、矢が夏侯惇かこうとんの眼に!? どこから……、! 曹性そうせい殿か!?


夏侯惇:ぬぅぐうううう………ぬあッ!


高順:ば、バカな! 刺さった矢を…目玉ごと引き抜いただと…!?


夏侯惇:これは父の精、母の血、どこにも捨てる場所がない!

    ああもったいなや!!


高順:た…食べた…自分の眼を…何という男だ……!


夏侯惇:ぬううう…。

    ! おのれ下郎げろう、貴様かッ! そこを動くな!!!


曹性:ひいいッ! ば、化け物め!


夏侯惇:【↑に被せて】

    ぬぅおおおおあああああ!!!


曹性:ぐぎゃッ!!!


高順:曹性そうせい殿ッ!! …それがしを救うために…!

   くっ、だが敵は深手ふかでを負った。包囲して討ち取れ!!


ナレ:この後、夏侯惇かこうとんは弟の夏侯淵かこうえんに救われ撤退てったい

   呂布りょふは勢いに乗って小沛しょうはいを攻め落とすと、高順こうじゅん張遼ちょうりょうに守備を任せた。

   しかし、かねてから呂布りょふ軍内部で攪乱かくらんの役目を負っていた陳珪ちんけい陳登ちんとう父子の

   計略にかかり呂布りょふ軍は壊乱かいらん小沛しょうはい徐州じょしゅうの城も奪われ、ついにヒの城へ

   追い詰められる。

   高順こうじゅん陳宮ちんきゅうと共に城南門じょうなんもんの守備を

   受け持っていたが、仲の悪いこの二人がいさかいを起こさずに済むはずが

   なかった。


高順:むぅ…このヒ城を水攻めにするとは…曹操そうそう軍には策士がいると見

   える…。


陳宮:ふん、呂布りょふ殿が我が掎角きかくの計を用いていてくだされば、今ごろ曹操そうそう軍は輸送

   路を断たれて壊滅していたものを!


高順:(…確かにそうだ。だが、おそらくそれがしと陳宮ちんきゅうの対立を気にして策

   を実行に移せなかったのかもしれぬ…それをこの男…。)


陳宮:まあいい、袁術えんじゅつ殿の援軍が入れば、曹操そうそうなど今度こそ端微塵ぱみじんよ!


高順:…袁術えんじゅつの今までの動きを見れば、そう上手くいくとは思えんな。


陳宮:ッ! ほう! ほうほう! 高順こうじゅん殿もずいぶん策士になられましたな!?

   では袁術えんじゅつ殿の援軍無くともこの窮地きゅうちを乗り切れると!

   そう言われるのですな!?


高順:…そう申してはおらぬ。


陳宮:いやはや、さすがですなァ! 呂布りょふ殿に信頼されている、戦いの時だけ兵を

   預けてもらえる方のおっしゃることは、一味違いますなァ!?


高順:ッ……!


陳宮:おやおや、その目と手の動きは何ですかな!?

   まさか、味方を斬ろうと、そういうことですか!?


魏続:二人とも、落ち着かれよ! 皆、おさえろ!


高順:! 魏続ぎぞく殿…! …?


陳宮:な、何ですか、私は冷静です! 放していただきたい!

   !? な、なぜ縄を!?


魏続:いや、生憎あいにくとお二人を放すわけには参らぬ。

   これからそれがしと共に、曹司空殿そうしくうどのの元へ行ってもらうからだ。


高順:!! く…裏切りか…!


陳宮:な、なぜ裏切るのですか!

   いずれ袁術えんじゅつ殿の援軍が到着すれば、曹操そうそうなどこの吹雪ふぶきの前に散り残った枯葉かれは

   に等しいのですぞ!!


魏続:…現実が見えておらぬようだな、陳宮ちんきゅう殿。

   あの言動に一貫性のない袁術えんじゅつが、自分の元へ姫君ひめぎみを届けられなかった我らを

   救援に動くはずがなかろう!


高順:なぜだ、魏続ぎぞく殿! 貴殿きでん呂布りょふ様の縁戚えんせきの間柄ではないか!


魏続:たとえ縁戚えんせきであろうと、このままではあの思慮の足らん呂布りょふに引きずられて

   死あるのみだ。死んで花実はなみが咲くものか!

   さあ、問答はここまでだ! 立て! 歩けッ!

   宋憲そうけん殿! 侯成こうせい殿! 後は手はず通りに。


高順:(何という事だ…呂布りょふ様は、一番信じていた親族に土壇場どたんばで裏切られた

   というのか…そしてそれがしもこんな終わり方なのか…無念だ。) 


ナレ:陳宮ちんきゅう高順こうじゅんはそのまま、城外の曹操そうそうの陣へ連行された。

   それを知った呂布りょふも後を追うようにしてみずから降伏。

   最後に残ったヒの城も、魏続ぎぞくらの裏切り内応によってついにちた。

   それからしばらくののち、戦後処理の一大項目として彼らは処刑場へ引き出さ

   れる。


呂布:なんじら! どのつらを下げてこの呂布りょふに会えた義理か!

   与えられた恩を忘れたのか!!


魏続:ははは…、その愚痴ぐちは日頃、将軍が寵愛ちょうあいされていた妻や寵姫ちょうきなどへ仰っ

   たらいいでしょう。

   我ら部将は、将軍から百叩ひゃくたたきの刑や苛酷かこくな束縛は頂戴ちょうだい

   た覚えはあるが、

   将軍の愛された婦女子ほどの寵愛ちょうあいを受けた事はありませんな!


呂布:ぐっ、ぬううぅぅうう……!


曹操:陳宮ちんきゅう、久しいな。

   今日、こうしてなんじの前に捕虜ほりょとして引きえられたが

   、なぜこのような事になったと思う?


陳宮:ふん、勝敗は時の運だ!

   この男が私の献策けんさくを用いなかった為、こうなったに過ぎん!


曹操:そうか。では次に、年老いた母や妻子はどうするつもりだ?


陳宮:【若干声を詰まらせながら】

   ッ…、天下を治める者は人の親を殺したり、妻子を途絶とだえさせたりしないも

   のだ。母の生死は私の手中しゅちゅうには無い…!


曹操:っ…。


高順:(…なるほど、曹操そうそう陳宮ちんきゅうを助けたいのか…いや、殺すに忍びないのかもし

   れぬ…。だが、陳宮ちんきゅうに助かりたい気持ちはあるまい…。)


陳宮:もう、無用な問いはやめたまえ。

   願わくば、すみやかに軍法ぐんぽうに照らして処刑するがいい。

   これ以上生きるのは…恥だ。


曹操:! ああ……!【涙ながらに嘆息】


高順:(陳宮ちんきゅうくか。)


陳宮:曹操そうそう! 最後に問答もんどうを仕掛けてくれた事、感謝するぞ!


ナレ:処刑人が剣を振り下ろす。陳宮ちんきゅうの首は黒血こっけついて、首は四尺よんしゃくも飛んだ。

   曹操そうそうはそのさまを見届けると、酔いがめたかのごとく、次に呂布りょふの処刑を

   指示した。


曹操:次は呂布りょふだ! 呂布りょふ成敗せいばいしろ!!


呂布:ッ司空しくう曹司空殿そうしくうどの

   司空殿しくうどのうれいとする呂布りょふは、これこの通り降伏して除かれ

   ているではないか。

   俺が騎兵を、司空しくうが歩兵を率いれば、天下はあっという間に平定できる!

   無用の殺戮さつりくをせず、助けてくだされ!

   呂布りょふすで心服しんぷくしている!


曹操:…劉備りゅうび殿、彼の訴えを聞いてやったものか、どうか?


劉備:…さあ、そのはいかがしたものでしょうか。

   いま思い起こされるのは、その昔、彼が養父ようふ丁原ていげんを殺害して董卓とうたくに付き

   、またその董卓とうたくを斬って洛陽らくようの都に争乱を起こしたことなどですが…。


呂布:く、くそっ、この大耳野郎おおみみやろうめ! こいつこそが一番信用できんのだ!!

   かつて袁術えんじゅつに攻められた時、俺がげきを弓で射て和睦わぼくさせた恩を忘れたのか!


張遼:見苦しいぞ、呂布りょふ様!! 死すべき時に死なぬのは恥と心得られよ!!


曹操:処刑人ども、その首を早くめてしまえ。


呂布:うっ、ぐっ、ぬぅぅううおおおおおあああぁぁぁああああ!!!


ナレ:いよいよ逃れられぬと悟った呂布りょふは、暴れに暴れて容易に処刑人たちの手に

   掛からなかったが、無理やりその場に抑えつけられたままくびり殺された。


   そして高順こうじゅん走馬灯そうまとうの流れから、意識を現実に戻した。


曹操:高順こうじゅんなんじにも苦しめられることが大きかった。

   どうだ、つかえぬか。


高順:……。

   (武運ぶうん、ここにきるか・・・だが、悔いはない。)


曹操:陥陣営かんじんえいと称されるその武勇、の為に、いや、この乱れた天下をしずめる為に

   貸してくれぬか。


高順:………。


曹操:…もくして応えず、か。

   忠義としては立派だが、呂布りょふのような暗愚あんぐで暴勇のみの男につかえたまま死ん

   では浮かばれまい。


高順:(だが、自分は二君にくんつかえる気は無い…また、曹操そうそうのような男の元では

   、自分は今まで以上に生きづらくなろう…。)

   曹操そうそう忠臣ちゅうしん二君にくんにはつかえぬものだ…早く斬れ。


曹操:【溜息】

   あくまで呂布りょふを主君として共にじゅんじるか…。

   実に惜しい…が、よかろう!………やれ。


高順:………。

   (これでよい…さらば…。)


ナレ:建安けんあん4年2月7日、高順こうじゅんヒ城の白門楼はくもんろうにて、その波乱に満ちた生涯しょうがい

   閉じた。

   歴史上においては、彼の活躍した期間はわずか数年ほどしかない。

   しかし、その武勇と人柄は同時代を生きた多くの英傑達に感銘かんめいを与えた。

   正史・三国志において個人の列伝を持たない存在でありながら、曹操そうそうのち

   つかえる王粲おうさんが記した漢末英雄記かんまつえいゆうきに名前があげられてたたえられたり、その他

   幾つかの書物にも名前が散見さんけんされているところから、

   その人となりをうかがい知る事ができるだろう。



END



●参考動画


●YouTube

・【三国志解説24】寡黙にして忠勇の将・高順【ゆっくり史伝】三國志14発売記念

※修正版

・陥陣営!高順【三国志武将紹介 第33回】

・高順とはどんな人?自らの伝はないが記録に残る呂布軍の名将


●Wikipedia

・高順



●語句

【君、君たらずといえども臣、臣たらざるべからず】

主君に徳がなく主君としての道を尽くさなくても、臣下は

臣下としての道を守って忠節を尽くさなければならない。

《「古文孝経」序から》




正史三国志成分多めの作品としたつもりでしたが、いかがだったでしょうか。

ゲームでは三国志Ⅴから急激に能力が上がっており(84/100)、呂布軍の中では張遼に次ぐ武力を誇る。(呂布は除く)ぶっちゃけ89とか90でも驚かない。

その後も武力は評価され続け、三国志13では最大の87にまで上昇している。統率力も90近い数字と優れている。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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