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2話



「…………。」



おかしい。いつまで経っても未来が来ない。


いつもならこの時間にはほぼ必ずと言ってもいい程俺の家の前に居るはずの未来の姿が何処にも無い。


寝坊か?


俺はそうは思ったが、すぐさまそれは無いなと考えを改めた。


未来はあれな感じだが、意外にしっかりものなのだ。


だから未来が寝坊した事など見た事が無いし、寝坊するなどとも思えないのだ。


風邪を引いてもすぐに連絡を寄こすし、今日みたいに何も無い日に未来が俺の家の前に居ないのは初めてなのだ。


周りを念入りに見渡しても未来の姿は無い。


未来は悪戯をするような性格でもないから何処かに隠れている事もないだろう。


俺はキョロキョロしながらゆっくりと歩き出した。


このままここに居たら普通に遅刻してしまうし、今日は何か仕事があって先に登校したのかもしれない。


俺は()()()()()()()()を感じながらも、自分にそう言い聞かせそのまま登校した。



だが、それが間違いだった。いや、正確に言えばもう手遅れだった。


それから俺は今までの人生で一番の絶望を味わう事となる。




◇◇◇◇




遅刻ギリギリで学校に着いた俺は出来るだけ気配を消して自分の席についた。


なんだろう。今日は妙に騒がしいな。


いつもクラスの陽キャ軍団はホームルームが始まる前まで喋ったりしているが、今日はそいつらだけでなく、なんというか、学校全体が騒がしかった。


何かあったんだろうか。


誰かに聞こうにも俺は友達が居ないので、情報が何も無い状況だ。


俺が周りの会話に聞き耳を立てようとしていた時、扉が開く音がした。


喋っていた生徒たちが一気に静まりかえる。


うちの担任はかなり怖い人で、昔1回思いっきり喝を入れられたことがあり、それ以来クラスの人達はビビって扉の音が聞こえただけでも静かになるようになったのだ。


先生は俺たちを一瞥した後、教卓に着いた。



「起立、礼。」



日直がそう言うと、クラスの全員が立ち上がり礼をした。


先生は無言で何かのプリントを配っていく。


これは…………いじめアンケート?


滅多に配られるものでもないが、特に珍しいものでも無いので、俺は気にせずにそれをファイルにしまった。


全員にプリントが行き渡ると、先生は話し始めた。



「まず、お前らも知っていると思うが、昨日、1年生の女子生徒が飛び降り自殺したそうだ。」



心臓が異常なまでに脈打つのを感じる。


俺は最悪の考えが頭をチラつくのを必死に気づかないようにしながら、ただ無感情で先生の話を聞いた。



「原因はクラスメイトからのいじめだったそうだ。その生徒の所持品から遺書が見つかった。そこには誰がとは明確には書かれていなかったが、クラスメイトからのいじめに耐えられなくて自殺してしまったようだ。」



少なくとも、あいつがいじめられている所なんて見た事がないそれにいじめられている様子も無かった。


だけど…………。


最悪の考えは俺の頭から消えてくれなかった。



「お前らの中でいじめなんかが起こっているとは思えないが……………まぁ、一応だ。いじめアンケートが配っておく。お前らわかってると思うが、くれぐれも嘘は書かないでくれ。次に…………」



その後も先生は連絡などを話し続けたが、俺の頭には何も入ってこなかった。


そして、今日と明日は色々とやらなくてはいけないことがあるため、休校となるそうだ。


そして俺は何も無いまま家に返された。


帰宅途中、俺は歩きスマホをしながら未来へと電話をかけたり、メールを送ったりした。


返信はない。


俺は自分の家に帰ることは無く、そのまま未来の家へと向かう。


家に着いたら、未来が元気な姿でそこにいて、いつもの調子で俺に痛い発言をしてくるはずだ。そうに違いない。


先生はその女子生徒の名前を言わなかった。


いや、言ったのかもしれないが、俺は聞かなかった。


その女子生徒は未来なはずが無い。


あの未来が死ぬはずがない。


頭の中でそんな思考がぐるぐると巡っていた。



そして、未来の家に着いた。


未来の家には何回もお邪魔した。


その度にゲームをしたり、本を読んだり、一緒に色んなことをした。


そのうち、未来の家は俺にとって自分の家よりも好きな場所だった。


しかし今はどうだろうか。


今の未来の家からは楽しい雰囲気など感じられず、とても入りがたいおどろおどろしい雰囲気が漂っている。



ピンポーン



俺はインターホンを鳴らした。



「はい…………。あ、あなたは…………。」



出てきたのは未来のお母さんだった。


明らかに顔色が良くない。



「どうぞ、入ってください」


「分かりました。」



俺は未来のお母さんに促されるまま、リビングに入った。


俺と未来のお母さんは向かい合って座る。


少しのあいだ沈黙が続き、ようやく未来のお母さんが話し始めた。



「ここに来たってことは…………未来が自殺したことはもう知ってるんですね?」


「…………。」



聞きたくなかった。


未来が自殺した。


もう薄々勘づいていたことだったが、心のどこかで、勘違いなんじゃないか。自殺した女子生徒は未来じゃなくて、他の女子生徒なんじゃないかという考えが残っていた。


しかし、未来のお母さんから告げられたその一言で未来の死は確定してしまった。



「ううっ……うぁっ…………。」



突然の別れに涙が止まらなかった。


俺が泣いていると、呼応するような未来のお母さんも泣いていた。


未来のお母さんは泣きながらも俺に喋りかけてきた。



「あなたには感謝しているんです。あの子とあそこまで親しくしてくれたのはあなただけだったので…………。けど、あなたがもっと支えてあげていれば…………あの子は…………。」



そういいかけて、未来のお母さんはハッとした様な顔をした。



「ごめんなさい…………。」



部屋には俺の啜り泣く声のみが響く。


当分泣きやめそうにも無かった。


俺は自分では未来との仲はとても親しいものだと勘違いしていたのかもしれない。


未来のあの痛い発言の中に隠されたあいつの悩みすら気づけなかった。あいつの心の支えになってやれなかった。


泣いても何も解決しない。


それは分かっているのに、涙は止まらない。


気づけば時計は夕飯時を指し示していた。



「ごめんなさい。長居してしまって。」


「いえ…………。明日未来の通夜があります良かったら来てください。」



そう言うと、未来のお母さんは日程や場所の書いた紙をくれた。


俺は泣きながら暗くなった道を進んだ。

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