第42話 冒険者指導
数日が経ち、日常が戻って来た。お金はあるが狩に行く。肉は必要だ。
精算をしに冒険者ギルドに行くと精算終わりにメリーさんに声を掛けられる。
「コウさん、少し宜しいですか?」と笑顔なミリーさん。
「なんでしょうか?」とこちらも笑顔を返す。
「ご相談したい事がありまして」これはもしや!恋愛相談か?
「はい」
「実はFランクの魔法使いの冒険者がいまして少しの間で構わないのでコウさんが面倒を見て頂けないかと」えっ?恋愛相談では無い?残念だな。Fランク冒険者のお世話ですと?俺も初心者に毛が生えた程度なんだが。
「どう言う事ですか?」
「そうですね。高ランク冒険者は下級冒険者を指導する義務がありまして、今回はBランク冒険者であるコウさんがFランクの冒険者を指導すると言う事です」
「そうなんですか。初めて知りました」
「それで今回お願いしたいのは彼です」と壁際に立っている細身の何か自信無さげな若い冒険者を指差す。
「レネさん」とミリーは声をかけると、レネと呼ばれた冒険者はビクッとしてこちらを向く。ミリーさんが手招きして呼ぶと、
「こちらが指導してくださるBランク冒険者のコウさんです」とミリーさんはレネに紹介する。レネはこちらを見てえっ?と言う顔をする。まぁ、そうだよね。レネは若いと言っても俺よりは年上っぽいしね。
「コウです。宜しく」挨拶する。
「えっ、あのぼ、僕はレネです。魔法使いのFランク冒険者です」と慌てて挨拶する。翌日朝にまた会う事を決めてギルドを後にする。
翌朝、冒険者ギルドに来るとレネは既に来ていて壁際にボーッと立っている。まぁ、最初は薬草採取をしながら実力を見よう。
北門を出て草むらを歩く。人気の無い見通しの良い場所に到着する。
「ではレネさん、少し魔法を見せてもらえますか?」とレネに言うとレネはモジモジする。
「ああ、どんな魔法でも良いですよ。ただ、現在の実力が分からないと指導しようが無いのですよ」とにこやかに告げる。
何か決意を固めたように、
「はい、やってみます」と言うと集中し始めて、
「聖なる泉の精霊よ、我が願いを聞き水の球を顕現せよ。敵を打て水球!」と言うと歪んだ水の球を生成してヘロヘロと1m飛んだかと思うとベチャっと落ちる。
「す、済みません」と何も言っていないのにレネは謝り始める。
「私は、何も怒って無いですよ。レネさんの使える属性を教えてください」と聞くとレネが使える属性は4属性。火、水、風、土である。4属性持ちは初めてあったかも。優秀だね。
「レネさん、大体の事はわかりました。まずは詠唱は忘れましょう」と言うとえ?という顔をする。なので、火球を無詠唱で連続して放つ。それをみたレネは唖然とする。
「レネさん、詠唱も必要ありませんし精霊も関係ありませんよ。あなたの魔法が歪だったり飛ばないのには理由があります」
「しかし、学院では・・」と言い出すが遮り、
「私も学院の卒業者ですよ」と言ってみるとレネはえ?という顔をする。
「1ヶ月で卒業ですよ」と笑顔で言う。
「王都の学院をですか?」
「そうですよ。在学中には嘘を教えるなと言ってやりましたよ」とウンウンと頷きながら言う。
「私も王都の学院を卒業しましたが、詠唱が大事で発音や発声が重要だと教えられました」
「多分ですが、そう言う教えの人は現在の学院には居ないかもしれませんよ。結構な数の教員が首になりましたからね。教頭もですよ」
「噂は本当だったんですね。ではコウさんが・・」
「ふふふ、詮索は無用ですよ。では肝心の講義をしましょうか実績がありますので安心してくださいね。まずは詠唱せずに属性魔法を使ってみましょうか。イメージが大事です。属性魔法は単体では飛んだり矢の形にはなりません。火なら自然に火が噴き出すイメージで、水なら綺麗な水が手から流れ落ちるイメージで風は手から前方に風が強く噴き出るイメージに土なら穴でも開けましょうか、できるだけ大きく深く。ではやってみましょう」
レネは目を瞑り掌を上に向けて念じる。ボゥッと火が掌から噴き出る。
「で、出来た」とレネは声を振るわせる。その後は水を出し、風を吹かせ、地面に穴を開ける。レネはその結果に唖然とする。
「これで詠唱はいらないとわかりましたね。では次ですね。属性魔法を形を整え飛ばしたりしているのは無魔法です」と言うとレネは驚く。そんなことは聞いた事がないからだ。
「初めのうちは結界の生成訓練をします。なるべく大きく、強く、持続時間が長くなるように念じて発動してみて下さい」と言うとレネは結界を発動。
大きさは10㎝×10㎝、強度は殴ると壊れる程度、持続時間は40秒。これは優秀ですね。
この日は1日中の殆どの時間を結界生成に費やした。その結果、20㎝×20㎝、強度は変わらず、持続時間は3分まで伸びた。これは案外早く物にするかもしれませんね。
午後3時頃に訓練を辞めてコウの指示で薬草を採取。6本の薬草束を持ちギルドに向かう。精算したら宿に向かう。
聞いたらレネも夕暮れ亭に宿泊しているとか。寝るまで結界生成を訓練すると良いよとアドバイスして部屋へと入る。
そんな生活を1週間続けるとレネの無魔法の習熟は進む。
レネの結界は3m×3m、強度は人が殴っても壊れない程度、持続時間は1時間となった。
「レネさん、今日から属性魔法の訓練をしましょうか?」と言うとレネは嬉しそうに、
「はい、師匠」と元気よく答える。
お読みいただきありがとうございます。
明日からは1日1話に戻ります。
少しでもおもしろいと思っていただけましたら、ブクマ、評価をお願いいたします!