第32話 属性魔法と無魔法
そいつは突然現れた。
「嘘を教えないで下さい」
鮮烈な言葉だ。俺は嘘を教えているつもりも無いが本当の事を教えている気もしていない。まずは分からないからだ。昔から言われている事を教えているだけだ。だが、これでも元宮廷魔術師だ。教えられた事と矛盾するような体験は無数にある。
それを目の前の少年はさも簡単な事の様に属性魔法を無詠唱で飛ばす。それも威力も飛ぶ距離も宮廷魔術師よりも良い。魔法の連射速度も尋常ではない。
夢でもみているのか?
いや、実際。今、目の前で起きている。間違いない。この少年は何者なんだ。そうだ、思い出した彼は試験の時に試験場を吹っ飛ばした生徒だ。クラスを受け持つ時に確認した。
思わず、授業をほっぽって教員室にきてしまった。教師失格だな。俺は何をやっているんだ。
確かに俺は人との意思疎通は苦手な方だ。だがやっていい事と悪いことがある。授業放棄はダメだ。
授業終わりにクラスで謝ろう。
さて午後は武術指導だ。動きやすい服装に着替えて校庭に出る。
いかにも脳筋な先生がニコニコして待っている。
「俺が武術指導担当のメントだ。用意はいいか?今日は各人の能力をみる。1人ずつ俺が相手をする。準備が良い奴から掛かって来い」
俺は適当な木刀を選んで1番目に行く。
「ふむ、いつでも掛かって来て良いぞ」と言われたので踏み込みからの抜刀。メントの腹を打つ。何か呻いて蹲っている。とりあえず俺の番は終わりだと周りを見ると口をポカ〜ンと開けている。まぁ、頑張れ。と心の中でエールを送る。
15分経った所でメントが復活。何か膝が震えているが大丈夫か?
何とか授業が終わった。何かメントは辛そうだった。回復魔法でもかけるか?まぁ大丈夫だろう。最後は笑っていたしな。膝もな。
今日の授業は全て終わった。言われた通りに教員室へと向かう。教員室に入るとメルキスを探す。いたいた。
メルキスに近づくとあちらも気付いたようだ。こちらに向かってくる。
「ついて来い」と言われてついていくと、どうやらメルキス個人の研究室に来たみたいだ。狭いが整理整頓されていて論文と思われるものが机の上に置いてある。読みたい。
「まずは授業を放棄してしまい申し訳ない」と頭を下げるメルキス。まぁ良いかと、
「俺は良いですよ。他の生徒に謝ってください」
「そうだな」と言う。悪い奴では無さそうだ。
「それで君が言っていた事だがどう言う事だ」と言われたのでマリオさんや銀狼に教えた事をベースに魔法理論を話す。
聞いているメルキスはメモを取りながらウンウン頷いている。心当たりがあるようだ。
「では結界生成が魔法上達に役立つと?」
「そうです。まず結果がわかりやすいですからね」
「君の話では属性魔法は単体では属性付与するだけだと言うのだな。そして飛ばしたりアロー系やジャベリン系に変形させて飛ばすのは無魔法だと」
「はい、そうです」
意外にこの先生物分かりが良いな。何か思い当たる事があるのだろうな。
授業が終わり教員室で書類を整理していると彼が現れた。直ぐに席を立ち自分の研究室へと案内する。
まずは謝るが彼は他の生徒に謝ってくれと言われる。そうだな。後で謝ろう。
それから魔法の話になった。目から鱗が落ちる気分だ。
結界が魔法の成長に役立つのは自分の経験で知っている。俺は初めこの学院を卒業した時に宮廷魔術師の下部組織である王国魔法師団に入った。そこではひたすら結界の生成の訓練をさせられた。宮廷魔術師が攻撃担当なら防御担当は王国魔法師団が担う。その過程で結界を鍛えたのだ。
俺はかなり強力な結界が張れるようになると共に攻撃魔法も格段に進歩した。それが認められて俺は宮廷魔術師の末端に名を連ねる事に成功した。
今思えば結界を鍛えたから属性魔法がよく飛び威力が増したと今なら分かる。
無魔法は誰でも出来るからこそ派生が多いから面白い。時空間魔法も使えるようになるらしい。何人か彼の指導で収納が使えるようになったのだとか信じられない。それが本当だとしたら革命が起きる。
彼に証明する方法はあるかと尋ねると簡単に答えた。先生の立場なら簡単だと言う。
入学したての生徒の属性魔法を調べて威力などを記録。それからは結界のみを練習させる。項目は大きさ、強度、持続時間。これを定期的に記録。結界が一定のレベルに到達した所で無魔法を使い属性魔法を使わせて、その威力や飛距離を初めと比べれば一目瞭然だと言う。なるほどと思うしこれは俺にしか出来ない。
これが確立出来ればと考える。ごくりと唾を飲み込む。
よし、何人かの生徒に協力してもらい記録をつけていこう。
何か王国の魔法の歴史が変わる予感がする。
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