第286話 新しい宇宙 サイとヘルミナ⑧
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称は架空で有り、実在のものとは関係ありません。
◇新しい宇宙 サイ
「サイさんと言ったかしら」
と王女が俺らに追いついて聞いてきた。
「そうです。サイです」
「これが本当に飛ぶのかしら?」
と王女は船の中の通路をキョロキョロと見渡して問いかけてくる。
「はい、飛びます」
と問いに答えると前方を歩くヘルミナが突き当たりの扉を開けて入って行くのが見える。王女の問いかけに答えながらヘルミナが入って行った扉の中へと行くと、
「この船生きているわ」
とヘルミナはこちらを見ずにコンソールを操作している。
「動きそうか?」
「動くは動くけど私たちの船と違って、このコントロールルームだけでも五人は必要よ」
「操作方法は?」
「このユニットに記録されているわ」
とヘルミナがコンソールを叩くとモニターに操作マニュアルと言う記録が表示される。
「王女様、人数は揃えられますか?」
「問題無いわ。何人必要かしら」
「ヘルミナ、何人必要だ?」
「そうね、予備も含めて二十人は必要ね」
「二十人ね、直ぐに集めるわ」
と王女は答えると後ろにいる文官に指示を出す。
ふうっ、何とかなりそうだな。あとでヘルミナと相談する必要があるが、これなら報酬として一番小さい船を貰うことも可能かもしれない。
チラリとヘルミナをみると偶然目が合う。ニコリとヘルミナは微笑むと顔を近づけて来て、
「報酬の件だけど頼んで良いかしら?」
「小さい船だな」
「そう」
と短くヘルミナは答えると次々にコンソールを操作して行く。暫くすると低い振動音と共にコントロールルームにあるモニターが全て点灯して前左右にある大型モニターが点灯すると外の状況が映し出される。
「おお」
と王女と女騎士、文官が声を上げる。次にヘルミナがコンソールを操作すると小さなモニターに船内の見取り図が表示される。
「サイ、士官室が四つあるわ。王女様をここの一番大きな士官室へと案内してあげて」
「了解だ」
とヘルミナに答えると王女様御一行を士官室へと案内する。一人の文官は残るようだ。士官室へ着き中へと入ると十五畳程の空間があり、大きなベッドと応接セット、ミニキッチンがある。奥には扉があり確認するとトイレと洗面所付きのシャワールームがあった。
色々と触ってみると操作方法はこれまで使っていた物と変わりがない。早速、王女たちはソファーに座り、一人の文官が外へと出ていく。
どうやら王女付きの侍女と色々な物を運び込むらしい。一時間もすると侍女や荷物が届いてキッチンをぎこちなく操作しながらお湯を沸かしてお茶を入れている。
途中、ヘルミナが部屋へと来てクルー用の食堂へと行く。
「報酬の件は?」
「少し話したぐらいだが了承されそうだ」
「簡単に了承するわね」
とヘルミナが首を捻る。
「どうやら、もう一つの遺跡で同じような通路が見つかったらしい」
「それで」
「ああ、もしかするとあと何隻かの船が見つかる可能性がある」
「もう少し私達の力が必要と言うことね」
「そうだ」
というとヘルミナは収納から暖かい缶のお茶を出して適当な席に座る。
「人員が揃い次第に訓練かしら」
「そうなるな」
と俺も席に座りお茶を収納からだしてゴクリと喉を潤す。
「じゃあ、早めに船を貰って居住しましょうよ」
とヘルミナは楽しそうに言うが、その折衝は俺がしなければならないだろう。
溜息が出る。まぁ、ヘルミナの言う通りだろうがな。早めに船の確認だけでもした方がいいだろう。
暫くすると王女付きの侍女が来て俺を呼んでいるという。何だろうか? 侍女の後ろに付いて王女がいる部屋へと行く。部屋に入ると王女が座るソファーの対面に座れと促されて座ると侍女がお茶を用意してくれる。良い香りがするな。
「それで王女様、何か御用でしょうか?」
と聞くと、
「先程の報酬の件だけど、そちらの要望で良いわ」
「そうですか! ありがとうございます」
と頭を下げると、
「その代わりと言ったら何だけど、今回は二十人を訓練するのだけど、もう少し多くの人員を訓練してくれないかしら?」
俺は少し考えたフリをしながら、
「了解いたしました」
「そう、ありがとう。そうね、食事や必要な物はそこにいる侍女に言えば揃えるわ」
と王女は壁際に立つ侍女を見て言う。
「はい、何か必要な事があれば相談させて頂きます」
と答えて頭を下げる。ふうっ、いつも交渉事はルカが担当だったのだが経験してみると頭が下がるな。早速、ヘルミナに伝えないとな。
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