第152話 サイの現在地とルカの心境
サイは小型戦闘艦の個室に入ると外を写すモニターを見て考えを整理する。考えがまとまったところで部屋に設置されている端末を操作するとナブにアクセスする。
まずは魔法力を上げる方法はあるか?魔力量を上げるには?と色々とルカと話している時に浮かんだ事をナブに聞いてみるとナブからは何故にそんなに焦っているのか問われた。
サイは正直にコウとの差を指摘してそれで焦っているとナブに言った。そうするとナブはサイが考えてもいなかった事を話し出す。
ナブが指摘したのサイの現状だ。ナブが精査したサイのデータからすると、まずはサイの生まれた星ではコウを除けば1番だと言う事。それも圧倒的な1番だ。
更にナブの話は続き、今のサイの魔力量から換算するとサイの寿命はあと300年だと言うのだ。今の時点でだ。
今の時点でもおとぎ話の賢者様のような存在だとナブは言う。
確かに低級魔法なら同時に50以上は展開出来、上級魔法でも複数の行使が可能なのだ。あの上級魔法の威力に匹敵する魔法をアーマーを通してでも数千にも及ぶ行使を見てしまった故の焦りだった。
現在、船内で食べている料理に使われている料理の材料は基本的に船内で収穫されたもので野菜・魚介類・肉全てが魔力が豊富な材料であり、それを毎日食べているだけでも魔力量が上がり、サイが常日頃行っている訓練だけでもその魔法力と魔力量は上がり続けるだろうとナブは推察した。
それにサイはまだ若い。10代なのだ。
ナブの予想ではこのまま魔法力や魔力量が順調に伸びれば寿命は1000歳を超えるだろうと言った。
1000歳だ。
サイはナブに言われて初めて気が付いた。今の環境は異常なのだと。何の憂いもない環境なのだと。
サイはそれらを聞いて自然と笑いが出た。
何の問題も無い。慢心せずに訓練を続ければいつか必ずコウの足元にたどり着けるのだと。ならばやって見せようでは無いか。
“遥かな高みへとたどり着くと“
最後にサイは更に効率的な訓練方法をナブに教わり訓練スケジュールを組んでいく。
ルカは休憩を済ますとコントロールルームに戻り、ナブとデータの確認作業を再開する。それらが一段落した所でコントロールルームにある座席に座ると、先程サイと交わした会話を思い出し、
「皆んな色々と悩みながらやっているんだな」
と思わず呟く。
確かに私も必死に魔法の訓練やナブに教わりながらデータの処理や魔導システムの原理・構築方法などを勉強している。
このままではイケナイ。置いていかれると焦りにも似た感覚がある。サイもそんな感覚があるのだろう。
私から見ればサイもおかしい存在だ。コウのアレが普通なのだと錯覚してしまえば、それは焦りもするだろう。
でもコウが規格外過ぎるのだ。
アレは別の生き物だと考えるのが良いのだ。ナブと会話していると良く分かる。ナブでさえおかしいと思っているのだから。
まぁ、そんな事は置いといて毎日が充実している。楽しいのだ。
あの辺鄙な村にいた頃では考えられない生活だ。
絶対に食らいついて皆んなについていく。絶対だ。
もうあんな生活に戻るの嫌なのだ。
『ルカ、もうすぐ予定空間に到達します』
「ああ、ナブ。では予定通りに探査ポッドをステルス状態で目標の星に射出して」
『了解、ルカ』
とナブとやりとりをしながらモニターを見ていると次々に探査ポッドが射出されて行くのが表示される。
射出された探査ポッドからは直ぐに周囲状況の詳細データが送られて来てモニターにデータとして流れて来ている。
「この星の原初の船とのコンタクトはどうかしら」
とルカがナブに聞くと、
『現在、コンタクト通信を送信中・・・・返答あり』
「特に問題無い?」
『はい、ルカ。問題無く原初の船とのやりとりは成功です』
『マスター』
と母船内の自室で寛いでいるコウにナブが報告をする。
「どうした?」
『はい、先行偵察中の小型戦闘艦が予定宙域へと到達、探査ポッドを無事に射出して順調に目標の星のデータを採取しています』
「そうか。原初の船は?」
『原初の船ともコンタクトに成功して、原初の船は当初の目標を達成したとして、こちらとの合流を望んでいます』
「了解した。段取りは任せたナブ」
『はい、マスター』
とナブが返してコウは読みかけの古代書を自室のソファーに寝転びながら読む。側のテーブルにはウィスキーがロックで置かれてローストしたナッツがツマミとして置かれている。
カランっと溶けた氷がグラスの中で動き音を立てる。部屋のモニターには光り輝く宇宙の景色が流れる。
体を起こしてウィスキーを一口飲んで一息吐く。ナッツを一つ掴んで口に入れてウィスキーとのマリアージュを楽しんで、
「美味い」
と呟いてゴロンとまたソファーに転がり古代書の続きを読む。
そして緩やかな時間が流れていく。
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