第129話 タキノ
「お前ら身包み置いていけ」と茂みから現れた貧相な盗賊10人。
それを見たサイはニヤニヤしている。
「おい!聞いているのか!」と盗賊の頭と思われる男が叫ぶがコウとサイは笑顔を浮かべている。
「くそっ!舐めやがって!野郎ども!思い知らせてやれ!」
「へいっ!」と盗賊達は手に短剣やナイフを持って一斉に襲い掛かってくるが結界に阻まれて攻撃ができない。それを見ながらコウとサイは更に笑みを深める。それを見た盗賊のお頭は他の盗賊を下がらせると背中に背負っていた大剣を上段に構えて気合いの裂帛と共に大剣を結界に叩きつけるがギッ、カラーンと音がして大剣が折れて折れた刃先が飛んでいく。
折れた大剣をお頭は唖然と眺めていると、
「もう良いですか?」とコウが声を掛けるが、
「まだだ!」とお頭は吠えて結界に拳で殴りつけるが・・。
「ぐっうぅ」と拳を抱えて蹲る。
「お頭!」と子分たちが駆け寄ってくると、
「さて次はこちらからですね」とコウとサイは見合わせて頷くとコウが盗賊たちの足元に落とし穴を土魔法で空けて落として、そこにサイが水を張り凍らせる。
「命までは取りませんが、そこで反省してください」とコウとサイは次の街へと歩く。
「サイ、水魔法の腕が上がりましたね」と振り返らずにサイに言うと、
「まあな、氷にするまでには時間が掛かったがコツさえ掴めばな」とサイは嬉しそうに言う。
そこからは盗賊とも出会うことも無く夕方には柵に囲まれた牧草地を抜けて街へと到着した。
門兵にオススメの宿を聞いて部屋を取ると夕飯を食べに外に出る。予め宿で美味しい所を聞いていたのでそこに向かう。
店に入るとかなり盛況のようだ。空いている席は無くカウンター席に2人で座る。
カウンターの中にいる女性にオススメを聞いてそれを頼んで2人は美味しいというエールを頼むとエールは直ぐに出てきた。
それをグビグビと飲む。常温だが確かに美味い。そこに頼んでいたオススメの料理が2人分置かれる。
内容は腸詰の焼いた物と芋と腸詰と野菜のスープだ。
先ずは腸詰を食べる。噛むとパリッとしていて肉汁が溢れる。美味い。でももう少しハーブや香辛料が効かせてあればもっと美味くなる。でも美味い。エールとも合う。
スープも美味い。肉の旨味と野菜の甘みが合わさって美味い。これも香辛料がもっと効いて入ればもっと美味くなるのだが。
まぁ、総じて美味い。
サイを見ると味には満足しているのか黙々と食べてはエールを飲んでいる。するとカウンター席の端の方から、
「おばちゃん、もう1杯くれ!」
「もうやめときなタキノ!」
とカウンターの向こうにいる女性が男に声を上げる。
「いいんだよ!折角師匠から剣術を受け継いで街まで来たっていうのに護衛しか仕事がねぇ!これを飲まずにやっていけるか!」
と男は女性に管を巻く。女性は溜め息を吐いて、
「もう最後だよ」
とドンと男の前にエールの入ったジョッキを置く。
「さすがおばちゃん」
と男は早速エールをゴクゴク飲むとコウとサイが見ていたのに気が付いて、
「なんだお前ら!何か文句あるか!」
と睨んでくる。コウとサイは苦笑しながらコウが、
「いえいえ、楽しそうで何よりです」
とコウは笑顔で答える。それを聞いた男は、
「テメェ!馬鹿にしているのか」
と凄んでくるがコウは、
「飲み過ぎているようですね」
とカウンター向こうにいる女性を見ると、
「タキノ!やめな!止めないと出禁にするよ」
と女性が言うと舌打ちをして大人しくなる。しばらくすると男はエールを飲み切ってお代をカウンターに置いて店を出ていく。しばらくすると片付けの終わった女性が来て、
「あんた達御免なさいね。アイツは悪いやつじゃあ無いんだけどね。こんな世の中だろ腕が立つ奴の行き場がなくてね。拗ねているのさ」
と女性は困った顔をする。
「いえいえ、私たちは気にしていませんよ」
とコウは答えて食事を続ける。女性からも色々と聞き出して食べ終わりお代を払い店を出ると、
「おい、お前ら」
と先ほどまでカウンターで飲んでいたタキノと呼ばれた男が待ち構えていた。
「何かようですか」
とコウが答えると、
「何処ぞの商人のボンボンと護衛の魔法師といったところか」
とタキノと呼ばれた男が剣に手を掛けて目を細めて言ってくる。
「ボンボンでは有りませんが確かに商人で魔法師の私コウと番頭で魔法師のサイです」
とコウはニコリと笑い。サイは後ろで笑いを堪えている。それを見たタキノは、
「馬鹿にしやがって!この距離で魔法師が剣士に勝てると思っているのか!」
とジリっと摺り足で距離を詰めてくる。
「ふふふ、たかが剣士風情が本物の魔法師に勝てるとでも」
とコウは首を傾げて笑いタキノを煽る。
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