97話 半日スヤスヤ
キキュ キュキュ…
「ああ~…。これはかなり良い感じですね~。」
「…。こんなんでそこまで変わるのか?」
「はい。上下の振動はほどほどで打ち消せてるし。前後左右の揺れが無いので、気持ち悪くも有りません!もっと早くに気付くべきだったな~。」
「まあ、良かったな。」
「はい!」
座席の周りに付けた支柱のおかげで、人力車はかなり乗り心地が良くなった。
毛皮のおかげでヘルメットやサポーターが座席の鉄とぶつかることもなく、吹き込む風が暑さを和らげてくれてる。快適だ。
余裕でシリュウさんと会話できるくらいである。筋肉痛も(ほとんど)気にならない程、気分が上がっている。
まあちょっとだけ、支柱のローラーの摩擦音が気になるけど…。今のところ大きな問題じゃあない。
音の軽減の為に、小さなベアリングをどんどん作るかねぇ…?
マシになると良いんだけど。
キュ キュキュ… キキ… キュキキ…
私達は砦には寄らず、そのまま北に向かって移動をしている。
昨日の時点で、シリュウさんの案内の任務は完了。
砦にはシリュウさん達が採取した、ロックプラントの枝と数匹のロックアントが届けられている。これらを精査し、大森林の拡大阻止及び監視任務の強化への足掛かりにするそうだ。
シリュウさんは殲滅する手助けなどはせず、対策をした騎士達が除去作業を行うらしい。
まあ、騎士とか国とかの面子もあるしね。変異型とは言え、魔木の定着を見逃していた失態を挽回しなければいけないだろうし。
自分達の居場所は、自分達で守るのが一番なんだろう。
────────────
ふわふわ~…
「──。──。」
むにゃむにゃ~…
「──ラ。お──、テ──。」
う~…ん…?
誰…?
「テイラ。起きろ。」
「……シリュウ、さん? ……おはよう、ございます…。」
目を擦りながら見下ろすと、呆れ顔のシリュウさんが居た。
「馬鹿みたいに寝てたな。大丈夫か?」
「…。ふぁふぅ~~…。」むにゃむにゃ
はて…? …ここどこ…? 私は…誰? いや、
私は、文ほ──違う。
テイラ。うん。そう。私は「テイラ」。
「…。駄目そうだな。」
そう言うと、持ち手の下を潜って移動してしまった。
…。
ん? 持ち手? …あ、人力車か。
ああ~、シリュウさんが一段下に見えたのは、私が人力車の座席に居たからかぁ。納得。納得。
…。
あれ?
「座席で、寝てた…?
え!? 私、ずっと人力車で寝っぱなし!?」
急速に覚醒した頭で周りを確認する。
ほぼほぼ夕方の、木立の中。
「ゆ、夕方になってる…?」
私、もしかして──
「シリュウさーん!? 私、ごめんなさい!! 半日寝てましたー!?」
座席に体を固定している鉄をどかして、荷台部分に立つ。
シリュウさんは草の生えた地面に手を付いて何やらしている。
次の瞬間、周辺の地面から草が消え平らな土だけになった。
「別にいい。疲れてたんだろ。」
「いや、昨日なんて何もしてないのに、そんな。ごめんなさい…。」
「とっとと飯にしよう。話はそれからでいい。」
黒革袋から鉄の家を出して、平らになった地面に置きながら事も無げに言う。
「せ、せめて、何か美味しいものを作りま~す!!」
────────────
シリュウさんが大森林の拡大を阻止して、その上人力車を引き続けてくれていたと言うのに。
何もしてない私がぐーすか座席で眠りこけるとか最悪…。最悪オブザ最悪…。
私の役立たず! 足手纏い! 大バカ女!!
「…。テイラ。何でも良いから飯作るなら、早くしろ。」
「っ! ごめんなさい! すぐにとりかかります!」
集中! 集中! 集中!!
ちゃんと美味しいものを!
「えーと、えーと。まずはメモ確認!」
腕輪の中から、料理メモと材料メモを書いた鉄板を取り出す。
「ぐっ…!! 現状、使える食材が少な過ぎる…!」
肉が無いから、まともな主菜が何もできない。卵も無いし、魚ももちろん無い。
ついでに野菜の類いも無い。
有るのは乾燥した、粉、粉、粉!!
これじゃまともな物は──
コン。
「んむっ。」
「落ち着け。無理すんな。
難しいなら、俺が持ってるスープでいいだろ。」
「…ごめんなさい…。」
「とりあえず食うぞ。」
──────────
「はあ…。美味しい。」
「このワンタンが良いよな。腹に溜まる。」
「ですね~。やっぱり主食は良いですね。」
うむ。小麦粉があるだけめちゃくちゃ助かる。
そうだ。私が冒険者見習いの時代なんて、小麦どころか木の実を手に入れるだけで苦労してたのだ。
乾燥して粉になった材料が、たくさんあるこの状況はむしろ望むところだ。
「良し! シリュウさん。今から改めて料理作っても良いですか!」
「…。大丈夫か…?」
「はい。お腹も膨れて、頭もちゃんと覚めました。大丈夫です!
…とは言え、現状を考えると作れるのがワンタンスープと大差無い『麺類』か、ワンチャン、お菓子になりそうですけど…。」
「…。(めんるい…?) ああ。麺、か?
スープに浸かってる細長いやつだな?」
「はい。そうです。」
「確かにワンタンと近いな。ふん…。
もう1つは菓子って言ったよな? どんなのだ?」
「どんな…。油で揚げた…パン、が近い表現かな?
ドーナツって名前の物です。」
「パンを油に…? 砂糖も無いのにそんなんで菓子になるか…?」
「そこは栗もどき…トーケー、とか乾燥アリガの甘みでカバーできると思ってます。」
まあ、食感はどう頑張っても、日本のふわふわもちもちドーナツにはならないけど。
酵母とかパン種?が無いからね…。
「…。面白そうだな。その菓子を作ってみてくれ。」
「了解!」
さあて! 美味しい物になる様に頑張りますか!




