94話 この国の騎士
ゴンゴン ゴンゴン…
お? シリュウさん、帰ってきたかな?
まあ、念の為、横から顔出して…、
ああ、やっぱりシリュウさんか。ですよね~…。
「お帰りなさい。何か魔獣でも狩れました…?」
「いや、少し…。問題発生だ。」
なんですと?
「…全力逃走しますか。」
「いや。…。偵察中に砦を見つけてな。この国の騎士と会って、話をした。」
「…それは…。シリュウさん大丈夫です…? やっぱり手を出しちゃいました…?」汚物を消毒~!的ノリで…
「…。安心しろ。割りにちゃんとした奴らだった。穏便に話は終わった。」
「なら…、問題は何です?」
「ロックアントの話をしたら、確認したいからと案内を頼まれた。」
「近くに来てるんですか…?」
小屋の周りを見るが、普通に草原である。雲がそこそこある晴れ。何も見えないけど…。
「俺だけ先に戻ってきた。連中は後から南下してくる。」
「シリュウさんは案内を引き受けたんですか…?」
騎士ってことは貴族だろうし、嫌いだって言ってたような…。
「ああ。悪いな、方針を勝手に決めて。」
「へ? いやいや、お気になさらず。貴族の相手をするのが意外な感じだっただけで…。」
「まともな対応だったからな。こっちも冒険者として接するつもりだ。
…。テイラは、ここで待機できるか?」
「待機でも問題無いですけど…。私、一応貴族の相手ができるかも知れませんから、会話を任せてくれても構いませんよ?」
「…。いや。奴らなら俺で大丈夫だ。それに移動速度が速いから、とっとと確認をして終わらせる方が楽だ。」
ふむ…。現状の私では付いていけない速度で、動ける人達なのか。
騎士の中にも斥候タイプの身軽な感じのチームでも来るのかなぁ…。
「了解です。なら、待機してます。数日はかかりますよね? クッキー辺りを食料に置いていってくれると助かります。」
角兎が群れてた辺りから、なんだかんだ人力車で数日移動してるし距離あるよね~。
更に周辺を見て回るなら、もっと時間かかるだろうし。
「…。もちろんスープやクッキーを置いていくが。1日くらいで戻って来ると思うぞ。」
「…へ…??」
「と言うのも、連中──」
──────────
遠くの空に2つの影が見えた。
北の空を飛ぶ巨大な何か。
本当に、来た…。
あれが、コウジラフのドラゴンライダー…。
シリュウさんが見つけた砦には、特殊な職業の騎士が居たのだ。馬や戦車ではなく、名前のまんまドラゴンに乗る騎士。竜騎士。
この国には、ドラゴンを使役する技術があるらしい。
いや、この場合は召喚の契約を結ぶ、とかなんとか。
冒険者時代に聞いたことがあった。
と言うか、レイヤの奴が大層気に入って「いつか私もなる!」とかアホなことを宣いながら情報を集めて、私に話してきただけなんだけど。
多分行きたい所だったから、私をコウジラフに飛ばしたんだろうな~。代わりに見てきて的な。
竜騎士達は、ある種のドラゴンに認められると自身の分身を召喚できる様になる触媒を授けられるのだとか。それを使って分身ドラゴンに乗って戦うらしい。
ドラゴンは物理的にも巨体で、魔法耐性も高く、魔法も放つこともできる。その戦闘力は分身とは言えと並みではない。
このコウジラフを東部一の大国にした要因の1つである。
まさかこんなところでお目にかかるとはなぁ…。
私は壁を追加した小屋の中で待機している。
色々面倒なので、直接会うことも避ける方針だからだ。
更に、私の鉄で出来たテントに入っているから、万が一魔法攻撃されてもどうにかなるだろう。
シリュウさん曰く「航行重視の飛竜型だ。大したことはない。」とのことだが。
ともかく、小屋の壁にいくつも穴を開け、テントに作った覗き窓から外を見る。
2匹の飛竜が、小屋の近くに着地する。
それぞれ2人の人物が乗っていた。計4人だ。
隙間からだと分かりづらいけど、飛竜、大きい…。
この小屋より一回り大きいくらい。青とも緑とも言えない不思議な色合いの鱗が全身を覆っている。
腕と羽が一体化している──いわゆるワイバーンタイプだろう。
小屋の外で待っていたシリュウさんの所に、飛竜から降りた4人がやってきた。
「『ドラゴンイーター』殿。お待たせしました。」
「…。ああ。…準備は?」
「はい。我ら一同、最速で行動に移れます。」
ドラゴン、イーター…?? って言ったよね…!?
ドラゴンを、食べる者…。シリュウさんの渾名?…っぽい、けど…。安直かつヤバい名前過ぎない…??
相手の騎士、この国の最重要戦力で、ドラゴンを連れてる方なんですけど…。
シリュウさんはこの国で何をしでかして、どう見られているのか…。
大丈夫かなぁ…? 色々と…。
「こちらの…金属の、家はこのままでよろしいのですか?」
「…。ああ。
言った通り、俺が保護してる奴が中に居る。手を出すなよ。」
「…もちろんです。」
なんかシリュウさんが一番偉そう…。貴族相手にその態度取って大丈夫なんだ…。流石は特級冒険者…。
なんかこの人の声、とても渋いおじ様ボイスなのに、若干震えてる様に思えてきたな。
貴族は魔法制御の一環で、感情を落ち着かせる術を叩き込まれるはずなんだけども…。
「とっとと行くぞ。」
「良し! 出発する!」
「「「はっ!!」」」
「…。」
壁に近付いて見てみると、4人の騎士は素早く飛竜に乗り込み離陸。シリュウさんは地面を消える様な速度で、小屋の死角、南に向けて走っていった。
お気をつけて~。
シリュウさんには魔法瓶にアクアの冷たいお水をたっぷり入れて、渡してあるし、私のやれることはない。
さて、明日には帰ってくる予定だし、それまでどう過ごすか…。
まずは、寝れたら寝るか~…。痛くとも睡眠取らないと回復できないし…。
起きたら、小屋の中に置いてある人力車の改造でもするかぁ…。




