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92話 対策結果

「テイラ。物理やら科学ってのは偉大だな…! 本当に魔法ビンの中の水が冷たいままだ…!」


 時刻は夕方。

 暑さ対策を色々と試しながら北に移動を続けて半日が経った。



 屋根は伸長するとやはり邪魔だったそうで、結局ボツになっている。


 魔法瓶と同じく真空の層を入れた鉄の帽子も作ってみたけど、シリュウさんには不評の模様。効果は無くもないが、なんかしっくりこないらしい。


 黒い角兜はしたままなのにね…。炎天下ではかなり熱くなりそうだけども。金属っぽいけど、違う素材なのかねぇ?



 人力車の持ち手の辺りに何枚かの鉄板を立てて、シリュウさんの体に風が集まる様にした装置は一応成功したようだ。

 引き手(シリュウさん)の視線の邪魔をせず、風圧に耐え、なおかつ効果的な配置を決定するまでにかなり手間はかかったが。

 効果はあまり高くないみたいだけど、無いよりはマシだろう。


 そして、アクアの冷たい水を染み込ませたタオル…いや手拭(てぬぐ)い、かな?を肩にかけて、ますます人力車引きの人みたいな風貌になったシリュウさん。

 魔法瓶の効果を痛く気に入った様だ。


 つーか、黒い革袋の中に入ってたその手拭い、どれだけ高価な物なんだろう…。それを濡れタオルなんかに使って大丈夫なのかなぁ…。



「お役に立てたのなら幸いです~。…真空を作ったのはシリュウさんだし、そもそもアクアの冷たい水が無いとまるで無意味ですけど…。」

「魔法を使わず、保冷のマジックバッグと同等の効果を出しておいて、何を暗くなってんだ?」


「いやぁ、私の知識は前世の技術者達が(つむ)いできた技術を、丸パクりしているだけですし…。真空も完全にはできないし、素材も変な金属だから、保冷効果は長続きしないと思いますし…。」


「ちゃんと試行錯誤してたんだから、その時間くらいは()められることだと思うぞ。」

「…そうですね~…。」


「…。とりあえず飯にしよう。コロッケを揚げるから、テイラは休んでろ。」

「べっ!? いや、私が作りますよ!? シリュウさんずっと人力車引いてたんですし!」


 シリュウさんがゆっくり立ち止まって、こちらを振り返る。



「…。テイラ。正直に。自分の状況を。正確に伝えろ。」疑いの眼差し…

「…えー、と…。…腕と…足が結構、疲れてる…かもしれない、です…。」


 筋肉痛一歩手前くらいの感じかも、です…。

 楽してずっと座席に乗ってただけなのに情けない…。



「なら。休んでろ。いいな?」

「…了解。です…。

 …なんで分かったんです? そんなにふらふらしてました?私…?」

「…。テイラが、しょうもないことで無駄に暗くなる時は、体力が落ちてる時みたいだからな。」


「…マジか。」


 もろバレとは…。


 はあ…。足手纏い、一直線だなぁ。




 ────────────




「ご馳走様です~。」


 はぁ…。美味しい。栗もどきだけのコロッケも甘くて美味しいし、ドラゴン肉のミンチを混ぜたコロッケも絶妙に旨味が良い感じである。栗もどきトーケーとドラゴン肉は相性が良いのかもなぁ。

 体力回復の為か、結構な量の揚げ物を食べてしまった。

 歩いてもないのにこんなに食べると後が怖いなぁ…。



「このコロッケも便利な料理だ。肉が無くても美味い揚げ物を作れるとはなぁ。」もぐもぐ…

「シリュウさんの大容量マジックバッグのお陰ですね~。」


「これからはトーケーも貯め込まないといけないな。乾燥しても味は多少良いやつではあったが…。食いにくかったから量はそこまでないしな。」もぐもぐ…


「今は夏ですし、もう少ししたら森でたくさん取れる季節ですね~。この辺りでも、()ってますよね?」

「…。ああ。むしろ、魔猪の森辺りのトーケーはかなり美味いぞ。…なんたってあの巨大な猪どもの腹を、満足させるくらいだからな。」もぐもぐ…


 マボアに着いたら、凄く色んな食材がわんさか採れそうだなぁ。

 人力車をシリュウさんが引いてくれてるし、暑さ対策も上手くいけば良いタイミングで町に着きそうだな~。冬だと食材も手に入りにくくなるだろうし。


 秋が終わる前に町に着けると良いのだが。




 ──────────





「………。筋肉痛だな、これは…。」ズキズキ…



 夜中に目が覚めた。


 太ももとふくらはぎが、ジンジンと地味に痛い。


 腕も痛いけど、ポーション回復の時に比べるとマシだからか、そこまで気にならない。



「ここに来て足手纏いが加速する、かぁ…。はあ…。ちゃんとマッサージしてから寝たんだけどな…。」


 この世界に筋肉痛に貼る湿布(しっぷ)とか無いだろうしなぁ…。

 湿布…。

 回復ポーションを染み込ませた布なら、それっぽいか?

 とは言え、今持ってるポーションは腕治療の時に余った上級が1つ。こんな高価なものを非魔種の筋肉痛ごときに使うのは…。



「1人で考えても仕方ない。ちゃんとシリュウさんに相談するか。明日の朝なら──」


 ん? そうか。シリュウさん起きてるか。

 でも休んではいるはずだな。


 …。


 どっちみち迷惑かけるし、様子見るだけ見ようかな。



 腕輪を簡単に着けて、緑色に淡く光ってる髪留めをランプ代わりに持って、軽く身だしなみを整える。


 鉄テントを少し開けて顔を出してみた。



 …。



 暗いなぁ…。


 星明かりすら無い感じ? 曇ってるのかな…??


 完全な暗黒過ぎて、淡い光じゃ何も見えない。





「どうかしたか?」


 突然の声にビクッと体が震える。

 シリュウさんだ。



「遅くにすいません。今喋っても大丈夫ですかね?」


 真っ暗闇に向かって声をかける。



「…。構わない。寝れないのか? テントに入って1時間も()って無いぞ。」

「そんなに早く目が覚めてたのか…。

 えっと、ちょっと筋肉痛で…。」

「そうか…。明日は移動無しで休養だな。」

「すみま──いえ、ありがとうございます。

 で、相談なんですけど。上級ポーションを筋肉痛ごときに使うのはどう思います…?」


「…。そうだな…。筋肉痛ってあれだろ? 切れた(すじ)が回復する時の痛みだよな?」

「ですね。」

「テイラの場合、痛みが増すだろうからな…。だがとっとと回復する方が楽かもな?」

「やっぱりそうですよね~…。勿体ない気もするけど、この場合は飲むのが正解か…? とりあえず数滴利用するかなぁ。それとも、自然回復を待つのがベターかなぁ…。」


「回復ポーションは元の状態に近付けるだけだから、回復しても現状のままだ。だが、筋肉が切れて自己回復すれば、強く新しくなるな。」

「…、~~…。アドバイス、ありがとうございます。ポーション使わず、自然回復を目指します…。」

「まあ、それも良いんじゃないか?」


「では、とりあえず横になって寝れたら寝ます…。」

「ああ。」


 ふぅ…。ちょっと人力車の座席に、もう一工夫必要だな…。


移動を速めて物語を次に進めるつもりが、むしろ話が膨らんでぐだり始める始末。


話がぐだぐだなのは今更かな~…ってことで。省略は程よくしつつ、こんな展開のまま話が続きそうです…。


まあ、需要なんざ無いから良いよね(適当)

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