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91話 移動中の暑さ対策

「ふむ。とりあえず暑さ対策のアイデアをまとめるかな。」


 思考を整理する為にも、鉄板メモに刻み、刻み…。



 やはり第一に、(みず)

 その次が、(かぜ)

 そして、(かげ)


 水は現状、アクア1択。


 氷は出せなくてもかなり冷たい水、多分雪解け水的な…体感的に5℃くらい?を出してくれるので、これを活用するのがベター オブ ザ ベター。


 単純に走行中も飲める工夫をするだけでかなり変わるだろう。



 風は走行中の向かい風しか利用できそうにない。

 座席から手動式扇風機を回してもほぼ意味は無いだろう。

 シリュウさんの魔力をどうにか物理的な回転運動に変換できれば、色々便利な物を作れそうだけど…。


 一番シンプルに人力車の引き手の位置に、日陰を作るのがベストだな。


 しかし鉄をそのまま利用したら、金属が熱くなって余計に暑くなる可能性がある。輻射熱(ふくしゃねつ)がガンガンである。

 これは一工夫すればなんとかなるはず。



「ふむ。こんなもんだな。」

「また色々書いてるな…。」

「まあ、実現できるのは多くないですけどね。

 シリュウさん。今から暑さ対策の工作するのと、もっと移動してから拠点設置してからやるのと、どっちが良いですかね?」


「…。暑さがなんとかなるのか…? 本当に?」

「ええ。まあ。日陰と風は、鉄で色々試してみないと効果の程は分かりません。でも、アクアの水を走行しながら飲める様にするだけでもかなり変わりますよ。」




 ────────────




「どうですかー!」


「…。」ちゅー ごくごく…


 走行しながら色々試していくことになり、まずは簡単なやつから実装していく。


 人力車の持ち手部分にドリンクホルダーを作り、水筒をセット。そして、その水筒には鉄ストローを付けてある。

 これなら走りながら飲めるはず。



「良い! 飲める!」

「邪魔でもないですかー?」

「ああ!」


「なるなる…。では、次は水かけますねー!」


 隣の座席にデン!と座っているアクアを見る。


 アクアが水球を目の前に生成して、そこから水の道をシリュウさんの頭上に伸ばす。

 そして、シリュウさんに向かって水が流れ落ちる。



 ばしゃああ!!



 走行中なので水が後ろに、つまりは私の方にも結構流れてくる。

 うむ、冷たくて気持ち良い。


 ちょっと勿体ない気持ちもあるけど、アクア本人(本霊?)がやって良いと言ってるらしいから、大丈夫だろう。



「…。良いな! 流石の水精霊だ! 俺の魔力波動(オーラ)を突破して冷たい水が届きやがる!」


 シリュウさんが真夏の部活終わりの運動部みたいな格好で、嬉しそうに笑ってる。


 なんでも、シリュウさんの体温は元々高くて大変らしい。

 体内の膨大な魔力が原因だから、魔力の無い水をいくら浴びても“焼け石に水”状態で、なかなか苦労していたんだとか。

 ちょっと本気を出せば、雨を蒸発させて傘要らずにできるレベルらしい。


 アクアの水は精霊由来の魔力がたくさん籠ってるから、シリュウさんの魔力耐性(不便な体)を貫通する様だ。

 2人ともすげぇ、っすわ~…。



「アクアが居れば全てが解決するなぁ…。さすアク…。」


 ぽよぽよふり~…




 そして、再び停車しての休憩である。


「かなり快適になったな。もう十分じゃないか?」

「まあ、そうですね。ただ、アクアばかりに頼りきりになるのは申し訳無いので、出来る範囲でやることはやりたいです。」


「…。まあ、水精霊にとって冷たい水を作るのはかなり疲れるみてぇだし、それは助かるが。何かできることはあるのか?」

「まあ、まずは人力車の屋根を伸ばして、シリュウさんの頭上に日陰を作りたいですね。バランスとか固定がちょっと(なん)有りかもですけど。」

「伸ばせば前方に()けやすくなって、風を受ければ煽られる訳だな。」

「ですね~。ずっと北に向かうだけなら、屋根を高くするだけで日陰が足りるんですけど。」


 真っ直ぐ進む訳じゃないし、太陽だって動くからなかなか工夫が要るよね。



「…あとは、風がシリュウさんの体に向かって集まる様にしたいですね。

 あ。水筒をレベルアップもしておきたいです。」

「風は分かるが。水筒は何をするんだ?」


魔法瓶(まほうびん)にしようかなと思ってます。」


「…。テイラが。魔法…。…何を、する気だ…??」恐々…

「魔法っぽいだけですよ~? ちょっと私じゃ力不足なので、シリュウさんにお願いしたいことが有りますけど~。」




 ──────────




 ここで「熱の移動」について考えよう。


 これは3つに分類される。

熱対流(ねつたいりゅう)」、「熱伝導(ねつでんどう)」、「熱輻射(ねつふくしゃ)」だ。


 対流とは、熱を持った物体そのものが移動すること。熱風が吹いてきて気温が上がる訳だ。


 伝導とは、熱を持った物体に触れることで、熱が伝わる現象だ。

 熱いお湯に浸かれば体温が上がることが該当する。


 そして、一般的には馴染みの無い言葉、輻射(ふくしゃ)。これは、エネルギーの高い光線を浴びることで物体の温度が上がることを言う。

 ストーブの赤熱した電熱線の近くは暖かい理由がこれだ。電熱線の周りには鏡が設置されてピカピカしているので、光線が反射されて部屋の空気や人の肌を熱してくれてる訳だ。


 これら3つの現象を理解し操れば、物体の温度が変化しない様にすることも可能となる。



 すなわち──



「シリュウさーん!! 頑張ってー!!」

「…! どうだ?」ぐぐっ…!

「弁、閉じます!!」



 大きなピストンを使って! 「真空」を作り出す!!


 私が鉄の変形操作で空気弁の役割をし、シリュウさんが腕力で入れ物の壁面内部の空気を抜く! それを数回繰り返す。


 魔法瓶は、二重構造になっており真空の層が中に存在している。


 瓶の素材そのもので囲って熱対流を阻止し、

 真空と言う物質が存在しない空間で熱伝導を防ぎ、

 素材の内部表面を鏡にして輻射熱を反射する。


 まあ、私の鉄でも魔獣鉄でもただの金属なので、耐久性は微妙だし、金属そのものを(つた)う伝導熱はどうしようもないのだが。


 とまあ、現状持ち得るものでできる限りの、魔法瓶もどきが完成した。



「お疲れ様です! これで、この魔法瓶の中に入れた冷たいお水は、長い間冷たい状態を保つはずです!

 …まあ、どれだけ持つのかはちょっと使ってみないと分からないので…、実験はもうちょい続くかもですが…。」


「…。(こんなんで、温度保存の魔法袋(マジックバッグ)と同じ効果があるのか…??)」


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