90話 高速移動だ!
「おお~。速い速い~。」
コロッケパーティーの翌日。
うん。翌日なんだ。
コロッケ揚げたの昨日の昼間だったけど、結局半日作っては食べ、作っては食べして日が暮れてしまった。
まあ、うん。「狭き日本、そんなに急いでどこに行く。」との格言通り、人生ゆるーく生きるのが良かろう。うん。
ここは、異世界の、それも広大な大陸の、ど真ん中。では、あるけども…。
ともかく翌日からは、人力車での本格移動を開始である。
「どうだ? 大丈夫か?」
シリュウさんが速歩きくらいのスピードで人力車を引きながら、振り返って尋ねてくる。
「はい! 気持ち悪いことはないです! 口を動かせるくらいに余裕が有ります!」
「…。そうか。
なるべく凹凸の少ない地面を進む様にするが! 石を踏んで跳ねるかも知れないから注意しろ!」
「了解!」
とは言うものの。
ロックアント平原(私命名)や黒角兎の棲みかだった場所と似た感じの平原だ。
低木の辺りは避けてくれてるから、根に乗り上げることもないし。生い茂ってる草が地面を覆うクッションになってるから、でこぼこ地面は和らいでいるはず。
車輪も大きく、溝を彫ってある鉄タイヤもあるし、大抵の悪路には耐えれるはずだし。
耐えれないとしたら…
「腕と足だよなぁ…。」ぐぐっ…
荷車の台に乗ってる足と、そこから伸びるハンドルを握ってる手を見る。
荷車部分の振動をダイレクトに受けるから、結構力が入ってる。特に足に掛かる力はかなりのものだ。
まあ、馬に初めて乗ると足腰が死ぬって聞いたことあるし、それに比べたらかなりマシのはずだ。
落ちた体力を復活させる為にも、エクササイズマシン的なアトラクションだと思って気楽に行こう。
一番大変なのは、こんな謎車と足手纏いを引いて走るシリュウさんなんだし…。
──────────
ん~…。座席の毛皮は少し暑い感じはあるけど、人力車のスピードで風が吹き込むから相殺できてるなぁ。
まあ、エルドの方が圧倒的に暑かったし。
…。
でも、流石に走行中は水飲むのはキツいな…。
水飲める仕組みまでは考えてなかった。
「シリュウさん。そちらの体調は大丈夫ですか?
休憩入れても良いと思いますけど。」
「…。そう、だな。」
人力車が止まる。
って、良く見たらシリュウさん、そこそこ汗かいてる…!
「水筒…!は、温いか。アクア! シリュウさんに冷たいお水ちょうだい! 多めに!」
ごくごく… ごくごく…
「──うめぇ…。」ぷはぁ…
「ごめんなさい。もっと早く気付くべきでした。」
人力車を停めて、北側に出来たその影の中で休憩を取る。
私もお水をこくこく、と。
「いや。疲れてる訳じゃないから、大丈夫だ。単に暑いだけだしな。」
「いや、汗かくくらいには体力使っている訳でしょう…。角兎とあんな乱闘しても汗かいてなかったのに…。やっぱり人力車はかなり負担なんじゃ?」
「本当に暑いだけだ。ともかく冷たい水、助かった。」ごくごく!
私の膝の上でぽよぽよしてるアクアが、ヒラヒラと触腕を振る。
ん~…。シリュウさんはこう言ってるけど、絶対疲れてるよな…。
座席に居る私が、せめて何か対策をしたいところ…。
「よし。シリュウさん。このまま休憩しながら、ちょっと対策考えましょう!」
──────────
「一応確認しますけど、人力車の引き手と座る人を交代するのは無しですよね。」
「ああ。」
「ん~…。なら、当面は暑さ対策しつつ…、適当な魔獣でも捕獲したいですね~。」
「…。魔獣を捕獲…? また鉄を創るのか…?」
「いえいえ! 単純に、馬車の馬ポジションですよ~! 人力車から魔獣車?にランクアップです!」
「…。馬鹿か?」
「馬はともかく。鹿はこの車を引くには力不足ですよ~?」
「…。…。」イラッ…
ゴン!!
無言の手刀! 痛い! 止めろ、ミ○エル!
「痛いぃ…。」
「頓知をかますな。真面目にしろ。」
「馬と鹿はただの冗談ですけど~…。魔獣車計画は、割りと真面目に考えての話です。それを馬鹿とか言うから…。」
「…。どこが真面目なんだよ。」
「ほら、私もシリュウさんも互いに、人力車を引かせるの嫌でしたでしょう?
だから、私とシリュウさんが両方とも座って、適当な動物に引かせるのが最適解だと思ってたんで。その為に、座席も2つ作ってたし。」
「そう言う意図だったのかよ…。
まあ、それはいい。引かせるやつがなんで魔獣なんだよ。」
「そりゃ、体力の問題ですよ。普通の動物に鉄の塊と人間2人を運ばせるのは、やれたとしても速度が出ませんし。魔獣は、獣の高魔力持ちみたいなもんだから、脚力・持久力共に優秀なのが居るでしょう?
それにシリュウさんが居れば意志疎通を図って、欲しい餌あげたり、脅して従わせたりしやすいだろうし…。」
「…。真面目に悪辣なこと考えてやがるな…。」引き…
「そんな悪し様に言われることですかね…?ギルドの馬車とか、貴族の騎乗には魔獣タイプの馬とかが使われると、聞きましたけど…。」
「そう言うのは、何十年と質を調えた品種に、専用の育成を施して利用してるはずだろ。そこらで生きてる野生種じゃ無理だ。」
「…それもそうか…。」
「だから、馬鹿だって言ってんだ。」
んー…。シリュウさんならドラゴンとか従わせて、ドラゴンライダー! いや? ドラゴンカー!とかぐらいできそうな気がするから、可能性あると思うんだけどな~?




