89話 コロッケもどき
「さて! シリュウさんの力添えで、人力車が完成しました! ありがとうございます!
お礼に新作料理に挑戦します!!」
「…。無理すんなよ。かなり疲れてるだろ。」
「…まあ、ぶっちゃけると、なかなかな疲労感ですね。
ですが! だからこそ、美味しいものを食べて体力回復しましょう!!」
ここ数日の間に考えたメニューは、材料が無いから実現できないのも多いけど、これは多分なんとかなるはず…!
「…。まあ、良い。どんなものを作るんだ?」
「はい。名前は『コロッケ』です。揚げ物で、まあ、カツの仲間ですかね。」
「ほう。揚げ物か。いいな。…しかし今、肉はドラゴンしか無いが。…使うか?」
「まあ、コロッケに失敗する可能性が結構あるんで、その時はドラゴンカツにしましょうかね。」
「…。難しい調理なのか?」
「いえ、材料を揚げる過程は同じだから大丈夫です。まあ、溶き卵がもう無いから衣がちょっと問題だけど…。そこはゆるーく水で溶いた小麦粉に頑張って貰えれば、多分なんとか…。」
最後の卵は、茶碗蒸しと出汁巻き玉子で使いきっちゃったからねぇ。まあ、なんとかなるっしょ~。
「なら、材料に問題があるのか。」
「ええ。前世でコロッケと言えば、普通じゃがいもを使うんで…。」
「…。ジャガ、イモ…?
…は? …芋、なのか??」
「イモですよ~。」
「…芋を、食うのか??」
「こっちの世界と違って食べられるんですよ。つーか、芋って普通は食べ物なんですけどねぇ…。」
こっちの世界の「芋」と言えば、多分「岩石芋」って呼ばれてるのが最も一般的なやつ。
植物の根に出来るのは同じ。その芋部分を土に埋めておけば、芽が出て根が出て成長するのも同じ。
しかし、名前の通り岩の様に硬い皮で覆われていて、噛るどころか芋の皮を「割る」ことがかなり大変。
なんでそんな岩みたいなやつから芽が出るのやら…。
でもって、その皮を苦労して取り除いた先の可食部分はエグみが凄くて、とても食べられる物ではないのだとか。
活用法としては、投擲武器の弾にすると言う、石とまんま同じである。程よく同じ大きさに育つし、その辺に放っといても育つから有ったら便利かも、なんだとか…。まあ、掘ってまで取る価値は無いけど…。
「まあ、芋は使わず、別のものでチャレンジするつもりです。とりあえず栗もどき…じゃない、『トーケー』を出してもらって良いですか。」
「…。ああ。」
そう! 私は気づいたのだ!
ずっと、宿題忘れて──違う違う。
芋が食べれないなら、栗を食べればいいじゃない!
この世界で普遍的に食べられてる木の実なら、炭水化物的に代わりになるのではないだろうか? 恐らく。
まあ、シリュウさんの革袋の中に有るやつはカラカラに乾燥してるから、上手く活用できるか微妙なところだけど…。
たくさん有る栗もどきの殻を、シリュウさんと2人で次々剥いていく。乾燥劣化してるからか、かなり脆い。剥くのは簡単だけど、実に混ざらない様にせねば。
剥いた実は中まで乾燥しきっていた。これをおろし金で粉にしていく。
粉になったら水を混ぜて、握れるくらいの固さになる生地にする。
ふむふむ…。栗もどきも黄色い実だから案外それっぽい見た目になった。
一応、味見を…。…うん。トーケーの甘さがある。
アクアの水と混ぜてるからか、この時点でもなかなかいける。
さてはて。揚げるとどうなるか…。
今回は卵が無いので、水でゆるーく溶いた小麦粉をつなぎにする。要はパン粉がくっつけば何でもいいはずだ。なんとかなる、なんとかなる。
パン粉はガチガチに乾燥してるパンを削ったお馴染みのやつ。ふわふわ生食感のパン粉だと、もっと美味しいかなぁ…?
この乾燥パン粉を湿気らせれば、どうにかなるかなぁ。揚げる時に油が跳ねるかなぁ…。いや、溶いた小麦粉の水分があるから同じか…。
そんなことを考えつつ、栗もどきの生地に衣を付けて、熱した油へとダイヴさせる。
ジュワ!ジュワ!ジュワ!ジュワ!
かなり跳ねるね!
ちょっと水分多かったかな!?
ま、まあ、今は実験中。実験中だからセーフ!
きっとシリュウさんが最適な水分量と温度を見極めてくれるはずだ!(他力本願)
とりあえず、揚がった推定コロッケ塊をバットに置き油をきって、と…。
「う~ん…。上手くいったかなぁ…? 見た目はまあ、それっぽいけど…。」
「食べてみれば分かるだろう。ほら、早く半分に切れ。」
「了解~。」
手に鉄を纏わして、衛生的な手袋兼熱さ避けを作りつつ…、
サクッ…!
ふむ、良い音で切れた。
断面も、黄色みが増して良い色になっている。湯気も出てて美味しそう。
ひょい パクっ…
シリュウさんは早々に口に運んだ。何も言うまい。
んでは、私も…。
フーッ フーッ もぐ もぐ…
ふむふむ。なかなか。
なかなか美味しい。
じゃがいもとは違う甘みだし、一度粉になってるからほくほく感は無いけど、ねっとりしてて美味。
素の味を知りたくて、塩はまだかけてない。それでこのレベルなら真面目に及第点だなぁ。
まあ、芋のコロッケって言うよりは、甘いクリームコロッケに近いけど。
シリュウさんは…
「…。」もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…
うん。大丈夫だね!(適当)
そこからコロッケパーティーが開催されたのは、言うまでもない。
塩を程よく入れると甘味が一層際立って美味しくなった。スイカかよ。
コロッケと言うには甘過ぎる気もするが、美味しいならいいだろう。シリュウさんもバクバク食べてるし。
ちょっと実験がてら、ドラゴン肉のミンチを作って生地に混ぜてみた。牛肉ミンチが入ったコロッケ的な感じで。
これなら貴重なドラゴン肉を節約しつつ楽しめるはずだ。シリュウさんは結構微妙な顔をしていたが、口を出してくることはなかった。
まあ、出来たミンチ入りコロッケは抜群に美味しかったけどね!
塩気と栗の甘味と肉の旨味が、渾然一体となって口の中に溢れるんですよ。めちゃくちゃ美味い。
恐る恐る口に運んだシリュウさんを1発KOするレベルですよ。
もちろんこれもめちゃくちゃ揚げた。
節約のはずなのにめちゃくちゃ使ってんじゃん…。
…。ま、まあ? …これは、そう!
人力車完成のお祝いだからセーフ! セーフです!!
ガンガン揚げちゃえ~!!




