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87話 人力車試乗

「おはようございます。シリュウさん。」

「ああ。」

「寝てる間にちょっと思い付いたことがあるんで、実験しても良いですか!?」

「…。ああ…?」





 ガインガインガイン! ガインガインガイン!


 ゴンゴンゴン! ゴンゴンゴン!


 バシバシバシ! バシバシバシ!



「ふぃー…。これくらい叩けばとりあえず良いかな~?」

「…。」

「シリュウさん。どうでしょう? 毛皮から土属性抜けてます?」

「…。抜けてる、な…。」


 良し。目論見(もくろみ)通り!


 今朝、寝起きのぼんやり頭で突然閃いたのだ。


 土属性魔力で硬化している毛皮なら、魔力を弾き出せば! 柔らかい動物の毛皮に戻るんじゃないか…!? と。


 具体的には私の鉄で毛皮を叩けば、内部の魔力が散っていくはず! と言うことで実験してみた。

 まあ、初めに使った鉄ハリセンじゃほとんど変化しなかったのだが。

 鉄板の上に毛皮を置いて、鉄の棒で上からゴンゴン叩いてみたら上手くいったらしい。呪いの謎鉄、様々(さまさま)だね~。


 この過程も、こう、皮を「なめす」?とか言うやつの仲間だろう。きっと。



「ふむふむ…。単純に叩いたことで皮その物も柔らかくなった気もする…。叩き過ぎると傷むだろうし…。これでとりあえず、座席シートに使ってみるかな~?」

「…。」


「シリュウさん。さっきから渋い顔してますけど、やっぱり何か問題のある方法でした…?」

「…。いや、呆れてると言うか感心していると言うか…。」

「まあ、せっかく土属性が馴染んで硬化した素材をダメにしちゃってますもんね。金属鎧の代わりになる物を台無しにするって意味だと、多少心も痛みますね~…。」


「…。(そこじゃねぇ…。〈呪怨(のろい)〉を活用する発想力が、自由過ぎるんだよ…。)」負の感情はどこに行った…


「まあ、他に使える物も無いし仕方ない仕方ない!っと。

 角兎の黒い毛皮は上手くいったし…。シリュウさん。魔猪の毛皮も試しても良いです? 角兎のは小さいから()うの大変だし、触り心地や保温力の違いも見てみたいんで。」

「…。許可する…。」

「ありがとうございます!」




 ────────────




「良し。人力車、アップグレード完了です!」

「…。(随分立派になったな…。もう、馬車とは別物になってないか…??)」


 座席シートは(なめ)した毛皮を採用したし、車輪には大きい2連ベアリングを接合させた。現時点で作れる最高傑作なのではなかろうか。


 柔らかくなった毛皮は、鉄の糸と鉄の針で()って留める感じに椅子に固定した。

 まあ、縫ったと言うより、ホッチキスの針で押さえてる様なビジュアルになったけど…。


 幅広で設計したから、座席は横に2つある。

 片方を裁断した魔猪の毛皮で、もう片方を角兎の黒毛皮を縫い合わせた物で覆ってみた。

 できればあんまり熱が籠らなかったら嬉しいなぁ。今ですら結構暑いもんね。



「さて、と。まずは乗り込めるのかどうか…。」


 支え棒は出してるから、荷車は水平に固定できてる。

 タラップは作業の時から付けて乗り降りしてるから、問題無し。

 とは言え、もう一度登って確める。


 うんうん。良い感じ。座席もなかなか座り心地が良い。



「良し。大丈夫そう。」

「なら、このまま動かすぞ。」

「えっ。あっ。そうですよね…。ちょっとだけ待って下さい!」


 腕輪から(あらかじ)め作っておいた物を、出して装着して…。



「これで良いかな。…。お待たせしました! とりあえずお願いします。」

「…。なんだ、それは…。」

「…? ヘルメットとサポーターですよ。頭、肘と膝を守ることで落下のダメージを抑える防具…ですかね。私の鉄で作ってるから、いざって時に変形も簡単なので生存率がアップです!!」


「また暑苦しい見た目になったな…。そもそもその(かぶと)、重いだけで意味無くないか?」

「ああ。これは中がミルフィーユ…──薄い鉄板が何枚も層になってまして、結構軽いんです。斬撃(ざんげき)を防ぐのでは無く、衝撃を吸収する装備なので。一度吸収すると壊れちゃいますけど。」


「…。守るのに壊れるのか??」

「ええ。装備が壊れることで、頭が壊れるはずだった衝撃の身代わりをしてくれるんですよ。」


「…。なるほどな…?? (つまりは、物理障壁の使い捨て魔導具…、それを魔法抜きで作るだと…??)」




 ────────────




「で、では。よろしく、お願い、いたします…!」


「…。ああ。」


 シリュウさんが荷車の持ち手部分を押して前に出る。

 人力車は大した音も振動もなく進み始めた。



 うわぁ…。作ってる時に薄々分かってたけど、座席の位置、結構高い…。


 座席の内部に作っておいた握り棒を、しっかりと掴む。

 シリュウさんは作業小屋の周りをゆっくりと回る様に進み続ける。



「かなり滑らかだな。軋む音もしない。これは凄いな…!」

「っ…。」


 な、なんか…! 浮遊感…!?


 これ、何……?



「…。止まるぞ?」


 こちらを振り返りながら質問してきたシリュウさんは、そのまま立ち止まってしまった。



「どうした? 揺れが不味いか?」

「…いえ…。…ちょっと、ふわふわで高くて怖いだけです…。」

「…。高い??」


「わ、私、高所恐怖症なんで…。」

「…。高い、所…が怖い、のか。

 その座席のどこが、高いんだ??」


「いや、車輪も大きいし…! その上にバネの厚みがあるから、高いですよ…! 今だってシリュウさんを見下ろす角度になってるじゃないですか~…!」


「いや、恐怖する高さって、崖みたいな、身長の数倍ある様な所だろう…。」

「怖いものは怖いんです…。」


「…。その高さなら大丈夫だ。安心しろ…。」

「そうだろうとは思うんですけど…。理性がいくら大丈夫だって言っても、本能が…。」


「…。(初めて馬に乗ったらこうなる奴も居るらしいが…。自分で作った「じんりきしゃ」だろうに…。)」



 ここに来て大問題発生だぁ…。


遅々として、(車も話も)前に進まない…。何故だ…?

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