84話 人力車
「テイラが作る物は面白いな。魔法も使わずに魔法を起こしてる。」
「いや、ただの物理現象ですから。魔力関係無しに誰でもできることですから。」
「物理はすげぇな。魔導具と違って壊れないのが良い。」
前世の地球の先人達からの賜り物です。
「良く考えたら…、大部分は魔獣の鉄だしシリュウさんの魔力を受けたら、壊れるのか…?」
「…。おい。嫌なこと言うなよ…。」
「まあ、まあ。別にベアリング以外ならいくら壊れても大丈夫ですから。逆に1度、魔力思いっきり籠めてどうなるのか試してみましょう?」
「…。」
嫌だ、って顔してるね。
「…上手くいけば。自転車とか回転椅子とかを、シリュウさんのマジックバッグに仕舞っておける様になりますよ。」
「…そう、なるか…?」
それに、私に荷車に乗れ(意訳)って拒否したいことさせるんだし、シリュウさんにも嫌なことにチャレンジして貰わないといけないだろう。
これでおあいこである。(多分。)
そして、シリュウさんの魔力籠め実験が始まった。
まあ、私には見えないから放置するしかないのだが。
とりあえずベアリングの入った車輪は、一旦私の鉄で覆って隔離しておく。
私はその間に荷車に代わる乗り物、「人力車」の設計を固めることにする。
やっぱり誰かに引いて貰うなら、これだよね~。
言わば江戸時代?のタクシーな訳だし。
現代でも観光地なんかには在るし、確か海外でも人力車を交通に利用している所が有るとか聞いたような。
ともかく、私の工作精度でもまだ作れる範囲だろう。
基本的には鉄タイヤもどきを付けた車輪で荷車を作って、その上に強力なバネを複数設置する。これをサスペンション?代わりにして、その上に人が座る部分を乗せる。これで上手くいくはず。
バネはそこそこ作り慣れてるけど、人間の体重を支えるレベルのは未知の領域だ。座る部分も鉄だからそれを支える必要がある。瞬間的な衝撃にも耐えないといけない。
どうするのが正解かなぁ…。
やっぱりバネは、サイコロの6の目みたく設置するのがベターかなぁ。
でもって、バネを…二重にしてみるか。
重さを支える硬いバネと、衝撃を吸収する柔らかいバネを内外2つ二重筒構造にして…。魔獣の鉄でどこまで理想の形に出来るかな~。
車輪は、自転車の車輪を大きくして使うつもりだったけど、人力車のは大きかった気がするなぁ…。今のベアリングの大きさで耐久力足りるかなぁ…。
これはトライアンドエラーでやり続けるしかないよなぁ…。
走行中に壊れることを想定して、ヘルメットや肘ガードも用意しておくべきだな。
いや?1/1鉄人間を置けば、実験になるんじゃない?
うん。今は鉄いっぱいあるし、それでいこう。私が乗らなくて済むかもだし。
あとは概算で良いから、寸法──
バギギ!!!
え!? 何!?
「シリュウさん!? 大丈夫です!?」
「ああ。問題無い。鉄が割れただけだ。」
シリュウさんの掌に乗ってる金属塊に大きな罅が入っていた。
「なんでこんなことに…?」
「魔力を過剰に籠めてみたんだ。魔力を染めるのは簡単にできたから、耐久力を調べててな。理屈は分からんが、なかなか耐えるな。」
「え…? 普通に割れてて、耐えれてなくないですか…?」
「普通の鉄ならもっと早く粉々になってる。角兎の血液が基になってるからなのか、呪い由来の金属のせいなのかは分からんが。」
「…まあ、お役に?立ててるなら、良かったです?」
「ああ。かなり良いな。これなら俺が側に居るだけで壊れることもない。荷車に使っても問題無く引ける。」
私の鉄と違って魔法を弾けないけど、魔力で染めるのは簡単で、耐久力もそこそこ、と…。
「…なら、シリュウさんの魔法の手で加熱できるんですかね? どこでも鉄板焼きが爆誕しました…?」
「…。マジか…!?」
その後、魔法の手の熱を加えると鉄板を熱せれると確認できた。しかし、しばらく加熱し続けていくと、鉄そのものがぼろぼろになっていくことが判明した。
これは多分錆びてるっぽい。魔力には耐えれても、やはり物理的な熱で変質するようだ。
シリュウさんも結構落ち込んでいる。
「まあまあ、シリュウさん。有意義な実験結果が得られたから、良しとしましょう?
極論、魔獣を狩ればその血で使い捨てコンロが作れるとも解釈できますし。天気や薪以外の選択肢が増えたってことで。ね?」
「…。そうだな。」
「あとは、シリュウさんのマジックバッグの中でどんな変化起こすかも確認しておきましょう?」
「そうだな…。壊れないと良いんだが…。」
「大きさや形を変えて、個別の差が出るとかも確認したいですね。」
────────────
「ふむ…。こんなもんかなぁ…?」
「…。これは…、またとんでもない…。」
人力車がとりあえず完成した。オール鉄製にしては上手く出来たのではなかろうか。
横に広めの荷車の上に硬いバネに支えられる形で、屋根付き幅広椅子が乗っかっている。
鉄タイヤもどきを付けた車輪も、スポークからかなりしっかりしたフレームに変えて大型化させた。
荷車の持ち手部分から停止時に車体を支える棒も出る様にしたし、乗り込む為のタラップ的な取り外し可能な段差も作った。
棒は走行時には折り畳めるし、タラップは荷車の下部に収納出来る様にしてある。
そして中空にして体重を良い感じにした鉄人形もセット済み。
いつでも走らせれるだろう。
「…。途中から荷車の形を超えてるとは思ってたが…。ほぼ馬車だな…。」
「まあ、流石にただの荷車に乗るのは勘弁ですからねぇ…。お尻痛いし、腰ぶつけるし、舌噛むし…。乗り物としての快適性を重視してみました。『人力車』って言います。」
「人力…。一般人がこの鉄の塊を引けるのか…?」
「まあ、前世では金属は使いつつも、丈夫な木材を主に使ってましたから…。私には鉄を加工させる能力しかないのでこんな形になりましたけど。
中空にしたりかなり工夫して、見た目よりは軽くできたとは思いますけど、シリュウさんにも無理そうなら乗り物計画は終了ですね~。」
「…。まあ、とりあえず引いてみるか…。」
「よろしくお願いします。」




