81話 移動手段
唐揚げパーティーの翌日。
今日は角兎肉の串焼きと、ホルモンの鉄板焼きを作ってみた。シリュウさんは全て揚げろって言ってたけど、別の料理にも使いたいと思って少し置いてもらってやつを使ってみた。
単純に揚げ物ばかりだとちょっとね…。どのみち肉三昧になるのは確定してたから、メニューくらいは変えたかったのだ。
とは言えこちらも大好評。まるっと完食である。
やはり塩胡椒は偉大だなぁ。
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朝ご飯の後はお腹を休めてから、実験の時間である。
シリュウさんもここ数日は気を張っての移動だったから少し休みたいらしく、私の実験を見学するつもりのようだ。
まあ、角兎の血液を〈呪怨〉で鉄塊に変化させるだけなんだが。
単に私の血だけでは実験するには足りないから、死んだ生き物の力を借りて、色々挑戦してみるのだ。
シリュウさんが集めてくれた血が入った、大きな鉄壺の前に立つ。
鉄の槍の穂先で腕を軽く浅く切って、私の血を付け、その穂先を壺の中に差し込み準備完了である。
「では、いきます。」
──誓約 適応
〈鉄血〉発動。
私の血を混ぜた、角兎の血が巨大な金属塊に変化していく。
私の血を鉄にする時もそうだが、1滴の血が石くらいの鉄塊に変化するので、体積がかなり大きくなり重さも増える。
ただ、他の存在の血を鉄にするにはちょっと時間がかかる。私の血の鉄化速度には遠く及ばないので、ピンチの時に利用するにはちょっと難しいのだ。
とりあえず、切った腕は鉄で覆って止血しておいて…。と。
しっかし。ここだけ見ても明らかに物理法則無視してるよね。
E=mc²の法則を完全に超越している。
質量mの物体が内包する全エネルギーEは、光の速度cの2乗を掛けたものになるって有名な式。
光の速度そのものがとんでもないのに、それをさらに2乗した係数を掛けるから莫大な数値になる。
具体的に言えば、角砂糖1個ですらその質量を完全にエネルギーに変換すれば地球そのものが消し飛ぶレベル。まあ、この仕組みを突き詰めた結果完成したのが、彼の原子爆弾であることからも異常な威力があることは察せれる。
で、この方程式を逆に読むと。
地球を吹き飛ばす程のエネルギー塊を圧縮していけば、角砂糖1個くらいの『質量』が生じると言うことで。
この世界の魔法において、石とか水とかを生み出してる過程にどれだけのエネルギーが籠められているのか、とてつもなく謎だ。
どこか別の場所の物体をテレポートさせてる訳でもなさそうだし、どんな保存則が働いているのやら…。
体力の魔力と周辺空間の魔力が作用しているらしいけど…。
そして、魔力が関係しない私の呪いは、そこから更に意味不明だな、って話である。
液体を固体にするだけならまだ分かるけど、明らかに体積が増えてるしねぇ…。
有機物が溶けているとは言え、ほぼ水分子の塊を金属の鉄にしている訳だからねぇ…。
今ではもう、ただ結果だけを享受するだけだが。
そんな無駄な似非物理考察をしている内に、角兎の血液は全て鉄になった。
最終的には小屋サイズの鉄の「延べ棒」の完成である。
「…。これは、また…。凄まじい、な…。」
「まあ、確かに謎な現象ですけど、土魔法の岩石生成に比べたら何もかもが劣ってますよ~。
しっかし、魔獣の血だからか予想よりも一回り大きいかな…? まあ、実験に使える量が増えるに越したことは無いか~。」
「…。」
「とりあえずさっき言ったみたいに乗り物作っていきますね。まずは自転車もどきから、と…。」
「…。」
「シリュウさんは臼で小麦粉を細かくするとか、ゆったり椅子で休むとかしてくれて構いませんよ?」
「…。いや、確認しておきたい。このまま見ておく。」
「そうですか? まあ、声は掛けてくれて大丈夫なんで気になることがあったら言って下さい。」
「…。ああ。」
自転車を作る上で問題は2つ。
1つは、チェーンを作るのが恐ろしく面倒臭い。構造はまあ分かるっちゃ分かるのだが、それを実用レベルに作成できるかは微妙だ。
もう1つは、単純にタイヤ。つまりゴムが無い。この世界に似た物質が有ったとして、十中八九魔法素材だろう。私が利用できる訳が無い。
これらの問題は別の手段でどうにかしていくことになる。
具体的には──
「よし! まずは試作1号機、完成!」
タイヤは無く、車輪から何からオール鉄製の自転車を作ってみた。チェーンも無く、地面を足で蹴って進む形だ。地球で初期の自転車がこんな感じだったらしいから、なんとなくで真似してみた。
私の鉄でミニチュア自転車をまず作ってから、魔獣の鉄で実際に乗る物を構築してみるやり方で、とりあえずは出来たな。
魔獣の鉄は生成速度だけで無く、変形速度も遅く精度もよろしくない。考え無しに形を作るのは無駄に疲れるだけなのだ。
「タイヤが無いからかなり揺れるだろうけど、サドルに強力なバネを仕込んだから多少はマシなはず。兎も角まずは乗ってみて、データの蓄積だー!」
「…。」
「いざ!!」
鉄自転車に股がり、地面を蹴って、進んで──
進んで──
…。
まるで進まない…。
「うん。まあ、予想通り。地面は平らなアスファルトじゃあないし、車軸にベアリングも無いから回転の摩擦が強過ぎる。とりあえず股がってハンドルを握れたから良しとしよう!」
「…。」
「次はベアリング作ってみるか~? ん~…、工作精度的に私の鉄でやってみて…。あとは…。チェーンは面倒だし、ギア…を使ってペダルの力を車輪に伝えてみるか~?」
「…。(割りととんでもないことしてねぇか…?)」
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「試作2号機完成! ソロモンよ! 私は帰ってきた!!」
「…。急にどうした…?」
「いえ、アニメのネタなので、お気になさらず。て言うか、ずっと見てて疲れません? 別に面白くもない謎工作でしょう?」
「…。謎ではあるが、面白くはあるぞ。」
「そうですか? まあいいや。」
車軸にベアリング、採用しました。とりあえずスタンドを立てた状態ではスムーズにくるくる回る。
ベアリング用の真球を作るのには苦労した…。鉄の球を作るのは問題無いけど、それを完全な丸い形にできるかと言われたらかなり難しかった。日本ではどうやって作ってたんだろ??
更に、大きさを揃えて数を用意しなければベアリングにはならない。この作業だけで数時間は経った程である。
なので、魔獣の鉄で日除け用の小屋を作ってしまった。
屋根の鉄板はミルフィーユ的な複数の層にして空気を閉じ込めて、多少断熱効果を高めつつ、柱のみで壁を作らず風が通るようにした。
シリュウさんも小屋に入って、隅のゆったり椅子に座っている。
「では、いざ行かん!」
サドルに座り、地面を蹴る。
おっ! 進んだ!
全て鉄製の車輪が地面の草を踏み分け、蹴った勢い分だけ進む。
連続で蹴ればその分、進み続ける。
「よし! まずは第一関門クリア!」




