80話 唐揚げパーティー
「テイラ。こいつら全部カラアゲにしよう。」
黒い角兎との戦いの後、今は本日の拠点を設置したところだ。
あの角兎、この辺りだけで20数匹は居たらしい。
更に、離れた所にもいくつかの集団が居て、そいつらはシリュウさんにびびって逃げ出していたんだとか。
まあそれも、全力で追いかけた食いしん坊に諸とも捕まったけど。
50匹を超える角兎を解体し終わっての台詞がこれである。
「まあ、良いんじゃないですか…? 狩ったのも解体もほとんどシリュウさんだし…。」
血を見たくない私は、拠点付近の低木の枝を切ってひたすらに集めていた。
だいぶ夕方に近くなったし日光量も足りないので、薪が大量に必要だろうと思ったからだ。生の木そのままは煙がヤバくて薪にはならないけど、そこはシリュウさんの革袋に入れて一発乾燥で解決である。
「今回は内臓の処理は後回しだが、きっちり確保した。角兎のなら黒袋の中でもしばらく持つし、障気も消える。また焼いた肝が食える…!」
「ああ。そう言えば、肝が気に入ったんでしたっけ。
今回の角兎は黒いやつでしたし、食べてる物も異なるだろうから慎重に確認しながら焼きましょうね?」
「そうだな…! また違う旨味を持ってるかもな…!」
あんなに激しい戦闘をした後に、なんて純粋な目をしてるんだ…。
私の応援に来てくれた時にちらりと戦ってる所を見た。
角兎の突進を肩や足に受けてるわ、それで怪我はしてないわ、服も破れてないわ、あげく角を素手で止めるわ、掴まれた角兎は次の瞬間絶命してるわ、異常な光景だった。
硬化した角で突かれて無傷とか、お体がダイヤモンドで出来てるんですか…??
いや、ダイヤの硬さは引っ掻き硬度?とか言うのが高いだけで、衝撃にはまだ弱いんだっけか?
なら、お体がルビーで出来てるんですか…? が正解か。
…。
どうでも良くね?
戦闘が終わって冷静に考えれば考えるほど、頭が混乱していく。
これはもう無心で料理作るか。
ご飯だ、ご飯だ~! 久々の新鮮お肉だ~!
──────────
「ご馳走さまでしたぁ…。」
うん。本当に走り回って動きまくって手に入れたよね。
「ああ。美味かった…。まさか味を一段も二段も上げてくるとは…。流石だな、テイラ。」
「いやぁ、シリュウさんのマジックバッグの優秀さのおかげですよ~。」
移動中に考えてた、料理レパートリー増強計画が上手く唐揚げに活きてくれた。
シリュウさんの革袋に野菜が入ってると仮定して、色々聞いたのだ。こう言う感じのは有りますかとか、そう言う植物を知ってますかとか。
その結果、玉ねぎもどきとニラもどきが有ることが分かった。もちろんカラッカラに乾燥していたが、それを臼で挽いて小麦粉に混ぜてみたのだ。
まあ、結論としては玉ねぎもどきの粉末だけをそこそこ混ぜたのが風味良いとなったが。
ショウガもどきがあれば絶対マッチしたのになぁ…。
更に、長らく避けていたコショウの話題を再びぶっ込み、上手く話をつけて粉の胡椒を手に入れた。
イラド地方ではコショウは実のまま食べるとか言う話のやつだ。活用法など知らないし、シリュウさんに聞く訳にもいかない。だからこの国なんかでも一般的な粉で使う許可をもぎ取った。
日本で口にしてた胡椒とは風味も辛味も段違いだったけど、塩と混ぜれば抜群に美味しかった。
ここに、チート調味料『塩胡椒』が完成した…!!
いや、冗談ではなく、割りと真面目な話で。
この国は常に大荒れの北の海としか接していないから、塩を自国生産できないし、岩塩だって採れる場所は限られてる。胡椒なんかのスパイスもイラド地方からの輸入品だ。決して各家庭の食卓に雑に置いていい物ではない。
まあ、兎も角。唐揚げに塩胡椒はベストマッチだと言うことである。それが世界の真理。
そんな感じで美味しい唐揚げをもりもり食べて、色々意見を交えながらゆったりした食後を過ごす。
「角と毛皮は一応黒袋に入れたし、テイラが言ってた血も入れ物ごと仕舞ってるから、使う時は言えよ?」
「ああ~…。そんなのもお願いしましたね。無心で唐揚げ作り過ぎて忘れてました~…。」
「血は魔法の触媒に使ったりするが、テイラの場合は違うよな? 何に使うんだ? やっぱり料理か?」
「あ~…、そうですね…。ブラッドソーセージって言う血液で作る食材を聞いたこと自体は有りますけど、処理の仕方が分からないから遠慮したいですね。失敗したら食中毒一直線だし…。」
「…? なら、何に使うんだ?」
「ちょっと私の〈呪怨〉を利用して、移動手段を確保したり、できないかなぁ?と思って、まして…。」
「まぁた、突拍子も無いことをするのか…。」
「いえいえ…、まあ…。ハハハ…。」




