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73話 茶碗蒸しときのこ

 いやぁ、なんで思い出さないかね? 日本の蒸し料理と言えばこれじゃない?


 そう、茶碗蒸し!!



 あ、思い出した…。


 飲食店のバイト先で、バカみたいな量を作って嫌いになったんだった…。美味しい物は人気出るけど、蒸すのに時間かかるし器も専用のやつだから回転も悪いんだよな…。バイトに客がどれだけ注文するとかそんな予知できるか、っての…。

 ふふっ…。懐かしいなぁ…。シイタケを形良くスライスして…



「…。おい。興奮してたと思ったら、悲壮な闇が駄々漏れしてるぞ。良く分からんが、料理できるのか?」

「あ、申し訳ないです…。今すぐ取り掛かります…。」

「…。」


 ゴン!!


「痛い!

 …あれ? なんで叩くんです?」


「…。正気に戻ったか?」

「…え? あ、ちょっと昔に引き()られてました、ね。大丈夫です。」


「…。問題がある料理なのか? なんなら止めとけよ?」

「いえいえ。物そのものは普通に美味しい食べ物なんで大丈夫です。ドラゴン卵だから上手くできるかは不安ですけど…。」


「…。まあ、失敗しても口にできるなら許してやる。殻を割っても多少は保つから、どうとでも使いきれるし気楽にやってみろ。」

「了解です。やってみます。」



 シリュウさんに割って溶いてもらった大量の溶き卵を、普通のボウル一杯分だけ受け取る。残りはそのまま一旦仕舞ってもらう。


 関係無いけど、大きい物を黒の革袋に仕舞う時、革袋自体が広がって生き物みたいに物を包み込むのは何なんだろう…。

 こう…、好物の貝を食べるタコみたいな感じ…。


 サイズ変更して色々な物が入る様にしたやつとか、対象物を自動吸引するやつとか話には聞いたことあるけど。

 シリュウさんのマジックバッグ、多機能過ぎないかな…。


 実は何か生き物だったりしませんよね…??



 今、関係無いけども。




 …。調理しよう。



 用意したのは、溶き卵、板肉のスープ、そして塩。


 茶碗蒸しは、卵を加熱して固めることで出来る。それを出汁と塩で味つければ究極的には茶碗蒸しになるだろう。


 とりあえず、卵とスープの配分を変えた茶碗蒸しの液を、専用の鉄器にそれぞれ入れて蓋をして、蒸し器にセットする。


「シリュウさん。セット完了です! 発熱、お願いします!」

「…。ああ。」

「どれくらいで卵が固まるか読めないので、時々蒸し器を開けて確認します。とりあえず数分は蒸していきます。」



 さて、あとは待ってる間に具をどうするか考えておくか。


 カマボコは無いけど海の魚だからシリュウさん的に必要無し。

 銀杏は別に要らないから問題無し!(個人の意見です。)

 あと、何入ってたっけ…? 鶏肉…? 里芋は、違う?

 あと、なんか葉ものがあったような? 春菊? ほうれん草?


 シイタケもまあ旨味的には入れたいけど…。個人的な思いは関係無しに、それは無理なんだよな~。



 この世界にも『きのこ』は生えてる。形も育ち方もまぁ基本、地球と大きな違いは無い。


 だがしかし。この世界のきのこは()()()()()()()()


 毒きのこ、なんて存在しない。だって元から全てデフォルトで持っているんだから。

 腕が生えてるから、腕エルフ。目があるから、目兎(めうさぎ)。なんて言ったりしないのと同じこと。



 要するに、きのこは食材ではない。

 やむを得ず食べた人も居たらしいけど、死ぬ思いをしたか実際に死んだか、ともかく食べる人は居なくなったとか。


 エルド島にも生えていたけど、見つけ次第、殺菌消毒と言う名のピンポイント火魔法で焼かれる運命である。腐海の胞子かな?

 まあ、エルフの魔力が満ちてるところにはそもそも生えないのだけど。


 大陸では毒殺に使われる歴史が多々あったらしいから、違法薬物的な扱われ方をする。正に魔法の世界の、マジックマッシュルーム。と言う訳だ。ちょっと意味違うかな? まあ、気にしない、気にしない。




「さて、そろそろ様子見るかな…。時計とかタイマーが必要だな…。どうしようもないけど…。玉子料理は火加減と時間が肝だよね~。」

「…。俺もそっち行って良いか? 見てみたい。」

「大丈夫だと思います。確認お願いします。」


 蒸し器の蒸気を遮断、アンド余所に解放して、と。



 蒸し器の蓋を開ける。アームは熱くても問題無く持てるのが良いよね。生身の腕とは違(略)


 蒸し器の中の茶碗蒸しの蓋をそれぞれ開ける。蓋と鉄器にそれぞれ文字刻んでるから、どれがどの配分かは分かる。


「ん~…。卵多めはまだ固まってる途中。出汁多めは全然液体。あと3倍くらい時間必要かな~…。」

「卵焼きみたいに固まるのか?」

「いえ。ぷるぷるになりますよ。」


「…。ぷるぷる…?」

「えー、と。液体と固体の中間くらいの…。あ、それこそアクアの青い体みたいな感触になります。」

「…。は?」


 蒸し器の上でぽよぽよしてたアクアから触手が伸びて、私を叩く。

 だから、微妙に痛いって。



「アクア。別にアクアそのものは食べ物だと思ってないよ。つーか、やっぱり私の言葉の意図通じてるよね? 何で? シリュウさん今回は絶対通訳してないよね?

 今まで、水が欲しいって言った時以外はほとんど反応してくれなかったから、複雑な言葉は通じないと思ってたのに…。素クッキー食べてから翻訳機能でも手に入れたの??」


 ビシ… ビシ…


 だから、痛いって。私には何伝えたいのか分からんのだけど。


「シリュウさん。アクア、なんか別の意図で私を叩いてます?」


「…。俺を巻き込むな…。」




 蒸し器を稼働させること多分10分くらい。

 試作茶碗蒸しが完成した。


 蒸してる間、シリュウさんは蒸し器システムに熱を加え続け、アクアは座ってる私の頭の上でぽよぽよしてた。


 アクアの奴、誰も見てないところ限定だけど、時たま頭の上に乗ってくるんだよね。スライムボディをどう使えば私の髪の毛を引っ張らずに乗れるのか不明レベルで器用に乗る。

 多分今は私に上下関係を分からせるマウント取り的な意味で上に居るのだろう。


 鉄の巻き貝を背負っているからかなり重いが、身体強化で首周りを支えてなんとか耐える。


 まあ、普段からお世話になりっぱなしだからいいけど。


 見晴らしはよろしいですか~?



 完成した茶碗蒸しは、出汁多めだと半分液体のままで、卵多めと半々のは固まっていた。

 シリュウさんと私だけでなく、アクアまで食べるらしいので3人で試食タイムである。塩はまだ入れてないので、各自追加してください。


「ふむ…。卵多めが食感一番良いなぁ。味はドラゴン卵の旨味に、板肉のスープが負けてる気はするけど。

 シリュウさん、大丈夫です?」


 恐る恐る、茶碗蒸しを口に運んだシリュウさんに尋ねる。


「…。変わった食感だ、な…。卵焼きでも、スープでもない…。脂身が近い…か…? 慣れるのに時間かかるかもな…。」

「まあ、美味しくないなら無理なさらず。私が責任を持って──」

「いや。少なくとも不味くはない。ほぼ液体のやつも溶いた卵みたいなもんだしな。」


 シリュウさんと2人で、半分液体の茶碗蒸しを(すす)るアクアを見る。

 アクアの触腕がストローみたいに、ごくごくと茶碗蒸しをぷるぷるボディに吸収していた。


「まあ、液体っぽいのはアクアにあげましょう。」

「…。ああ…。」

「シリュウさん、藻塩かけてみます? 多分相性良いですよ。もう、これが最後になりますけど。」

「貰おう。」



 その後、卵の配分を相談して、良い感じのぷるぷる茶碗蒸しが完成した。

 アクアはかなり気に入った様だ。シリュウさんも、そこそこ楽しんでいる模様。


 ふむ。程よく成功だな。


 さて。いよいよ、移動開始である。

 目指すは北西。マボアの町!


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― 新着の感想 ―
好物が出てきて思わず感想を書いてしまいました。 ほのぼのと闇が同居するというか、入り混じりつつ前に進んでいくのが良い物語だなあと感じます。
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