72話 鉄おもちゃとぽよぽよ
あのあと。
シリュウさんがあまりにもピストンおもちゃを楽しんでいたので、鉄の遊び道具を追加してみた。
と言っても、単にダンベルと握力を鍛えるグリップ?的なやつだが。
ダンベルはただの鉄の塊である。握りやすいように、丸みのあるでこぼこや溝を作ってみた。
多分10キロくらいの重さを両手用に2つ。
まあ、これはシリュウさんには軽過ぎて多少微妙そうだったが。これ以上重いのは鉄の残量的にちょっと…。酒の樽とか岩塩を使って下さい。
グリップは、手に握り込んでにぎにぎするやつ。名前が分からん。
数字の6みたいな形のバネに2つの握りが付いてる。
これは単純にバネの力に逆らって握力を鍛える訳だが…。シリュウさんの握力が強過ぎて一撃でバネがイカれた。
なので、より頑丈に、針金って言うよりほぼ鉄棒って太さのバネで作り直してみた。正確には分からないけど、多分握力50キロくらいは必要なんじゃないかな。「かなり良いな。」とか言って余裕で握り込んでいらっしゃったが…。
まあ、ギギギって物凄い音鳴ってるけど…。壊れたらまた作り直せば良いか。
そんなこんなで夜になり、就寝である。
雨は日暮れ頃には止んでいたが、月明かりのないこの世界の夜に移動など危険極まりないので、普通はしない。
シリュウさんはこの暗さでも多分見えるだろうけど、私はね…。身体強化を目に使えば、気持ち夜目を強めることはできるが、腕はまだ痛いしね…。どのみち無理である。
翌朝。
シリュウさんは夜中の間、ピストンと延々押してたらしい。
…クリスマスプレゼントを手に入れた小学生か?
本気で子どもなんじゃと疑う行動するよね。
まあ、夜寝れない人には暇潰しは重要だろうけども。
ハ○レンのア○フォンスに近いとは思ったけど、シリュウさんは1人だし、長生きしているかもだから余計に孤独だったはず。
…昔は仲間が居たとしても今独りなんだから、喧嘩別れか死に別れした可能性もあるだろう。
まあ、私ごときが推し量れる人生でもない。
求められた物を提供できるなら、ただただ全うするだけだ。
きっちり乾いてた鉄小屋を回収して、朝ご飯の準備である。
このあとは移動しようと言うことになったので、しっかりと食べる。雨も止んで、腕も我慢できる程度の痛みになったから1度歩いてみるのだ。この感じなら腕に響くこともないと思うけど。
昨日は冷蔵庫の話を散々したから、昔の記憶が結構蘇って料理のイメージが湧きやすくなった気がする。新しいメニューをちゃちゃっと作れるかもしれない。さぁて、何作ろう?
鉄板に刻んだ食材メモを見ながら考える。
「んー…。朝日の光量が足りないから太陽熱は微妙。薪は少なめ。移動してから木を切って新しいのゲットが効率的か…?」
「できれば先に飯にしたいな。」
「ですよね~。私もお腹は空いてます。そもそも時間経てば太陽熱が使えるな。
ワンタンスープそのままは連続したからちょっと避けたい。…なら、蒸し器システム一択か。」
「ドラゴン肉、いくか。」
「んー、他に何か無いかな~…。蒸し器…蒸し器…。
小麦粉から蒸しパン…。どうやって生地を膨らますのかと。板肉や乾燥果実を蒸しても無駄…。餃子を蒸してみる…?」
「ギョーザは残り全部スープの中だ。そのままだと一瞬で乾燥するが、水精霊の水の中なら保護できるからな。スープが染みて美味いし。」
「…ああ。そっか。
んー、蒸し料理、蒸し料理~…。蒸しパン、肉まん、餡まん、カレーまん…。カレー食べたい…。いやいや。
焼売、小籠包…。中華…。炒飯、拉麺…。いや、米やかん水が…。んー…、麺料理を作るか…? 現状の素材だと、ワンタンスープと大差無いな…。作れるかも分からんし。んー…。」
「ドラゴン肉で良いだろ。」
「まだ、最終手段として残しておきたいですねぇ…。もうかなり少ないんじゃ?」
シリュウさんが黒の革袋を握りながら、目を閉じて考え込む。
「…。あと、塊が3つ、だけ、だと…。」愕然…
マジックバッグの中を探査してたのか。
「シリュウさんにとっては少ないでしょうし、温存しましょう?」
「…。そうするか…。」
「あ、今革袋の中を探査できるなら、何か使っていい食材とか有りません? そこから新メニューを考案したいです。」
「そうは言ってもな。ドラゴン以外の肉は、乾燥して、テイラが板って呼んでるやつしか無い。酒はまだ樽がいくつかあるが…、テリヤキ以外に使う気はしないな。岩塩は十分な量はある。これくらいだぞ?」
「いや、小麦粉とかいっぱいあるでしょう?」
「臼と篩で美味くなった小麦粉はほぼ使いきって今は量がない。粉もどきの粗いやつは料理に使えないだろ。」
「粗いやつも食べれないことはなかったですけどね。それに私、冒険者時代はスナムギってやつをよく食べてましたよ?」
「…。………は?」
「ん? 何て顔ですか? 変なこと言いました?」
「砂麦って言ったよな? あの、殻が堅くて脱穀しづらい、中の食える部分は小さくて、炊いてもかなり堅い、野生種の麦。だよな。」
「ええ。それで合ってますよ。いやぁ、トスラの近くに群生してましてね。穀物がただで取り放題! 貧乏冒険者には救いの恵みでしたよ…。」
「どうやって…あんな砂と変わらんものを…。いや、長くなるから、今は先に飯だ。」
「ですね~。んー、穀物を炊く…。いや、火も必要だし時間かかるからパス。…シリュウさんの革袋の中に野菜は入りませんよね?」
「無いことは無いが。完全に乾燥しきってるから、テイラには食えたものじゃ無いぞ。」
「それはそれで、使えるかも…。」
「そうなのか?」
「ええ。ビジョンは有りますね。まあ、研究しなきゃだろうし、今は無理かな…。」
「ならもう、ドラゴン肉を蒸すで良いだろ。蒸し器、出してくれ。」
「了解です。仕方ないか…。」
小屋を鉄塊に分離、変形・再構築して、と。
「アクア~。蒸し器するからお水、用意してほしい。」
アクアが顔を出して、私の腰から蒸し器に跳び移る。そして、シリュウさんが魔法の手を入れるタンクに水を注いでくれる。
相変わらず綺麗でぽよぽよした体だな~。ゼリーみたい。ハワイアンブルーの。
ゼリー食べたいなぁ。夏は冷したゼリーだよね~。
ゼラチンが手に入れば作れるけど…。ゼラチンってあるのかな?
確か、肉を煮込んで出てくるタンパク質、だった、気はする…。魚の煮凝りと理屈は同じだよね? 多分。
角兎のガラスープの時は何も浮いてこなかったけど…。体の構成物質の差かな…。
ぽよぽよ。ぷるぷる。
ゼリー。プリン…。
…。プリン?
確か プリン、って…
「その手があったあ!!」
「急になんだ!?
いきなり叫ぶな!!」
今はそれどころではないのだ!!
「シリュウさん!! 卵! 卵は有りますか!? 残ってますか!?」
「カツの時のやつか? あれは結局使いきったろう。卵は…。…残り1個だ…。」
「1個、有るんですね!? あの大きさからなら量は十分…! 普通の卵はそこらで都合良く手に入らないし、仕方ない!
使っても良いですか!?」
「…。随分興奮してるが、何なんだ?」
「美味しい蒸し料理を思い出しました!! 卵と出汁と塩があれば最低限、蒸し器でいけます!!」




