7話 勧誘と私の事情
「あんた随分教えるのがうめぇんだな?」
「そうですか?」
「自分の名前書けない奴に嬢ちゃんが文字教えてやがったぞ。発注書見せたら倉庫に何があるのか理解してたしな。」
「ここに有るものを中心に教えましたから。本人のやる気が高くて助かりますよ~。」
勉強を教えて始めて数日後。
今日は、山賊顔さんがスティちゃんに食堂の外の仕事をさせて、私に調理を手伝うように言ってきた。
やっぱり色々と言われるんだろうな~…。長居し過ぎてるもんな~…。
「あの馬鹿野郎も随分とマシになったし、他の連中もかなり充実した顔してやがる。」
「いや、それは…レイさんのご飯が美味しいからでしょう?」
「肉が獲れるのはあんたのおかげだろ?」
「いや、私は動物の解体とか全くできませんし。」
「そう言う意味じゃあねぇのは分かってるだろ? ちゃんと自分の手柄は誇るべきだぜ。」
随分持ち上げてくるなぁ。何が目的だろう?
山賊顔さんが、作業の手を止めてこちらを見て来る。
「──これからどうすんだ?」
「ん~、スティちゃん親子はまああれで大丈夫っぽいし、そろそろ移動しようっかなぁって──」
「ここに残る気はねぇか?」
は? 何を言い出してるの? この山賊顔は。
「領主の事業に素性も知れない余所者入れちゃあダメでしょう。」
「ただの現場作業にそんな堅っ苦しいもん要るか。俺が上に口利いてやれる。」
「私、犯罪奴隷みたいなもんですよ?」
「俺だって似たようなところを拾われた。ちゃんと働けば問題ねぇ。」
「…え? マジで元山賊?」
「張り倒すぞ?
借金苦から身を質に入れただけだ。」ちょい怒り…
しまったしまった。思わず本音がポロッと。
「字は書けるし料理もできる。挨拶もするし受け答えも問題ねぇ。敬語も話せてるから教育だって──」
「──私。人を殺してますよ?」
山賊顔さんが目を少し見開く。適当言ってると思われたかな。本当のことなんだけど。
「…、そこまで珍しいもんでもねぇだろ。」
ああ、他人にそんなことを話すことに驚いてるのか。
日本みたいに治安が良いところ、こっちじゃあ少ないもんね。人と人とのトラブルが悪い方に転がることはままある。
まあ、私がこの世界で人を避けるのは、もっと別の理由だけど。
流石に〈コレ〉は言えないし…、ねぇ…。
「まあ、アレですよ。私、男性が苦手でしてね。男ばっかりのところは居心地悪くて。
独りが好きな社会不適合者なんで。」
「…、」
「ここの人達は真っ当な感じで良かったですよ。夜中に寝室に来られたら、いつかの山賊どもみたいに擦り潰してましたから。」
ここの人達には離れたところに妻や恋人が居るから、人間的にちゃんとしてるんだろうな。
鉄の人形を作る事態にならなくて良かった。
「そんな訳で、私は、ここに居ない方が皆の為ですって。」
まあ、本音である。この人相手に嘘つくのもなんか違うし。
「…、ちゃんと挨拶はしていけよ。特に嬢ちゃんにはな。
黙って消えたら泣くぞ?」
あ、やっぱり? 黙って行くことも視野に入れてたんだが…。
「言っても泣きません?」
「なんぼかマシだろ。」
「はあ…。こうなりそうだったから、手紙渡したら、とっとと離脱したかったんだけどなぁ…。」
まあ、普通に引き下がってくれて良かった。
その後はいつも通りの調理作業である。
蒸かした黄色い大粒豆を潰して──
「おじさん! 作業場でなんかあったみたい!」
外に居たスティちゃんが駆けこんできた。