67話 異世界転生と季節
カミングアウトはもっと後にする想定だったんですけどね? なんでこんな早くにぶっちゃけてるんですかね? この主人公。
雨と、ポーション渡したウカイが悪い(暴論)
前回のあらすじ。
シリュウさんの地雷を踏み抜きにいった。
スペクタクルアドベンチャー開幕!!
どうなる私!!
「…。」がくぶるがくぶる…
「──。」
シリュウさんは真顔で私を凝視している。
これは、あれかな? 驚愕とか怒りが振り切れちゃってる、かな?
「テイラは──『イラドの転生兵』、だったのか?」
ん? なんかおかしな闇深ワードが出てきたぞ…?
「多分違います! 私は転生って概念を使って、私のことを説明したいだけです!」
「…??」
なんか私が聞いてはいけない国の暗部の話をされる前に、流れを元に戻す!
シリュウさんが混乱して恐い雰囲気が無くなった今がチャンス!
「私! 『異世界転生者』なんです! この世界・この星とは全く異なる人生の記憶を持ってます!」
「????」
よし、言い切った!
シリュウさんから危険な気配も消えたみたいだし、セーフ!
水、飲も~。
水筒に入れてあるアクアの水をごくごく、と。
「はあ。美味し。落ち着く…。シリュウさんも飲みます?」
「?? …。そう、だな?」
コップを作って、シリュウさんにアームで渡す。
一瞬で飲み干したね。
「アクア。お水、多めにちょうだい?」コンコン…
「落ち着きました?」
「なんとかな。」
「私の秘密の続きします? 新しい料理の話でもします?」
「…。この状態で、料理の話は気が狂ってるだろ…。」
「はっはっはっ。大丈夫です。元から狂ってますから! 何せ〈呪怨〉持ちですし!」
「…。本当になんなんだ…。」
「ちなみに、私はまだもう1つ大きな秘密を隠しています。この意味がお分かりですね?」謎ドヤ顔…
「頼むから、今冗談は止めてくれ…。」
「いえ、割りとガチで有りますよ? まあ、心の平穏の為にも言わないでおきますけど。」
「これ以上乱されるのかよ…。」
そうですね~。見る人が見れば気絶する物かも、ですね~。
「まあ、じゃあ異世界転生の話、しますか。」
「…。」
「って言っても、異世界から転生してきただけ、で説明終わるんですけど。」
「…。イセカイ、から来た、ってことだよな?」
「はい。異なる世界。異世界です。この世界での『転生』の考え方って…。あ、あくまでも、あくまでも!私がそう思ってるだけで実際は知りませんけどね!?」
ここはきっちり否定しておかねば! なんかヤバそうな軍事用語とは一切関わりございません!
「転生って、この世界の魔法使い──東の半島での呼び方は別物らしいですけど。ともかくこの世界の強い人が、技術や経験を持ったまま、この世界で新たに赤ん坊になってもう一度自分を鍛える、摂理を超えた秘術──って私は認識してます。」
「いや、それは──」
「いえ! 実際どうこうは関係ないです! シリュウさんが、『生まれ変わり』とか『前世の記憶』とかを理解していればそれで説明できるんで!」
「──。」
不味い。シリュウさんが真顔モードになりかけてる。
ここは、畳み掛ける!
「私! 地球って言う、魔法が存在しない、非魔種だけの星で生きてたんです!」
「…。魔法が、存在しない??」
良し! 気を逸らせた!
「はい! そもそも世界に魔力が有りません! 魔法とか魔女って概念は有りましたけど、おとぎ話の中に出てくる架空の存在でしたね~。」
「…??」
「太陽は1つだし、月──星の周りを回る巨大な岩、が空にあるし、季節で昼と夜の長さが変化します! そんな別世界です!」
「…???」
この世界、春夏秋冬の季節が存在するのに、昼の長さも夜の長さも同じなんだよね。
地球だったら地軸が傾いてるから、太陽との相対角度──地面にどれだけの密度で太陽光の熱が伝わるか──によって、暑い期間・寒い期間が生まれて季節になる。
太陽が高く地面に垂直に光が降り注ぐと、昼の時間が長くなるし、地面が温まって気温が上がり夏になる。これが普通。
それなのに、この世界は昼の時間・夜の時間が同じ、つまり恐らく地軸が傾いていない、のだ。
実際に計ってみた訳じゃあ無いけど、夏にも冬にも影の長さが変化しない。これで十分おかしいと気付く。
セル・ココ・エルドは、この星の赤道直下にあるみたいで、1年中、太陽が真東から登り真上を通って真西に沈む。気温差は無く常夏だった。
大陸に移動して3年過ごしたけど、1年中太陽はその地点で同じ道筋を通っていた。それなのに、四季の変化が生じていた。意味が分からない。
まあ、そんな常識の中で過ごしてる人達には、意味が伝わらないよね~。
「まあ、完全に異なる世界の記憶を持っている、狂人の夢物語とでも思っていただければ! 他人から見たらおんなじですし。」
「…。」
「え~と…。結論に戻ると、私の料理の知識はその異世界で作ってたものに由来するって訳ですよ。魔法が無いから、非魔種が世界中で長い年月をかけて色々な料理を考案して、それを私が多少学んだことがある、って感じです。
疑問は解消されました?」
「それどころじゃねぇ…。聞くんじゃなかった…。」
「じゃあ、シリュウさんにとっては…。そうだな。
夢の世界で架空の料理を作ったことがあるって言ってる狂人に、とりあえずこの世界に無い料理を作らせてる。ぐらいの認識で良いんじゃ無いですかね?」
「とりあえず、一旦黙ってくれ…。」
了解でーす。
お口チャックしてま~す。




