66話 自爆スイッチ、ポチッとな
今日はだいぶ雲が多い。
太陽熱の調理は無理そうだ。
「シリュウさん。今日は天気こんなですし、北に向かって移動しません? 鏡使えないし、幾分涼しくて動きやすいですし。」
「…。腕はまだ痛むか?」
シリュウさんが、胸前で固定してる私の腕を見ている。
「動く分には問題無いので大丈夫です!」
「…。痛むってことだな。待機だ。」
「いや、別に、気にしなくても…。」
「…。もしかしたらこの後は雨かも知れん。小屋を出して休養に当てた方が良い。」
「雨か…。分かりました…。」
こんな土地勘も無い林で、雨の中移動するのは危険だしね。冒険者は、兎にも角にもまず生存、ってやつだ。
大きめの木に固定する形で、鉄の小屋を展開する。
突風とかがあってもなんとかなる寸法だ。明かり取りの窓も作って、と。
「雨、どれくらい降るか分かります?」
「…。弱いが…、結構長く降るかもな。」
「ん~…。ゆったり椅子も作って、完全休日モードかな。」
ズキ… ズキ…
なんか無駄に腕が痛くなってきた。
「大丈夫か?」
「何がですか?」
「腕、痛むか?」
「…はい。まあ、多少。」
「神経の痛みは、雨の時に悪化するからな。」
「あ~…、バイオウェザーか…。」
「…。」
はあ、この後は私ポンコツモードだなぁ。
「腕の痛みが酷くて、耐えられないなら言え。少しどうにかしてやれるかも知れん。」
「え? そんなことできるんですか?」
「体の中の『流れ』を整える術でな。まあ、問題はあるが暇だし試すのも悪くない。」
「いや、問題があるならダメでしょう。これ以上迷惑かけられませんよ。」
「いや、モノは普通の整体術なんだが、直接触れるからな。一時的に痛みは増すだろうし、肌に触れるからテイラの呪いが発動するだろうってだけだ。」
「あ~…。それは、なんと言うか…。」
要するに、マッサージをしようと考えてくれてる訳か。
「お気持ちだけいただいておきます。マッサージするなら、自分でアーム使ってやれますから。」
「…。両腕使えない奴とは思えない発言だな…。」
しとしと、と雨が降り始めた。
雲はそんなに厚くないのか、そこそこ明るいから活動はできる。
でも、料理はできない。いや、薪があるから暖炉と煙突を形成すればやれなくも無いけど…。
シリュウさんは目を閉じて、椅子に深く座っている。
「シリュウさん。お休みになるなら、入る光減らしましょうか?」
「いや、いい。寝ることは無いから問題無い。テイラこそ、寝るなら好きにしろよ?」
「まあ、寝たい気分でもあるんですけど、腕の痛みが邪魔で…。──こんな雨の日は、絶好の読書時間なんだけどなぁ。」
「…。」
「寝ないんでしたら何かお喋りしません? なんか気分を紛らわしたいんで…。もしくはうるさくして良いなら、レシピでも書いてますけど。」
「…。話か。そうだな…。」
「これから行くマボアの町のこととか、シリュウさんが好きな料理とか、強い魔獣の話とか、なんでもいいですよ。」
「テイラは、──なんであんなに料理に詳しいんだ?」
「…え?」
シリュウさんは眠そうな無気力顔で、私の方を見ずに呟いていた。
「問い詰めるつもりはない。ただ、ひどく疑問でな。」
「…疑問、ですか。」
「ああ。料理ってのは極論、腹が弱い一般人達がやることだ。テイラは非魔種だから、料理に関心があるのは納得できる。
だがテイラもいつか言ってた様に、エルドには猪も兎も居ないんだろう? あそこは魚を食う文化のはずだ。ラゴネークやコウジラフで学んだのかも知れんが…。猪の冒険者焼きを知らない奴が、俺が食べたことも無い内臓の処理方法を知ってるのは、酷くちぐはぐだ。
テリヤキとかカラアゲもそうだな。この辺りに出回っていない砂糖の使い方を当然の様に知っていたし、高くて入手できないと言ってた油をスープの水みたいに使っていた。」
「──。」
「俺は美味い料理が食えて満足しているし、テイラが美味しいものを作ろうと取り組んでいるのも分かる。だからまあ、放置しても構わん疑問だ。思い詰めるな。」
まあ、思い詰めてる訳では無いんだけどね。レイヤの奴には話したことあるし、特に隠したいって訳でも無い。
まあ、良い機会かな。
「シリュウさん。私の秘密、話して良いです?」
「無理しなくて本当にいいぞ。〈呪怨〉はあんなに話したテイラが、今まで言ってなかったんだ。話すのが難しいんだろ?」
「難しい…。そうですね。証明のしようがないから、妄想の狂言と同じ、って言うか…。特にシリュウさんに説明するには、地雷を踏まないといけないから…。」
「…。何て言った?」
「ん…? あ、『地雷』か。
えーと、竜の逆鱗…。いや、接触発動型の一点集中・極大土魔法、って言えば近いかな…?? とにかくシリュウさんが触れられたくないことに、抵触する必要が、少し有ったり無かったり…。」
「なんだそりゃ…?」
ここは一気に言ってしまうか。
「えーと、シリュウさんが話題にしたくない、東の半島に。珍しい概念があるって聞いたんですよ。
『転生』って言うんですけど…。」
「──」
やべぇ…。シリュウさんが真顔でこっち見てる。すげぇ見てる…。
はっはあ! 髪留めの警報も鳴ってるね! この展開、予想通り!
やっぱりイラド地方の話題は地雷ワードだったねぇ!
腕が痛いのを忘れられるくらいの、スペクタクルアドベンチャー開幕!!
どうなる私!!
分かりませーん!!(泣)




