65話 1週間
「いっ…、つぅっ……、はあ…。」
翌朝。
鉄テントの中で、起きると同時に腕に痛みが走る。
昨日の午後は天気が悪いままだったから、餃子の具の研究をしたり、製粉作業に勤しんだりしてそのまま終わった。
この腕はいつになったら元に戻るのか…。動けるようになんないと、ずっとここで待機になってしまう。足手まといには成りたくないんだけどなぁ…。
シリュウさんは一刻も早く魔猪の肉を食したいはずだ。
私も川魚とか玉子料理とか、肉料理以外のものも食べたい。
サラダとかも食べたいなぁ…。でも、美味しい品種は貴族専用の畑にしか無いらしく、庶民が食べれるのは野生種の苦い・エグいやつなんだよなぁ…。
憂鬱な気分のまま、身仕度を整えて外に出る。
「起きたか。早速確認するぞ。」
「シリュウさん? おはようございます。何やってるんですか?」
「何って…。これだ。」
シリュウが座ってる前の作業台には、鉄の箱が2つ乗っていた。
この、箱に刻んだ文字は…!
「あ!? 鉄箱カツの実験!? なんかすでに懐かしい!?」
「懐かしいも何も。これらは1週間経ったら確認するって言ってだろ。忘れてたのか?」
「え…。もう7日経ったの!?まだ7日しか経って無いの!?!??」
「落ち着け。今日は6日目だろ。」
「え? あ? …あ。そっか。そうですね。」
「寝ぼけてるなら、先に朝飯にするか? 肉カスのワンタンスープなら温めてるが。」
「そうですね。そうさせてもらいますかね…。」
この世界、1週間が7日じゃなくて6日なんだよね。
よく間違えるやつ。
闇・土・水・風・火・光の6曜日。
要は、この世界の魔法属性6つに当てはめている訳だ。
闇から始まって光で終わるのは、地球の宗教のイメージで考えるとなんか不思議だけど、単純に未来に向かってより上位のものになるって考えらしい。
つまり、光が頂点として地球の科学的に考えると…
光 電磁波
↑
火 プラズマ(荷電粒子)
↑
風 気体
↑
水 液体
↑
土 固体
↑
闇 虚無??
って感じになるのかな?
まあ、光属性至上主義の国の天文観測技術がベースにあるらしいから、こうなるんだけど。
その国では縁起が悪いからって、『闇』曜日を『星』曜日に変えたりしたこともあるんだとか。
ギルドでも曜日はともかくとして、冒険者の格付けから『闇』と『光』を抜いて、『星』を足すくらいだから色々あるんだろう。
それに、月が無いから月曜日がある訳無いし、ある意味当然だよね…。
太陽2つあるから、日曜日が2回あったりしたら面白かったのに。
朝ご飯をいただいて、頭を起動させたところでいよいよ鉄箱カツの確認である。
「シリュウさんの革袋に入ってたやつと、入れずに持っていたやつ…。いや、懐かしいなぁ…。今ではシリュウさんの袋に私の鉄が入るのが当たり前みたいなってるからなぁ。」
「いいから、とっとと確認するぞ。」
鉄で覆うだけで常温放置していた方を開ける。
中には、綺麗な黄色と真っ黒な斑模様の、塊?が、有った。
カツの欠片の大きさが二回りくらい膨らんでいる。テニスボールくらい?
表面もケバケバしてるし…。色は虎柄…。いや丸い斑点だから、豹柄…?
…ナニコレ??
「こ、これはカビ…?? 2種類のカビが、生えた、の?」
「…。」
シリュウさんが、パカッとそのまま蓋をした。
手を頭に当てて項垂れている。
「シリュウさん。腐っちゃうのは想定内でしょう? あんまり落ち込んだらダメですよ。」
「…。」
確か焦げたカツを切ったやつが入ってたはずだけど、小さな欠片とは言えドラゴンの肉を無駄にしたのはやっぱりショックだったかぁ。
「革袋に入ってた方を見ましょう? …ね?」
「…。」
シリュウさんは変わらず無言のまま、もう1つの箱を開ける。
中には…カツだね。これは普通にカツだ。
「こっちは腐った様には見えませんね。障気は湧いてます?」
「…。いや…。大丈夫そうだな。」
「ふむ。予想通りか。…。そんでもって、かなり乾燥はしてるみたいですね。」
シリュウさんが、箱の中のカツを摘まんで、口に入れた。
「あ、やっぱり食べるんですね…。お味、大丈夫です…??」
「…。」ざぐざぐ…
咀嚼音が、なんかおかしい…。
「…。ふん…。加熱したせいかドラゴン肉ですら結構乾燥気味だな。コロモは駄目だ。ほぼ砂に近い。」
「成る程…。私の鉄は乾燥効果は少し弾いて、障気消去は普通に効く。と。
2~3日保つのが限界でしょうね…。料理を備蓄するには向かないか。」
「確かに保存には向かないが。水精霊の水があるからな。そっちを使えば問題は無いな。」
「あ、そっか。アクアの水ならシリュウさんの革袋の中ですら蒸発しないんでしたね。流石はアクア。良い仕事をする。」
「まあ、その水精霊はテイラが作る料理だからこそ、水を提供すると言ってる。必然的にテイラの鍋や皿が必須になるな。
俺の黒袋に料理が備蓄できる様になるとは、全くもって驚きだ…。」
「まあ、思い返せば特級ポーションの対価ですからね。お役に立てて嬉しいです!」
「…。まあ、いいが。」
「シリュウさん。カビちゃったカツは私が土にでも埋めましょうか? シリュウさん凄くショック受けてたから、あれをどうこうしたくないと思うんですけど。」
「…。あれ、な…。」
「まあ、実験で無駄にしちゃったのは私だし、責任は取りますよ。」
「…。少し待て。」
「? はい。」
はて? シリュウさんは何を悩んでいるんだ?
まさか謎カビだらけになってでも食べる気、か…??
「シリュウさん。いくらなんでもカビだらけになったカツは食べれないですよ…。」
「…。俺も流石に食べる気はしていない。ただ、な…。」
シリュウさんは鉄箱に目を向ける。
「…。これはとりあえず、このまま確保する。良いか?」
「確保、ですか? 良いも何も特に無いですけど…。」
「これは次にウカイが来た時にでも渡すか…。
この箱の形を変えてくれないか? 持ち運べる様にしたい。」
良く分からないが、革袋には入れずに運ぶらしい。
鉄箱を変形させ、腰のベルト紐にかかる感じにしてシリュウさんに渡した。カードゲームのデッキでも入ってそうなビジュアルになってしまった。
あの豹柄カビ、薬にでもなるのかね…?
作品中の時間で恐らく6日目のはずですが、計測間違ってたらごめんなさい。
まあ、大筋の流れは変わらないし、問題は無いはず無いはず。




