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62話 鉄細工贈呈

「ご馳走様でした。」


 アームで合掌する。

 いやぁ、ワンタンスープ美味しかったぁ…。


 今回のスープには具有りワンタンだけでなく、シリュウさんが狩った猪肉が入っていた。

 投入前に一度、香草をまぶして焼いてあるお陰で獣臭さが抑えられてかなり美味しくいただけた。この国の冒険者が良くやる組合せらしい。勉強になる。


「もっと食べた方が良くないか? 減った体力を回復させるにはもっと肉を食え。」

「私の胃袋が消化できる限界なんで、もう結構です。

 お2人とも。ちょっと実験と言うか何と言うか、ともかくこの後時間くれませんか?」


「ええ、よろしいですよ。」

「なんか鉄を腕輪からずっと出し入れしてたみたいだが、調理器具か?」

「シリュウさんにはその方が良かったか…。まあ、いいや。とりあえずそれはまた今度で。

 とりあえず、ウカイさんには何かペンダントでも渡そうかなと思ってまして。」


「装飾品ってことですか?」

「はい。色々失礼なこともしたし、腕の治療もできたし。ちゃんとお礼はしておこう、と考えまして…。私が渡せるのなんて呪いの鉄しかないんで支障が無ければなんですが…」


 私は台の上に、首から掛けるチェーンと数種類のシンボルを取り出す。


「これは造りが細かい…。洗練(せんれん)されてますね…。そして、おかしなのも有りますね…。」

「可能性は低いですけど、また呪具に狙われた時のことを想定しまして。ペンダントで首から掛けてればいつでも頭にぶつけれるかな?と考えた次第で。」

「成る程…。だから小型のハリセン?ですか。

 こちらは普通にギルド紋章ですね。細工師が工房で作った様です…。

 あの、これは…?」


「ああ。それは私が考えた『鬼』の顔です! なかなか迫力あるでしょう? それを見たらあの世の鬼も怯えて逃げ出すから魔除け──じゃないか。鬼除けにもなるかな、と。」

「確かに恐ろしい造形です…。」

「無駄に立体的で、厳つい顔だな…。良くこれを素面(しらふ)で作れるな…。」

「ウカイさんを守る為ですから、きっちり作り上げましたとも!」

()めてねぇんだよ…。」


「まあ、魔法を弾く鉄だから、邪気霧散の魔法刻印なんかしても無駄だし、魔力流して硬化させる防具にも出来ないし。色々考えた結果、姿形にこだわっただけですよ。

 あ、そうだ。こんなのも有ります。」


 腕に付ける形の小型の盾を出す。



「盾ですか?」

「はい。魔力で硬化強化はできませんけど、敵の(はな)った魔法をかなり防ぐことは出来ます。一応有用かな?と考えまして。」

「それはまた。程度次第で使えそうですね。」

「シリュウさんの魔法の手の熱はほぼ遮断しましたね。」


「え…。アニキの異常魔力を…?」

「確かに防げる。ただ、この盾はウカイには使えないかもな。」

「やっぱり、邪魔ですかね?」

「そうだな。ウカイの、物を軽くする魔法を弾くから鉄の重さ分で動きが鈍るはずだ。相性が良くないな。」

「いや、アニキの魔力すらを防げるなら利点が勝るのでは?」

「ウカイ。これ、マジックバッグに仕舞えるか?」


 ウカイさんが、盾に手を触れる。

 そのままじっと、多分魔力を流して馴染ませようとしているんだろう。


「駄目そうです…。」

「だろうな。出し入れできないんじゃ使えないだろう。ペンダントは良いんじゃないか? それなら亜空間に仕舞う必要もない。」

「そうですね。アクセサリーの形なら服に隠せて緊急時に取り出しやすいです。」


「ふむ。なら、シリュウさんはこの盾要ります? 私の鉄をマジックバッグに入れれるの、シリュウさんくらいな気がしますし。」

「いや、要らん。防具なんざ価値は無い。いくらテイラの鉄に擬似的な魔法耐性が有っても、そもそも俺が持つ耐性で十分だからな。」

「そうですか…。じゃあ、同じ理論で武器も必要ないですね。短剣とか槍とか弓矢とか有りますけど。」

「確か角兎の毛皮を切れるんだったよな? 少し興味ある。」

「なら、短剣を鉄鞘付きで渡しますね。」

「ああ。頼む。

 …しかし、さっき弓矢って言ったよな? 矢はともかく、弓は金属じゃ()()()が足りないだろ? 意味なくねぇか?」

「かなり工夫するとこれが案外ちゃんと弓になるんですよ。ご覧になります?」

「…。見よう。」


 昼間に作ったバネ弓を取り出す。

 呪い女に使ったやつに比べると一回り小さくしたけど、バネを気合い入れて作ったから張力は結構な具合になっている。

 むしろ、バネが強過ぎて取り付けるのが大変だったから弓を小型化させた、が実状なのだが。


 シリュウさんはバネ弓を手に持って、鉄の弦を引く。

 おお~、軽々と引っぱるね。私の生身の腕で身体強化をかなり掛けてようやく、ぐらいの固さになってるはずのバネなのに。


「確かに弓になってるな…。しかし、これはまた珍妙な構造物だ…。」

「あれ? バネ…、その、金属を細長くぐるぐる巻いたやつですけど、この世界(せか)──大陸。でも見たこと有るから珍しくは無いんじゃ?

 シリュウさんも座ったことがある、鉄のゆったり椅子にも使ってましたよ?」

「…。ギルドの輸送技術開発辺りで、この形のバネは見たことあるが…。全体金属製の弓をバネで成立させてるのは大陸のどこにもねぇだろ…。」

「そりゃそうですよ。普通は魔木を特殊加工したり魔獣の髭から弦を作ったりする方が、何倍も軽くて強いですもん。私は鉄しか無いが故の苦肉の策です。」


「本っ当に頭の構造が正道から外れてるな。これで魔法が使えれば恐ろしい使い手になったろうに…。」

「ハッハッハッ。持たざるが故にこうなったんで、それはそれで平凡な人間に成ってただけですよ。

 ──成りたかったなぁ…。平凡…。」ずぅぅん…


「…。突然、暗い雰囲気を出すな…。切実過ぎてこっちまで気が滅入る…。」

「すみません。腕が痛いせいか、なーんか暗い方に思考が傾くんですよね~…。」


「テイラ嬢…。

 この鬼のシンボルのペンダント、いただきたいです。よろしいですか?」

「え? 冗談のつもりで作ったから一番選ばれないと思ってましたけど。」

「いえ、鬼除けって響きがとても良いです。これから首に掛けさせて貰います。」

「了解です。サイズとか付け方とか、調整できますから言って下さいね。」




 ──────────




「ウカイ、道中気を付けろよ。」

「もちろんです。」


 ウカイさんは夜遅くになってるのに、出発するらしい。私は肘掛け椅子に座ったままでお見送りである。


 夢魔族だから活動には問題無いらしいけど、大丈夫かな?

 半分以上、私のせいで遅くなった気がする。


「明日の朝に出発とかの方が安全じゃ?」

「いえいえ、むしろ夜空の方が襲撃なんかもされませんから、安全ですよ。私は夜でも昼間同様に見えますから。」


 サングラス付けてるのに、本当に見えてるの?

 魔導具の灯りに照らされたサングラスの男とか、世○も奇妙な物語でも始まるんです? 不気味なんですけど…。



「本部にバカギルマスの仲間が居る可能性も有りますし、到着してからも気を付けてくださいね?」

「…善処します…。」

「シリュウさんに砂糖を持って来る前に力尽きたら、あの世にシリュウ(おに)が出て来ますから、全力回避して下さいね!!」


 ゴン!!


「ちょっ!? 腕に響くから叩かないで!?

 それに、割りと事実じゃ──」


 ゴン!!


「2度もブッたね!? 親父にもぶたれたことないのに!

 ──それ以上のことはされてるか。ふふっ…。」暗黒微笑…


「いきなり、恐ろしい雰囲気を出すな…! 本気で鳥肌が立ったぞ…!」

「あ、すみません…。何でも無いので安心してください。」


「…。ウカイ。頼むから生きろ。そして、テイラをなんとかしてくれ。」

「この後、国に帰るのも良いかも知れませんね…。」遠い目…

「──良いですね。帰る場所が、有って。ふふっ…。」再暗黒微笑…


「ウカイ…。」


「女王様…、自分…本当に何かお気に(さわ)ることをしましたか…?」不幸だ…




「まあ、それはともかく! 本当に気をつけて。また会いましょう!」突然切り替え!

「…。」

「──。はい。そうですね。

 では、また。」


 苦笑したウカイさんはフッと飛び上がって、夜の闇に消えていった。


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